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07 お義兄様の勘違い
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自室に戻り、ソファに座ってアンの入れてくれたお茶を飲んでボンヤリしていると、お義兄様が部屋に飛び込んできた。
「クリステル!」
その表情は悲痛に満ちている。
わたしのすぐ横に腰を下ろすと、その逞しい腕の中にわたしを包み込んだ。
「大丈夫か? ティルマンめ、こんなにかわいいクリスを婚約者にしておきながら不貞を働くなど信じられない、今すぐ殺してやりたい!」
お父様からティルマン様の浮気を聞いたらしい。かなり激昂している。
わたしのために怒ってくれていると思うと、それだけで幸せを感じてしまうわたしは、もしかしたら悪い子なのかもしれない。
「義父上とも話したけが、絶対に破婚させるから安心してくれ」
「でもそう簡単にいくでしょうか。相手は名門の公爵家です」
「それでもだ。俺のかわいい義妹をみすみす不幸になんてさせやしない。君は愛されて結婚し、幸せになるべき女性だ」
お義兄様に抱きしめられ、その安心する大好きな匂いに包まれながらわたしは思う。
相手がどんなに素敵な人でも、どんなに深く愛してくれたとしても、きっとわたしは幸せになれない。
なぜなら、わたしはお義兄様を愛しているから。お義兄様以外のどんな人と結婚しても、本当の幸せを手に入れることはできないだろう。
そういう意味では、相手は誰でもいいとも言える。
お義兄様でないのなら、誰と結婚しても同じなのだから。
「ティルマン様との結婚が次期侯爵家当主となるお義兄様のお役に立つのなら、わたしはティルマン様と結婚します。破婚は必要ありません」
「……クリス、ダメだ、自分を蔑ろにしてはいけない。君は俺や義父上にとって、なにものにも代えがたい大切な存在だ」
「でも本心です。お父様やお義兄様のお役に立つことこそ、わたしの幸せですから」
顔を上げてお義兄様を至近距離から見つめる。
相変わらず美しい水色の瞳。少し辛そうなお顔もまた素敵で、思わず好きだと伝えたくなって胸が苦しくなる。
わたしの想いはお義兄様にとって迷惑でしかないはず。
知られたら、きっとお義兄様を困らせる。
それは嫌だから、本当はもっと抱きしめられたままでいたかったけれど、わたしはお義兄様の体から身を離して距離をとった。
「必要ならば、どうぞティルマン様との結婚を命じて下さいませ」
覚悟を伝えたくて、真剣な顔でお義兄様を見つめる。
するとなにを勘違いしたのか、お義兄様が苦し気にこんなことを言い出した。
「そこまでティルマン殿のことが好きなのか……」
――――はい?
「だから不貞を働かれてさえ、結婚を望むのか……」
驚いたわたしは、そのまま固まってしまう。
否定しなかったわたしの頬を、困った顔をしたお義兄様が優しく撫でた。
「たとえそうだとしても、俺はあんな不誠実な男にかわいい義妹を嫁がせたくない。だから絶対に婚約は破棄させてみせる。それがクリスの本意ではないとしても、だ」
すまない、とそう言って、お義兄様はわたしの部屋を出て行ったのだった。
「クリステル!」
その表情は悲痛に満ちている。
わたしのすぐ横に腰を下ろすと、その逞しい腕の中にわたしを包み込んだ。
「大丈夫か? ティルマンめ、こんなにかわいいクリスを婚約者にしておきながら不貞を働くなど信じられない、今すぐ殺してやりたい!」
お父様からティルマン様の浮気を聞いたらしい。かなり激昂している。
わたしのために怒ってくれていると思うと、それだけで幸せを感じてしまうわたしは、もしかしたら悪い子なのかもしれない。
「義父上とも話したけが、絶対に破婚させるから安心してくれ」
「でもそう簡単にいくでしょうか。相手は名門の公爵家です」
「それでもだ。俺のかわいい義妹をみすみす不幸になんてさせやしない。君は愛されて結婚し、幸せになるべき女性だ」
お義兄様に抱きしめられ、その安心する大好きな匂いに包まれながらわたしは思う。
相手がどんなに素敵な人でも、どんなに深く愛してくれたとしても、きっとわたしは幸せになれない。
なぜなら、わたしはお義兄様を愛しているから。お義兄様以外のどんな人と結婚しても、本当の幸せを手に入れることはできないだろう。
そういう意味では、相手は誰でもいいとも言える。
お義兄様でないのなら、誰と結婚しても同じなのだから。
「ティルマン様との結婚が次期侯爵家当主となるお義兄様のお役に立つのなら、わたしはティルマン様と結婚します。破婚は必要ありません」
「……クリス、ダメだ、自分を蔑ろにしてはいけない。君は俺や義父上にとって、なにものにも代えがたい大切な存在だ」
「でも本心です。お父様やお義兄様のお役に立つことこそ、わたしの幸せですから」
顔を上げてお義兄様を至近距離から見つめる。
相変わらず美しい水色の瞳。少し辛そうなお顔もまた素敵で、思わず好きだと伝えたくなって胸が苦しくなる。
わたしの想いはお義兄様にとって迷惑でしかないはず。
知られたら、きっとお義兄様を困らせる。
それは嫌だから、本当はもっと抱きしめられたままでいたかったけれど、わたしはお義兄様の体から身を離して距離をとった。
「必要ならば、どうぞティルマン様との結婚を命じて下さいませ」
覚悟を伝えたくて、真剣な顔でお義兄様を見つめる。
するとなにを勘違いしたのか、お義兄様が苦し気にこんなことを言い出した。
「そこまでティルマン殿のことが好きなのか……」
――――はい?
「だから不貞を働かれてさえ、結婚を望むのか……」
驚いたわたしは、そのまま固まってしまう。
否定しなかったわたしの頬を、困った顔をしたお義兄様が優しく撫でた。
「たとえそうだとしても、俺はあんな不誠実な男にかわいい義妹を嫁がせたくない。だから絶対に婚約は破棄させてみせる。それがクリスの本意ではないとしても、だ」
すまない、とそう言って、お義兄様はわたしの部屋を出て行ったのだった。
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