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【第50話】ふくにぎり、王都の饗宴へ
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アナスタシア嬢の邸宅から招待を受けた俺たちは、指定された日に合わせて準備を整えていた。王都で名のある貴族の家で調理する機会など、普通なら一生に一度あるかどうかだ。
ふくにぎり亭の屋台は現地での出店用に調整し、ミモは透明状態で常に動き回りながら備品の確認をしていた。モフは珍しく静かにしていて、まるで大事な“仕事”が待っているのを理解しているようだった。
屋敷に到着すると、すでに数名の料理人たちが仕込みをしており、俺たちは厨房の一角を提供された。
「お待ちしておりました。こちらでふくにぎりをご準備ください」
案内された場所は、まるで劇場の一部のような調理場だった。白と銀のタイル、魔導具の冷蔵棚、香草を保存するための魔法棚まである。
「……すごい。まさに、王都の最上級キッチン……」
リリィが感嘆の声を漏らす。
「だからこそ、俺たちは俺たちらしいふくにぎりを握ろう」
メニューはシンプルながらも心を込めた三種。「炙り魚と焼き香草」「山菜と卵の塩仕立て」「ハーブチキンと柑橘」。それぞれ地元の素材に加え、王都の高級食材はあえて最小限に抑えた。
試食が始まると、邸宅の食堂には貴族たちが次々と集まってきた。アナスタシア嬢はもちろん、料理ギルドの幹部や、文化貴族と呼ばれる人々の顔もちらほら見える。
「それでは……これが、“ふくにぎり”です」
まずは料理ギルド幹部らしき壮年の男性が手に取り、一口かじった。
「……ふむ。おにぎり、というのは……いや、これは料理だな。具と米が一体になり、しかも香りが口の中に広がって……」
彼の感想に、周囲の目が一気に集中する。
「もう一ついいかね?」「ええ、どうぞ」
次に手を伸ばしたのは文化貴族の婦人。
「……なんて優しい味なのかしら。見た目の素朴さが、逆に手間を想像させる。丁寧に、繊細に包まれている」
拍手が起こった。誰もが、それまでの“握り飯”という概念を覆されたような顔をしていた。
アナスタシア嬢が微笑みながら立ち上がる。
「皆さま、これが私が推薦した“ふくにぎり亭”の味です。料理とは、豪華さではなく“想い”と“手間”の結晶。これほど心を打つ食事を、私は初めて知りました」
彼女の言葉に、会場は静かな感動の空気に包まれる。
俺たちは厨房の隅でその様子を見ながら、そっと肩を寄せ合った。
「タケルさん……私、嬉しいです。ふくにぎりを通して、こんな風に伝わるんだって」
「俺も……想いを込めて握ったから、届いたんだと思う」
そして夜の宴が終わったあと、アナスタシア嬢が俺たちにそっと言った。
「これからも、王都でふくにぎりを広げていってほしい。私も支援します。だから、どうか変わらないで」
「はい。俺たちは、俺たちのやり方で、ふくにぎりを届け続けます」
ミモが透明なままくるくると飛び回り、モフは「むふ~」と静かに鳴いた。
王都の夜空には、ふくにぎりの香りと共に、新たな希望が漂っていた。
ふくにぎり亭の屋台は現地での出店用に調整し、ミモは透明状態で常に動き回りながら備品の確認をしていた。モフは珍しく静かにしていて、まるで大事な“仕事”が待っているのを理解しているようだった。
屋敷に到着すると、すでに数名の料理人たちが仕込みをしており、俺たちは厨房の一角を提供された。
「お待ちしておりました。こちらでふくにぎりをご準備ください」
案内された場所は、まるで劇場の一部のような調理場だった。白と銀のタイル、魔導具の冷蔵棚、香草を保存するための魔法棚まである。
「……すごい。まさに、王都の最上級キッチン……」
リリィが感嘆の声を漏らす。
「だからこそ、俺たちは俺たちらしいふくにぎりを握ろう」
メニューはシンプルながらも心を込めた三種。「炙り魚と焼き香草」「山菜と卵の塩仕立て」「ハーブチキンと柑橘」。それぞれ地元の素材に加え、王都の高級食材はあえて最小限に抑えた。
試食が始まると、邸宅の食堂には貴族たちが次々と集まってきた。アナスタシア嬢はもちろん、料理ギルドの幹部や、文化貴族と呼ばれる人々の顔もちらほら見える。
「それでは……これが、“ふくにぎり”です」
まずは料理ギルド幹部らしき壮年の男性が手に取り、一口かじった。
「……ふむ。おにぎり、というのは……いや、これは料理だな。具と米が一体になり、しかも香りが口の中に広がって……」
彼の感想に、周囲の目が一気に集中する。
「もう一ついいかね?」「ええ、どうぞ」
次に手を伸ばしたのは文化貴族の婦人。
「……なんて優しい味なのかしら。見た目の素朴さが、逆に手間を想像させる。丁寧に、繊細に包まれている」
拍手が起こった。誰もが、それまでの“握り飯”という概念を覆されたような顔をしていた。
アナスタシア嬢が微笑みながら立ち上がる。
「皆さま、これが私が推薦した“ふくにぎり亭”の味です。料理とは、豪華さではなく“想い”と“手間”の結晶。これほど心を打つ食事を、私は初めて知りました」
彼女の言葉に、会場は静かな感動の空気に包まれる。
俺たちは厨房の隅でその様子を見ながら、そっと肩を寄せ合った。
「タケルさん……私、嬉しいです。ふくにぎりを通して、こんな風に伝わるんだって」
「俺も……想いを込めて握ったから、届いたんだと思う」
そして夜の宴が終わったあと、アナスタシア嬢が俺たちにそっと言った。
「これからも、王都でふくにぎりを広げていってほしい。私も支援します。だから、どうか変わらないで」
「はい。俺たちは、俺たちのやり方で、ふくにぎりを届け続けます」
ミモが透明なままくるくると飛び回り、モフは「むふ~」と静かに鳴いた。
王都の夜空には、ふくにぎりの香りと共に、新たな希望が漂っていた。
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