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93 また増えた……

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 港町ミンファ。
 私がガーランドの国に降り立った最初の港町である、近くの飲食店ではこれから別れる人や再会を喜ぶ人などが多数見受けられた。

 で、人目を避けるように私は端の席について、これまた人目を避けるように座っている男へと尋ねる。


「ええっと……言ったのは私だけど本当にいいの?」
「むろんだ、エルン様には何度も助けて貰った。
 これからは召使い、いや、召使いは居るのだったな……馬番でもなんでも使ってくれ」


 いや、馬なんて面倒な動物、飼ってないけど……。
 そう思いながらも、なんでこんな状態になったのか考える。

 私の怪我が治り、いよいよ帰ると伝えたのは数日前。
 私は松葉杖を振りかざし、お茶会にいるメンバーに伝えた。
 お茶会のメンバーは、私、アマンダ、コタロウ、パトラ女王、シンシア姫、ヘルン王子、ガルド元隊長だったはず。

 ◇◇◇

「と、いうわけで松葉杖も要らないし、明日辺りにはお暇使用かと」
「「「えええええええ」」」
「シンシアとパトラ女王はわかるとして、なんでコタロウまで驚くのよ」
「エルン殿が居ないと、王宮にいる理由がなくなるでござる」
「コタロウさま。ご友人のパスを出しておきますので何時でも遊びに来てください。いいえ、良ければ毎週決まった日にお茶をしましょう。お城も寂しくなりますし。
 でも、メイドの部屋に足が滑ったと入るのは『もう』駄目ですよ」
「さすが、パトラ女王さまでござる。さ、エルン殿さっさと帰っても大丈夫でござる」

 私は無言で松葉杖を掴むと、コタロウが射程範囲から逃げていく。
 まったく…………まぁ、寂しくは無いといえば嘘になるけど、コタロウとはここでお別れだ。
 なんでもいつの間にか亜人の組合の係員になったらしく結構忙しくなるそうだ。
 シンシアの誕生日会の時に伝手を大量に作ったらしい。

「じゃ、アマンダ帰りもよろしく」
「あーエルンちゃん帰りは無理にゃ」

 アマンダに拒絶され、ヘルンが横から喋りだす。

「アマンダはこちらに譲ってもらいたい。
 錬金術師を…………捕まえ、第二王女も保護はしたが、今だ何があるかわからない。
 シンシアをグラン王国につれていく時に腕の立つ人間がいる」
「なるほど、じゃぁしょうがないわね。じゃぁ適当に一人で帰るわよ」
「それも困る」
「はい?」

 理由を聞くと一応使者である私を、ひょいひょいと一人で帰らせるのは不都合があるらしい。
 わからなくもないけど、こういう所って貴族は面倒よね。

「君、いま面倒な顔をしただろう。不都合なのは表向きの理由で、君が歩くとちょいちょい問題が起きる」
「なっ! 人を厄病神みたいに言わないでくださる!?」

 私は直ぐに抗議したけど、なぜか周りの人間数名が納得した顔をしていた。
 解せぬ。

「で、じゃぁ誰と帰ればいいのよ。一応はその人の都合もあるでしょう」
「おや、話が早くて助かる、パトラ女王どうぞ」
「はいはい、続けさせて貰いますわ。
 エルンさま、よければガルドを雇って欲しいのです」
「私が!?」

 私はパトラ女王とシンシアの後ろで直立不動で立っているガルドを交互に見る。

「はい。ガルドさんは隊長の座を降りて現在は任が何もありません。それに…………」

 パトラ女王はガルドのほうをみる、釣られてみるとガルドは口を開けた。

「自分で話そう。過程はどうあれ俺はパトラ女王に剣を向けた、証人も沢山あり城の外部では一級犯罪者と言う者もいる当然だ。
 打ち首はもちろん受け入れよう。だが、暫くの間国外追放という甘い寛大な処分を受けた」
「なるほど」

 何がなるほどなのか解からないけど、何となく解かった。
 つまり雇用主を探しているわけね。

「別にいいけど……本当にいいの?」
「構わない」
「ガルドお兄さまの新しい仕事場がエルンさまの所なんですね、素晴らしいです!」
「いや、シンシア。ガルド君はきっと逃げ出すだろう、なんせエルン君の下だ、激務と理不尽で三日も持たない……なに、その後は冒険者にでもなるといい紹介状を書いておこう」
「どういう意味よ!」
「大丈夫だ、無能すぎて首と言われるまで仕える」
「人をどこぞの親玉みたいに言わないでくださる!? 心外なんですけどー! これでも最近は門兵にも評判はいいのよ」
「ぐふふ最近でござるか?」


 ◇◇◇

「で、何の話だっけ。コタロウを的にしてダーツをした話だっけ?」
「あれで喜んでいたのはエルン様だけだな……周りはドン引きしていた」
「そうかな、シンシア辺りは喜んでいたし、なんだったらコタロウも、絶対に股間に当てたら駄目でござるよ? とパトラ女王のにフリを振っていたけど。パトラ女王もあらあらと笑顔だったけど」
「あれは…………その返答に困る。
 何度でも言う、エルン様に忠誠を誓おう、先に渡した書類通り俺の命はエルン様にゆだねる。
 不都合があれば城や王宮にだしてほしい両国で俺の首を何時切り落として書類だったはずだ」

 ガルドのの両腕はを見る。
 包帯で巻かれており、出発前には本当に腕が生えてきた。
 ただ、筋肉は完全に戻っていないらしく今は敏腕の兵士から、そこそこの兵士の力しかないと真顔で教えて貰った。
 冒険者に転進したとしても、そんなに強くは無いだろう。

「だから、私に忠誠を誓ってもらってもね……シンシアはどうするのよ。好きだったんでしょ?」

 そう、ガルドは極度のシスコンだ。
 なんでも、先祖返りしたシンシアの性格に惚れ、シンシアの守護騎士まで上り詰めた元王子だ。

「シンシアが幸せなら、ヘルンに譲ってもいいと思っている。ましてや俺はシンシアの兄でありながら、シンシアには何も贈る事が出来なかった。
 伴侶はシンシアが決めた事、俺が口に出す事ではない。それにエルン様よ」
「何?」
「仮に俺がヘルン王子を認めなく、シンシアにアタックをかけたとしよう」
「うんうん」
「その後に待っているのは、泣き出すシンシアと混沌しか見得ない」

 確かに。
 シンシアはガルドの事を兄として好きみたいだし、意味がわかってるか謎だけど伴侶としてはヘルン王子を慕ってる。

「まぁしょうがない。馬は居ないけど……召使いとして雇うわ。
 直ぐに首にすると色々と面倒そうだし」
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