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03 いつかお義兄様にも
しおりを挟むわたしが公爵夫人として精進していく中、お義兄様は次期ギレンセン侯爵家当主としての教育をお父様から指導されていた。二人で領地の視察に出かけては、数日間帰ってこないことも珍しくない。
ついて行きたいけど、わたしにはアダルベルト公爵家での勉強があるから一緒に行けない。
お留守番は寂しい。けれど、お父様もお義兄様も遊びで旅行に行っているわけではないし、あくまでお仕事で出かけているだけ。それが分かっているから我慢する。でも辛い。お義兄様にお会いしたい。一人で食べる食事は味気ない。
でも、我慢して待っていれば。
帰ってきたお義兄様は、いつもがたしを抱きしめてくれる。最高に幸せになれる瞬間だ。
正確に言うと、お義兄様が抱きしめてくれるというよりは、駆け寄って抱きつくわたしをお義兄様が微苦笑しながら抱きしめ返してくれるだけ。
それでもお兄様の胸の中にすっぽり収まり、逞しい腕で抱きしめてもらえるのは、夢心地になるほどの至福だった。
「お帰りなさい、ご無事でなによりです!」
「ただいま、クリステル。良い子にしていたかい?」
「もちろんです」
どさくさに紛れてお義兄様の胸にすりすりしていると、お父様が拗ねたように言う。
「クリステル? わたしもいるのだが? セドリックばかり贔屓するような冷たい娘には、お土産はあげないぞ?」
「うふふ、もうっ、お父様ったら! お帰りなさい、お父様。やっと帰ってきてくれて嬉しいです。すごく寂しかったんですから!」
わたしはお義兄様から離れると、今度はお父様に抱きついた。そして、その頬にキスをする。
お父様はデレッデレだ。
そんなわたしとお父様を、お義兄様は目を細めて温かく見つめている。
わたしの家族は本当に仲が良い。どこの家にも負けない素敵な家族だ。
それにしても。
出会ってから五年ほど経つけれど、お義兄様は日を追うごとに素敵になっていく。
昔は女の子と見紛うばかりに美しかったけれど、今ではすっかり男らしくなった。背は伸びたし肩幅も広い。
品のいい所作をすっかり自分のものとしているお義兄様は、まるで絵本の中から飛び出てきたような貴公子然としている。
今はまだお義兄様に婚約者はいない。
けれどそう遠くない未来、お義兄様はどこかのご令嬢と婚約を結ぶことになる。嫡子なのだから当然だ。
わたしはその時、お義兄様を祝福できるだろうか。
義姉となる人と仲良くできるだろうか。
その時のことを想像するだけで、わたしの胸は激しく痛むのだった。
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