わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい

よーこ

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 第二王子ランドルフは一日の大半の執務室で過ごす。
 それは勿論仕事をするためである。

 ランドルフはこの日も多くの書類に囲まれながら、机に縛り付けられるようにして執務をこなしていた。
 そこに届いたのがリリアーナからの言伝である。昼食時に侍女からその言伝を聞かされたランドルフは、仕事で疲れた顔を一転して輝かせた。

 リリアーナから言伝とは「少しの時間でいいから会って話したい。都合をつけて欲しい」というものだった。愛する婚約者から会いたいと言われ、喜ばないはずがない。

 侍女に了承の返事を持たせて退室させると、ランドルフは表情には出さないながらも、内心では浮かれ気分で仕事に励み始めた。が、ふと先週のリリアーナとのお茶会を思い出して、その美しく整った顔をわずかに曇らせた。

 先週の二人での茶会の席で体調を崩したリリアーナは、話の途中で自宅へと戻ってしまった。
 心配のあまり翌日になって手紙を送ると、親しくしている彼女の兄から返信があった。それによるとリリアーナは風邪を引いたらしく、高熱で今も寝込んでいるとのことだった。

 本当は部屋で悲観して泣いていただけなのだが、そんなことを知らないランドルフは心から心配した。
 即座に見舞いに行こうとしたのだが、王太子である兄の仕事の手伝いや公務がつまっていて、なかなかリリアーナに会いに行く時間が作れない。

 真面目なリリアーナが今週ずっと王子妃教育を休んでいることも、ランドルフの心配に拍車をかける。

 もうダメだ、リリアーナのことが心配なあまり、仕事がまったく手につかない。

 いっそすべて投げ出して見舞いに行こうかと思い始めたところで、元気になったリリアーナが今日は登城して妃教育を受けているとの報告を受けた。

 ホッと胸を撫でおろしたランドルフだったが、今度はそわそわが止まらなくなる。

 少しでもいいからリリアーナの顔が見たい、見舞いに行けなったことを謝りたいと、ランドルフはそう思った。だから、なにがなんでもリリアーナに会うための時間を作ろうと、いつもより必死になって仕事を片付けていたのである。

 「会って話したい」というリリアーナからの言伝を受けたのは、その矢先のことだった。

 ランドルフは感激した。会いたいだなんて、そんな風に思ってくれるだけで堪らなく嬉しい。

 そこからはもう馬車馬のように働いた。少しでも早く大好きなリリアーナと会うために、鬼気迫る勢いで業務を処理していったのである。

 そうやって必死に書類と格闘しながらも、ふとランドルフは思い出す。
 先週、リリアーナから「どうして自分を婚約者に選んだのか」という質問を受けた。それについて話している最中にリリアーナが体調不良を訴えたため、話が途中になってしまっているのだが、できればあの続きを早く話してしまいたい。

 あれはランドルフがリリアーナに恋するキッカケになった、とても大切な思い出なのだ。少しテレ臭くはあるが、リリアーナにはぜひ最後まで話を聞いてもらいたい。そして今、どれほど自分がリリアーナを大切に思っているかを知ってもらいたい。

 そんな思いもあって必死に仕事をした結果、ランドルフはなんとか仕事に区切りをつけることができたのだった。

 とはいえ、まだまだ仕事は残っているし、病み上がりのリリアーナにもあまり無理はさせたくない。残念ながらも面会は短時間にしようと決めて、場所はランドルフの執務室でということにした。

 約束の時間になり、侍女を一人だけ帯同して執務室に入ってきたリリアーナを見て、ランドルフは安堵の息を漏らした。

 よかった、風邪が完治したというのは本当らしい。とても元気そうだ。

 思わず口元に笑みが浮かびそうになったランドルフだが、次の瞬間、その顔は蒼白になってしまう。

「殿下、わたしたちの婚約を解消いたしましょう」

 なぜか突然、リリアーナから婚約の解消を突きつけられてしまったのだから、それも当然だろう。

 あまりの衝撃と混乱のせいで言葉が出ない。

 ランドルフはリリアーナを見つめたまま、ショックのあまり固まってしまったのだった。

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