トロンボーン吹きの夏物語

夏の物語

夏の力とリュウの力

「待って土田さん、そんな、リュウは土田さんを利用しようとか、そんなこと全く考えてないよ」
慌てて甲斐田くんが立ち上がった。
わたしが感じたこと、甲斐田くんには伝わっていた。
急にわたしは恥ずかしくなった。リュウの心配をしていたかっただけなのに。
思わずうつむいてしまった。

うつむいたわたしの頭に、何か軽いものがやさしく触れた。続いて、温かくて大きなものがやさしく触れた。

「土田さん、本当に来てくれてありがとう。きっと、部活休むのも、大変だったよね。リュウもクロもシロも、波長の合う土田さんと出会えてうれしいんだ。だから……」
甲斐田くんの言葉に、やっと顔を上げる。
わたしの頭には、クロとシロが乗っかっていて、リュウの前足はわたしの頭をやさしくなでていた。
「ううん、ごめんなさい。リュウが元気になってくれて、わたしもうれしいの。それはほんと」
クロとシロはわたしの言葉を聞いた途端飛び回りはじめた。

「夏さん元気？」
「リュウは元気だよ！」
「もうみんな元気だ！」
「元気だ元気だ！」

わたしは思わず笑ってしまった。
「ごめんなさい、ほっとしたら、なんだか要らないこと気にしちゃった。リュウもクロもシロも、みんなそんなつもりないの、わたし自身がよくわかってる」
「夏さん、ありがとう」
リュウは優しく微笑んでいる。甲斐田くんも安心した表情だ。

「夏さん、お詫びにと言ってはなんなんだけど、ちょっと、見せたいものがあるんだ」
リュウは優しい微笑みから、いたずらっ子の笑顔になった。
「え、リュウ、できるの？」
甲斐田くんは何が起こるか知っているらしい。
「うん、僕も回復したし、夏さんと一緒なら、できると思うんだ」
リュウは心なしかわくわくしているみたい。

「え？何？」
わたしもわくわくしてきた。