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最終話
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療養後、学園に戻ったマリアーナには、数ヵ月ぶりに平穏な日々が訪れた。
テイラーとの婚約が破棄されたことで、若干傷物っぽくなってしまったマリアーナである。
特にそのことを気にしてはいなかったが、しばらくは誰とも婚約せず、のんびりと一人身を堪能するつもりでいた。婚約者より、友人であるジェイニーやカーラとの付き合いを堪能したいと思ったからだ。
「あら、わたくしとしては、マリアーナ様に弟を紹介したいですわ」
放課後、いつもの三人でカフェに立ち寄り、美味しいケーキとお茶を楽しみながらおしゃべりに花を咲かせていた時「しばらくは婚約者なんていらない」と呟いたマリアーナに、ジェイニーがにっこり笑いながらそんなことを言った。
「ええ?! ジェイニー様の弟君を? 今はおいくつなの?」
「三つ年下で、すごくカワイイんですの。成人後は子爵位を譲り受ける予定でしてよ」
「年下……三才……うーん」
考える素振りをマリアーナが見せると、カーラも負けじとこんなことを言い出した。
「あら、だったらウチのお兄様なんてどう? 見た目がクマみたいでモッサリしているせいで、いまだに婚約者が見つからないの。でも、とっても優しいし、働き者だし、真面目だし、愛情深いし、自慢のお兄様よ!」
「まあぁ、クマさん!!」
叫んだのはジェイニーである。
頬をほんのり赤く染めて、美しい瞳を輝かせている。
「クマさん……ああ、わたくしの好みのど真ん中ですわっ!」
「「ええ!?」」
「わたくし、今の婚約者との関係を白紙に戻してもらおうかしら。ねえカーラ様、そうしたら、わたくしにお兄様をご紹介下さる?」
「な、なに言ってるの、ダメに決まってるじゃない! ジェイニー様のご婚約者といえば第二王子殿下よね。しかも溺愛されまくってるし」
「そ、そうよ。冗談でも、そんなこと言ってはダメだわ! カーラ様のお兄様のお命がマズいことになってしまうわよ」
「ええ~~~~、そんな、いいじゃありませんか。わたくしが絶対にお守りますから、お兄様をご紹介下さいませ!」
「ええー、じゃないわよ。第二王子殿下、麗しい美青年じゃない! そっちで満足しなさいよ」
「……正直、あの芸術品のようなお耽美系のお顔は、わたくしの好みではないのですわ。やはり、男は雄臭い感じの方がそそりますわね!」
「「ぎゃーっ!!」」
マリアーナとカーナ、二人がかりでジェイミーの口を手で塞いだ。
「しっ、滅多なことを言ってはだめっ。どこに第二王子の密偵が隠れているか分からないのよ?! ってか、絶対にジェイミー様の周りにはニ、三人張り付いているからっ」
「そうよそうよ! ジェイミー様、滅多なこと言わないでっ。ウチのお兄様、本気で消されちゃうからっ!!」
「もがもが」
まあそんな風に、女同士でくだらないおしゃべりをして、美味しいお菓子を食べて、買い物をしたり、街中をただぶらぶらと目的もなく探索する。誕生日にプレゼントを贈り合ったり、愚痴を言い合ったり、落ち込んだ時は互いに元気付け合ったりしながら、大切な時間を積み重ねていく。
貴族の家の生まれた以上、いつかはまたマリアーナも誰かと婚約し、結婚し、血を継ぐために子を成すだろう。気付かぬ内に確実に時は流れ、少しずつ大人になっていくに違いない。
そして、いつか。
二十年後や三十年後。遠い昔のことを、若かりし学生だった日々のことを、懐かしく思い出す時がくるに違いない。友人たちと過ごす当たり前の日常は、未来の自分にとって、まるで宝箱の中の宝石のように光り輝いているはずだ。
その時のためにも。
「わたし、お二人ともっとたくさん楽しいことをして過ごしたいわ! ねえ、次の夏季休暇、我が領の別荘地に遊びに来ない? 綺麗な湖があって、水遊びができるの。ボート遊び、ぜひお二人と一緒にしたいわ」
マリアーナがそう言うと、ジェイミーとカーラが瞳を輝かせた。
「まあ、ぜひお伺いさせていただきたいわ!」
「わたしも行きたい!!」
「ああ、早く休みにならないかしら。今からとても楽しみ」
ふふふ、と三人で顔を見合わせて笑った。
そして、二ヵ月後の夏季休暇。
なんとかマリアーナと義理の姉妹の関係になろうと画策するジェイミーとカーラが、それぞれ弟と兄を付き添いとして別荘にやって来ることになる。
その時、お忍びでこっそりとやってきた第二王子がジェイミーとカーラ兄との仲を盛大に勘違いしてしまい、あわや決闘騒ぎになりかけたり、その後なぜか意気投合して第二王子とカーラ兄とが親友になったり、マリアーナの妹とジェイミーの弟とが恋仲になったりと、思い出の宝箱には美しい宝石がどんどん増えていった。
そして二年後にはマリアーナとカーラの兄が結婚し、仲睦まじい二人は三男一女の子宝に恵まれることになる。
自分たちの結婚や兄弟姉妹同士の結婚により、気が付くと義理の姉妹になっていたマリアーナとジェイミーとカーラは、自分たちの子供が学園に通うようになった今も交流を欠かすことなく、定期的に会っては楽しい話に花を咲かせている。
そうやって今もまだ、マリアーナの宝箱の中のキラキラは増え続けている。
そのキラキラは、この先もずっと増え続けることだろう。
end
テイラーとの婚約が破棄されたことで、若干傷物っぽくなってしまったマリアーナである。
特にそのことを気にしてはいなかったが、しばらくは誰とも婚約せず、のんびりと一人身を堪能するつもりでいた。婚約者より、友人であるジェイニーやカーラとの付き合いを堪能したいと思ったからだ。
「あら、わたくしとしては、マリアーナ様に弟を紹介したいですわ」
放課後、いつもの三人でカフェに立ち寄り、美味しいケーキとお茶を楽しみながらおしゃべりに花を咲かせていた時「しばらくは婚約者なんていらない」と呟いたマリアーナに、ジェイニーがにっこり笑いながらそんなことを言った。
「ええ?! ジェイニー様の弟君を? 今はおいくつなの?」
「三つ年下で、すごくカワイイんですの。成人後は子爵位を譲り受ける予定でしてよ」
「年下……三才……うーん」
考える素振りをマリアーナが見せると、カーラも負けじとこんなことを言い出した。
「あら、だったらウチのお兄様なんてどう? 見た目がクマみたいでモッサリしているせいで、いまだに婚約者が見つからないの。でも、とっても優しいし、働き者だし、真面目だし、愛情深いし、自慢のお兄様よ!」
「まあぁ、クマさん!!」
叫んだのはジェイニーである。
頬をほんのり赤く染めて、美しい瞳を輝かせている。
「クマさん……ああ、わたくしの好みのど真ん中ですわっ!」
「「ええ!?」」
「わたくし、今の婚約者との関係を白紙に戻してもらおうかしら。ねえカーラ様、そうしたら、わたくしにお兄様をご紹介下さる?」
「な、なに言ってるの、ダメに決まってるじゃない! ジェイニー様のご婚約者といえば第二王子殿下よね。しかも溺愛されまくってるし」
「そ、そうよ。冗談でも、そんなこと言ってはダメだわ! カーラ様のお兄様のお命がマズいことになってしまうわよ」
「ええ~~~~、そんな、いいじゃありませんか。わたくしが絶対にお守りますから、お兄様をご紹介下さいませ!」
「ええー、じゃないわよ。第二王子殿下、麗しい美青年じゃない! そっちで満足しなさいよ」
「……正直、あの芸術品のようなお耽美系のお顔は、わたくしの好みではないのですわ。やはり、男は雄臭い感じの方がそそりますわね!」
「「ぎゃーっ!!」」
マリアーナとカーナ、二人がかりでジェイミーの口を手で塞いだ。
「しっ、滅多なことを言ってはだめっ。どこに第二王子の密偵が隠れているか分からないのよ?! ってか、絶対にジェイミー様の周りにはニ、三人張り付いているからっ」
「そうよそうよ! ジェイミー様、滅多なこと言わないでっ。ウチのお兄様、本気で消されちゃうからっ!!」
「もがもが」
まあそんな風に、女同士でくだらないおしゃべりをして、美味しいお菓子を食べて、買い物をしたり、街中をただぶらぶらと目的もなく探索する。誕生日にプレゼントを贈り合ったり、愚痴を言い合ったり、落ち込んだ時は互いに元気付け合ったりしながら、大切な時間を積み重ねていく。
貴族の家の生まれた以上、いつかはまたマリアーナも誰かと婚約し、結婚し、血を継ぐために子を成すだろう。気付かぬ内に確実に時は流れ、少しずつ大人になっていくに違いない。
そして、いつか。
二十年後や三十年後。遠い昔のことを、若かりし学生だった日々のことを、懐かしく思い出す時がくるに違いない。友人たちと過ごす当たり前の日常は、未来の自分にとって、まるで宝箱の中の宝石のように光り輝いているはずだ。
その時のためにも。
「わたし、お二人ともっとたくさん楽しいことをして過ごしたいわ! ねえ、次の夏季休暇、我が領の別荘地に遊びに来ない? 綺麗な湖があって、水遊びができるの。ボート遊び、ぜひお二人と一緒にしたいわ」
マリアーナがそう言うと、ジェイミーとカーラが瞳を輝かせた。
「まあ、ぜひお伺いさせていただきたいわ!」
「わたしも行きたい!!」
「ああ、早く休みにならないかしら。今からとても楽しみ」
ふふふ、と三人で顔を見合わせて笑った。
そして、二ヵ月後の夏季休暇。
なんとかマリアーナと義理の姉妹の関係になろうと画策するジェイミーとカーラが、それぞれ弟と兄を付き添いとして別荘にやって来ることになる。
その時、お忍びでこっそりとやってきた第二王子がジェイミーとカーラ兄との仲を盛大に勘違いしてしまい、あわや決闘騒ぎになりかけたり、その後なぜか意気投合して第二王子とカーラ兄とが親友になったり、マリアーナの妹とジェイミーの弟とが恋仲になったりと、思い出の宝箱には美しい宝石がどんどん増えていった。
そして二年後にはマリアーナとカーラの兄が結婚し、仲睦まじい二人は三男一女の子宝に恵まれることになる。
自分たちの結婚や兄弟姉妹同士の結婚により、気が付くと義理の姉妹になっていたマリアーナとジェイミーとカーラは、自分たちの子供が学園に通うようになった今も交流を欠かすことなく、定期的に会っては楽しい話に花を咲かせている。
そうやって今もまだ、マリアーナの宝箱の中のキラキラは増え続けている。
そのキラキラは、この先もずっと増え続けることだろう。
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