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96 一日目

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「よっしゃ! 一万本の手配おわったでえ、まずは半分持ってきたあで」
「了解。ガルド、ミーティアから受け取ったホットドックを学園に持っていって。
 ノエも手伝いに行っているから三千本ほど持っていっても大丈夫」
「了解した」

 ナナは学園祭で一日三百本で三日間合計で約千本売る予定だったらしいけど、あまい。
 それじゃ利益だって精々白金貨四枚40万ほどじゃない。
 仮に売れなくても、それぐらいの損失はカバーできますのでと、言っていたのを私が押し切った。

「売るのよ! 売って売って売りまくるのよ!」
「あんさん、燃えてるのええけど支払いのほう宜しくなー」
「っと、わかってるわよ、ええっとパンとソーセージ五個で銀貨一枚だから」
「手間賃と職人に渡す分も忘れへんだろうに?」
「わかってるわよ白金貨二十五枚250万で足りるわよね」
「おおきにさかい」

 売り切ればなんと白金貨四十枚400万の大もうけだ。
 なんだかんだで、以前宝石を売ったお金と、迷惑料としてもらった分がまだ残っている。
 仮に失敗しても、元から無かったと思えば……と説明したんだけど、ノエは青ざめていたわね。

 売り上げは、ここは仲良く半分。
 ノエとガルドも居るんだし四等分しましょうと言ったら、二人からは辞退された。
 月給も沢山貰っているので。余計な気遣いは平気だ。
 と、説明されたのだ。

 で、そこからは町で評判の商人ミーティアに連絡を取って、材料の追加を緊急発注。
 全部の準備が出来たのはなんと前日というギリギリだった。

「世の中お金よね」
「なんや突然……当たり前といいたいけどな、結局は人徳や」
「って事は私には人徳があったと」
「あんさんじゃのうて、ナナにあったや! で、本気で売れると思っているのん?」
「まぁそこは売るわよ、こんなのゲームと一緒黙っておいても売れるのよ」
「商売はゲームとはいうけどなぁ……」

 納得行かない顔のミーティアを横目に私も明日に備えて動くのであった。



 ◇◇◇


 何時もと違い関係者入り口から私達は学園へと入る。

 正面玄関前には多数の馬車が止まっており、中には貴族がいるのだろう。
 一般人と貴族の混合入場は明日から二日間だ。

 普段入れない学園に入れるというので、町全体が浮き足だっている。
 やっぱゲームだけじゃわからないものね。
 なんで、あんなに売れるのかしらって思ったらそういうカラクリもあったとは、しかも図書館も開放されているので知識を求めて来る人も多数いるらしい。

 さて、こっちの学生組はというと顔色が不健康そうなのに、表情だけはイキイキしているから、ちょっと怖い。
 行った事が無かったけど、同人誌即売会のスタッフや売り子もこんな顔だったのかしらね。

「エルンさーーんーーーーー」

 中庭に差し掛かった所で一角から、ナナが私を呼んできた。
 様々な模擬店が並ぶなか、ナナが走ってくる。

 私の周りにいた生徒が、唐突に離れていく。 解せ……いや、解せてるからいいけどさー。
 蜘蛛の子を散らすように逃げたけど、私と気づかない君達も悪いよ、うん。


「――ん。エルンさん?」
「ああ、ごめん、考え事していたわ。で準備は?」
「はい、残った材料は開き部屋を借りましたので、そちらに。
 それにしても売れるんでしょうか……?」
「売れなかったら買い取るから平気よ」
「うう…………胃が痛いです」


 ゴーン。

 ゴーンゴーン。


「あ、門が開いたみたいよ」
「が、がんばります!」

 なお、今回私達が使うのアイテムは『絶対安全焼くんです改』である。
 外見は大きな四角い箱であり、上部分がフタとして開く。
 中には網があり、そこに材料を載せてふたをして、まつ事二十秒。
 こんがりと焼けた品物が出てくると言うわけだ。

 『絶対安に全焼くんです』のレシピは、図鑑で調べた。
 燃え続ける火口石・火の中和剤・燃えない網・水の中和剤・土の中和剤・サラマンダーの鱗・ヒッポグリスの羽・精霊結晶だった気がする。

 こんな便利なものが、なぜ普及しないのかと言うと一回焼く度に中和剤各種をソコソコ使うから。
 ナナみたいに大量に、しかも、高品質の中和剤を作れる錬金術師がお抱えじゃないと赤字になるのだ。

 ちなみに『絶対安全に焼くんです』の一号機は調整ミスから燃えて灰になった。
 安全とは一体……。
 今回はそれを改造したナナオリジナルだ。

「エ、エルンさん!」
「な、なにっ!?」
「人が来ました!」
「そりゃくるでしょうに、じゃ焼き始めるわね」

 最初に来るのは貴族組だ。

「いらっしゃいませー」

 ナナの上ずった声が聞こえると、どこかで聞いた声が返って来る。

「い、いっぽん貰おうか」

 ん? 聞き覚えのある声に思わず顔を上げると、木製のコップに麦酒をもったパパが居た。

「ちょ、パパっ!」
「え、エルンさんのパパさんなんですか!?」
「ああそうか、ナナは初めてよね」


 私の紹介とともに二人とも自己紹介を始めた。

「って、なんでここにいるのよ」
「いや、学園祭だろ。もしかしたら、いい人材やお前に会えると思ってな」
「まぁいいわ、ホットドックを売ってるの一本買って行ってよ」
「もちろんだ。三本ほどもらおう」
「ありがと。金貨六枚です」
「ぶほっごほっごほ…………冗談だろ?」

 私は笑顔を向ける。
 適正価格というやつだ。貴族からはふんだくればいい。

 と、思ったのだけど…………パパの周りに居た入場客が、ぼったくりや悪徳商売、通報場所は何所だとか聞こえてきたので、再度笑顔を出す。


「冗談よ。一本銅貨七枚700円十本買ったら銀貨五枚5000円今看板を出すから」
「エルン様、看板を持って来た」
「っと、おかえりガルド。目立つ所において、あとこっちが私の父親、ガルドもはじめてよね」

 ガルドが看板を出すとパパに挨拶をする。
 パパも私の使用人なのに、丁寧に挨拶を始めた。
 何所で雇われたとか、いきさつはとか世間話をしている、その間にもホットドックを焼く私。

「ほう、なるほどなるほど……かのガーランド国の」
「俺の王位も役職も既にあてにならないとおもうぞ旦那様」
「結構結構、すなおな所が気に入った。良ければ養子に来ないか?」

 ぶっは。
 今度は私がむせた。
 焼きあがりを包み作業をしていた手が止まってパパを見る。

「…………面白い冗談だ。カミュラーヌ家では使用人に家を継がせるのか」 
「なに、家を継ぐ娘がコレだ。いよいよ養子を考えていてな」

 本人の前で言う話ではないだろうと思っても一応口を閉ざす。
 だって、口を開いたら最後『じゃぁ相手はいるんだな?』と聞いてくるのが想像出来るからだ。

「今の俺は、コレと言われてるエルン様の使用人だ。返答は差し支えて頂く」
「ふむふむ、なに気が変わったら教えてくれ。その時に別の者が家を継いでいるかもしれないが、別な役職は保障しよう。ではエルン、パパはいくけど泣かない様に」
「はいはい、さっさと行きなさい、シッシ」

 悲しそうなするパパを排除して、次々に焼き続ける。

「ナナ、なんでニヤニヤしてるのかしら?」
「別に、エルンさんが嬉しそうとかそんなのは思ってなくてですね」
「叩くわよ、ほら次のが焼きあがったわドンドン売って頂戴」
「は、はい!」


 一日目が終わり。
 結局三千本売り切った。
 再度買いに来たパパに言わせると、こういう下賎な食べ物は珍しいのだそうな。
 確かに貴族が買い食いとかすると、周りに止められるものなぁ……私は全然きにしないけど。

 二日目の朝、私は思いつめたような顔のディーオに呼び出された。
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