Dom様の飴と鞭

黒瀬 燐斗

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「おはよう、晴兎くん」
「…」
「はるくん」
「…はよ」
「はいおはよぉご飯できてるよ」
「ッチ」

イライラする。朝から身体がだるいしいつもは食欲がそそられる朝ごはんの匂いも食欲がない今はただただ不快にさせる材料にしかならない。
それもこれも自分の忌々しいsub性のせいだ。この世界には男女以外にもダイナミクスと呼ばれる第二の性がある。ほとんどの人がnormalという特に特別な欲望を抱かない性別な中、dom はsubを支配したい、甘やかしたい、お仕置きしたい、subはその逆で支配されたい、甘やかされたい、お仕置きされたいなどの本能からの欲求を抱えている。いわばdomはSMで言うS、subはMのようなものだ。ただ、このダイナミクスにはSMとは大きく異なることが一つある。それはこの欲求を満たさないと欲求不満を起こし、体調を崩してしまうと言うことだ。その症状はイライラしたり、眠れなくなったり、体調が悪くなったりと人によりさまざまだが、その性質は主にsubの方が出やすく、晴兎は今まさにその状態なのだ。

「ねぇ晴兎くん」
「…あんだよ」
「僕に言うことなぁい?」
「…」

目の前でニコニコ人受けのいい顔をして俺を見つめてるのは俺のdom 蓮さんだ。普段は特になんとも思わない喋り方にも今はただ嫌気が指す。ただの八つ当たりだとはわかってるが、嫌な態度をとってしまう。

「別に」
「そう…」

少ししゅんとした蓮さんに負い目を感じながらも謝る気にはなれなかった。今日は授業が午後からなので午前はベッドの上でゴロゴロしようかなと考えながら朝ごはんを平らげた。体調が悪くてもお腹は減ることに苛つきを覚える。


「ねぇ

肌がピリッとして振り返ると俺の方をじっと見ている蓮さんと目が合った。返事をしようとしたがその声は言葉にならなかった。

「…ッ」
「今日は授業午後からだったよね?」
「…」
「晴くんお返事は?」
「…うん」
「そう、じゃあたくさんお話しできるね」

人受けのいい笑顔を貼り付けた顔はそれでも目は笑っていなかった。晴兎は冷や汗を浮かべながらやってしまった、と思った。
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