お義兄様に一目惚れした!

よーこ

文字の大きさ
3 / 38

03 いつかお義兄様にも

しおりを挟む

 わたしが公爵夫人として精進していく中、お義兄様は次期ギレンセン侯爵家当主としての教育をお父様から指導されていた。二人で領地の視察に出かけては、数日間帰ってこないことも珍しくない。

 ついて行きたいけど、わたしにはアダルベルト公爵家での勉強があるから一緒に行けない。

 お留守番は寂しい。けれど、お父様もお義兄様も遊びで旅行に行っているわけではないし、あくまでお仕事で出かけているだけ。それが分かっているから我慢する。でも辛い。お義兄様にお会いしたい。一人で食べる食事は味気ない。

 でも、我慢して待っていれば。
 帰ってきたお義兄様は、いつもがたしを抱きしめてくれる。最高に幸せになれる瞬間だ。

 正確に言うと、お義兄様が抱きしめてくれるというよりは、駆け寄って抱きつくわたしをお義兄様が微苦笑しながら抱きしめ返してくれるだけ。
 それでもお兄様の胸の中にすっぽり収まり、逞しい腕で抱きしめてもらえるのは、夢心地になるほどの至福だった。

「お帰りなさい、ご無事でなによりです!」
「ただいま、クリステル。良い子にしていたかい?」
「もちろんです」

 どさくさに紛れてお義兄様の胸にすりすりしていると、お父様が拗ねたように言う。

「クリステル? わたしもいるのだが? セドリックばかり贔屓するような冷たい娘には、お土産はあげないぞ?」
「うふふ、もうっ、お父様ったら! お帰りなさい、お父様。やっと帰ってきてくれて嬉しいです。すごく寂しかったんですから!」

 わたしはお義兄様から離れると、今度はお父様に抱きついた。そして、その頬にキスをする。

 お父様はデレッデレだ。 
 そんなわたしとお父様を、お義兄様は目を細めて温かく見つめている。
 わたしの家族は本当に仲が良い。どこの家にも負けない素敵な家族だ。

 それにしても。

 出会ってから五年ほど経つけれど、お義兄様は日を追うごとに素敵になっていく。
 昔は女の子と見紛うばかりに美しかったけれど、今ではすっかり男らしくなった。背は伸びたし肩幅も広い。
 品のいい所作をすっかり自分のものとしているお義兄様は、まるで絵本の中から飛び出てきたような貴公子然としている。

 今はまだお義兄様に婚約者はいない。
 けれどそう遠くない未来、お義兄様はどこかのご令嬢と婚約を結ぶことになる。嫡子なのだから当然だ。

 わたしはその時、お義兄様を祝福できるだろうか。
 義姉となる人と仲良くできるだろうか。

 その時のことを想像するだけで、わたしの胸は激しく痛むのだった。



しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

お買い上げありがとうございます旦那様

キマイラ
恋愛
借金のかたに嫁いだ私。だというのに旦那様は「すまないアデライン、君を愛することはない。いや、正確には恐らく私は君を愛することができない。許してくれ」などと言ってきた。 乙女ゲームのヒロインの姉に転生した女の結婚のお話。 「王太子殿下に魅了をかけてしまいました。大至急助けてください」にチラッと出てきたアデラインが主人公です。単体で読めます。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

私に義弟が出来ました。

杏仁豆腐
恋愛
優希は一人っ子で母を5年前に亡くしていた。そんな時父が新しい再婚相手を見つけて結婚してしまう。しかもその相手にも子供がいたのだった。望まない義弟が出来てしまった。その義弟が私にいつもちょっかいを掛けてきて本当にうざいんだけど……。らぶらぶあまあまきゅんきゅんな短編です。宜しくお願いします。

第二王子の婚約者候補になりましたが、専属護衛騎士が好みのタイプで困ります!

春浦ディスコ
恋愛
王城でのガーデンパーティーに参加した伯爵令嬢のシャルロットは第二王子の婚約者候補に選ばれる。 それが気に食わないもう一人の婚約者候補にビンタされると、騎士が助けてくれて……。 第二王子の婚約者候補になったシャルロットが堅物な専属護衛騎士のアランと両片思いを経たのちに溺愛されるお話。 前作「婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました」と同じ世界観ですが、単品でお読みいただけます。

処理中です...