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1章
10話
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「はぁ、本当に購買って人が多い。」
灯我はうなだれながら廊下を歩いていた。今日の朝にあんなごたごたがあったため、灯我は弁当を作ってくることも、ましてやコンビニで昼を買ってくることもできなかった。結果、灯我が選んだのは学校の購買だった。
「あ!葉風!!」
芳しくない戦果にうなだれていると、不意に中庭の方から声をかけられた。灯我がそこから顔を出すと、そこには夜安と鏡がいた。
「食べるところ見つかってないなら一緒に食べない?」
「え。でも……」
灯我はちらっとまた、鏡へ目線をやる。鏡は信じられないほどたくさんの購買のパンを頬張っており、ぱくぱくと口の中へ放り込んでいく。
「こいつの事は気にしなくてもいいからさ!ほら座ってよ。」
鏡の事を気にしている事がばれたのか、バシバシと鏡の背中を叩く夜安。これ以上断るのも悪いと思ったのか、灯我も少し恭しくそこに座った。
「萩白くんはお弁当なんだね。」
「あーうん。俺の家革物専門の骨とう品やってんだけど、それの管理とかで両親が早々に店の方に行くから、自分の事自分でやってんだ。」
「へぇ、偉いね。」
「葉風はパン?」
「いつもは弁当作ってるんだけど、今日は朝が忙しかったから買ってくることも作ってくることもできなくて。…購買の競争率ってすごいんだね。全然買えなかったよ。」
「まあ、運動部とかは弁当持ってきたうえで購買に行くし、こうやって買い占める奴もいるからなー。」
灯我が苦笑いを浮かべていると、急に目の前に小さなアヤカシ者が飛び出してきた。思わず夜安が身をのけぞらせると、夜安の弁当箱の中から器用に卵焼きを抜き取った。
「あ!!」
「あーまたやられた。」
「のろま。警戒しとけっていっただろ。」
「え?」
びっくりしアヤカシ者が逃げて行った方を見ていると、二人は鳥にパンを取られたかのように軽い反応を返した。
そこで灯我が気になったのは当然鏡の反応だった。
信じられないものを見るかのように鏡の事を凝視していると、居心地悪そうに睨みつけられた。
「え…みえ、る人なの?」
「逆に今のでみえねぇと思ってんならお前馬鹿野郎だぞ。」
「あれ?俺鏡が見えること葉風に言ってなかったっけ?」
「言われてないよ!!」
むきになって返せば、夜安はごめんごめんと平謝りする。
鏡はすぐさま自分に関係ないことのようにパンを頬張り始める。灯我が少し落ち着いて少し辺りを見渡すと、物陰の後ろから小さなアヤカシ者たちが覗いてきている。祓ってやろうかと、護符を見せびらかせば小さなアヤカシ者たちは怯えたように逃げていく。
「あ!葉風脅したな!?」
「いや、さっき君お弁当取られてたじゃん。あぁいうのは祓うほどではないけど、脅しとかないと調子に乗って見える人以外にもいたずらを始めるし…」
「そ、そっか…」
灯我が諭せば夜安は少し残念そうに肩を落とす。その様子を見た灯我がひそかに危機感を抱く。アヤカシ者は心を傾ければすぐに付け込まれる。ただでさえ寄せ付けるというのならば、心配しておくのに損はないだろう。
改めて灯我がそう決意を新たにすれば、鏡が灯我を睨みつける。
「お前、祓い師なのか?」
「え?……まだ、違うけど…」
変わらず、灯我はどこか人を寄せ付けない鏡に対して苦手意識を持っている。話しかけられるだけでこのざまなので、さすがの夜安も二人の仲がぎこちない事に気づく。鏡は変わらず灯我のことをにらみつけているし、そこから少しの敵意をくみ取った灯我もその眼光を鋭くする。
一触即発になりかけた瞬間に、夜安は空気を換えようと声を上げた。
「あーー!そ、そうだ!火焔!火焔はどうなったの!葉風!」
「火焔?誰それ。」
「え、あれ?灯我のところに行ってない?和尚さんのところに行きたがってたから、昨日送っていったんだけど…」
最初、名前だけを言われて何のことだかわからなかった灯我だが、夜安の説明を聞いて、夜安のいうその火焔が今朝自分が本家に送った火車であることに気づいた。その瞬間、どんどんと顔色が悪くなっていった。
「え、まさかあの火車連れてきたの萩白くん!?またアヤカシ者とかかわったの!?」
普通であれば、二日に続いてアヤカシ者に遭遇するだけではなく関わることになるなんて、見えるものでも少ないケースだ。見習いとして自らかかわりに行かなければいけない灯我のようなケースを除けば、そんな状況はありえないといってもいい。
「え、だ、だって困ってたし…」
「困ってたとしてもふつうはアヤカシ者に近づかないの!いったい何されるかわかったもんじゃないんだよ?火車は一応地獄のアヤカシ者だからめったなことでは人間に攻撃しないからいいものを…」
まくしたてるような注意に、悪いことをしているような気分になったのか、ほんの少しだけ夜安は肩をすくめる。そして申し訳なさそうに灯我を見つめた後、パッと雰囲気を変えるようにしゃべりだした。
「そうだ!その地獄のアヤカシ者って何なの?前の人体モデルとはまた違うの?」
「話を変えないでよ!…でもまぁそっか。萩白君になら、ちゃんとそこら辺を説明したほうがいいかもしれないね。」
夜安の質問に、少し落ち着かせるようにふぅ、と息を吐いて灯我は説明を始めた。ついでといわんばかりに鏡のほうを見たけれど、鏡はいつの間にか山ほどあったパンを食べ終えすやすやと隣で眠っていた。それをみた灯我はあきれたようにため息をつきながらも、話を始めようと視線を夜安に戻した。
灯我はうなだれながら廊下を歩いていた。今日の朝にあんなごたごたがあったため、灯我は弁当を作ってくることも、ましてやコンビニで昼を買ってくることもできなかった。結果、灯我が選んだのは学校の購買だった。
「あ!葉風!!」
芳しくない戦果にうなだれていると、不意に中庭の方から声をかけられた。灯我がそこから顔を出すと、そこには夜安と鏡がいた。
「食べるところ見つかってないなら一緒に食べない?」
「え。でも……」
灯我はちらっとまた、鏡へ目線をやる。鏡は信じられないほどたくさんの購買のパンを頬張っており、ぱくぱくと口の中へ放り込んでいく。
「こいつの事は気にしなくてもいいからさ!ほら座ってよ。」
鏡の事を気にしている事がばれたのか、バシバシと鏡の背中を叩く夜安。これ以上断るのも悪いと思ったのか、灯我も少し恭しくそこに座った。
「萩白くんはお弁当なんだね。」
「あーうん。俺の家革物専門の骨とう品やってんだけど、それの管理とかで両親が早々に店の方に行くから、自分の事自分でやってんだ。」
「へぇ、偉いね。」
「葉風はパン?」
「いつもは弁当作ってるんだけど、今日は朝が忙しかったから買ってくることも作ってくることもできなくて。…購買の競争率ってすごいんだね。全然買えなかったよ。」
「まあ、運動部とかは弁当持ってきたうえで購買に行くし、こうやって買い占める奴もいるからなー。」
灯我が苦笑いを浮かべていると、急に目の前に小さなアヤカシ者が飛び出してきた。思わず夜安が身をのけぞらせると、夜安の弁当箱の中から器用に卵焼きを抜き取った。
「あ!!」
「あーまたやられた。」
「のろま。警戒しとけっていっただろ。」
「え?」
びっくりしアヤカシ者が逃げて行った方を見ていると、二人は鳥にパンを取られたかのように軽い反応を返した。
そこで灯我が気になったのは当然鏡の反応だった。
信じられないものを見るかのように鏡の事を凝視していると、居心地悪そうに睨みつけられた。
「え…みえ、る人なの?」
「逆に今のでみえねぇと思ってんならお前馬鹿野郎だぞ。」
「あれ?俺鏡が見えること葉風に言ってなかったっけ?」
「言われてないよ!!」
むきになって返せば、夜安はごめんごめんと平謝りする。
鏡はすぐさま自分に関係ないことのようにパンを頬張り始める。灯我が少し落ち着いて少し辺りを見渡すと、物陰の後ろから小さなアヤカシ者たちが覗いてきている。祓ってやろうかと、護符を見せびらかせば小さなアヤカシ者たちは怯えたように逃げていく。
「あ!葉風脅したな!?」
「いや、さっき君お弁当取られてたじゃん。あぁいうのは祓うほどではないけど、脅しとかないと調子に乗って見える人以外にもいたずらを始めるし…」
「そ、そっか…」
灯我が諭せば夜安は少し残念そうに肩を落とす。その様子を見た灯我がひそかに危機感を抱く。アヤカシ者は心を傾ければすぐに付け込まれる。ただでさえ寄せ付けるというのならば、心配しておくのに損はないだろう。
改めて灯我がそう決意を新たにすれば、鏡が灯我を睨みつける。
「お前、祓い師なのか?」
「え?……まだ、違うけど…」
変わらず、灯我はどこか人を寄せ付けない鏡に対して苦手意識を持っている。話しかけられるだけでこのざまなので、さすがの夜安も二人の仲がぎこちない事に気づく。鏡は変わらず灯我のことをにらみつけているし、そこから少しの敵意をくみ取った灯我もその眼光を鋭くする。
一触即発になりかけた瞬間に、夜安は空気を換えようと声を上げた。
「あーー!そ、そうだ!火焔!火焔はどうなったの!葉風!」
「火焔?誰それ。」
「え、あれ?灯我のところに行ってない?和尚さんのところに行きたがってたから、昨日送っていったんだけど…」
最初、名前だけを言われて何のことだかわからなかった灯我だが、夜安の説明を聞いて、夜安のいうその火焔が今朝自分が本家に送った火車であることに気づいた。その瞬間、どんどんと顔色が悪くなっていった。
「え、まさかあの火車連れてきたの萩白くん!?またアヤカシ者とかかわったの!?」
普通であれば、二日に続いてアヤカシ者に遭遇するだけではなく関わることになるなんて、見えるものでも少ないケースだ。見習いとして自らかかわりに行かなければいけない灯我のようなケースを除けば、そんな状況はありえないといってもいい。
「え、だ、だって困ってたし…」
「困ってたとしてもふつうはアヤカシ者に近づかないの!いったい何されるかわかったもんじゃないんだよ?火車は一応地獄のアヤカシ者だからめったなことでは人間に攻撃しないからいいものを…」
まくしたてるような注意に、悪いことをしているような気分になったのか、ほんの少しだけ夜安は肩をすくめる。そして申し訳なさそうに灯我を見つめた後、パッと雰囲気を変えるようにしゃべりだした。
「そうだ!その地獄のアヤカシ者って何なの?前の人体モデルとはまた違うの?」
「話を変えないでよ!…でもまぁそっか。萩白君になら、ちゃんとそこら辺を説明したほうがいいかもしれないね。」
夜安の質問に、少し落ち着かせるようにふぅ、と息を吐いて灯我は説明を始めた。ついでといわんばかりに鏡のほうを見たけれど、鏡はいつの間にか山ほどあったパンを食べ終えすやすやと隣で眠っていた。それをみた灯我はあきれたようにため息をつきながらも、話を始めようと視線を夜安に戻した。
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