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04 その後(最終話)
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二ヵ月後、アーネスト様の立太子の義が執り行われるのと同時に、わたしたちの婚約が国内外に発表された。
お披露目の時、王宮のバルコニーに立つわたしたちを、多くの国民が笑顔で手を振り、祝福してくれた。
中でも王族を始めとした多くの高位貴族たち――要はわたしが聖女だと知っている面々――は、涙を流してわたしたちの婚約を喜んでくれた。アーネスト様との婚約により、聖女が国に留まることが明らかになったからだ。
彼らはきっと、わたしが国を出て行ったらどうしようと、ずっと不安な思いを抱えていたんだろうな。申し訳ないことをした。
でも、もう安心して欲しい。
この国はわたしの愛する人がいずれ王になる大切な国。わたしの全力で守っていこうと思う。
ただし。
「浮気は絶対に許さないから。もし浮気したら、今度こそ他国に亡命しちゃいますからね!」
国民たちに向かってにこやかに手を振りながら、すぐ隣にいるアーネスト様にだけ聞こえるくらいの小声でわたしは囁いた。
ちゃんと聞こえたのだろう、アーネスト様がにやりと笑う。
「大丈夫だ。浮気する余裕などないくらい、毎夜リザに搾り取られているからな」
「!」
真っ赤になったわたしの腰に腕を回して引き寄せると、アーネストが頬にキスをした。
それを見た国民たちから大きな歓声が上がる。
「愛している。浮気など絶対にしない。だから君も誓ってくれ。私以外の男に決して想いを寄せないと」
「誓う必要のないくらい、あなたに骨抜きにされてますが?」
わたしが頬を染めてそう言うと、アーネスト様が見たことがないくらい幸せそうに笑った。
その笑顔に、わたしは明るい未来を確かに感じることができたのだった。
**********
ちなみに。
クラウディア様は家族と話し合った末、修道院に入ることにしたそうだ。
時々面会に行っているエンゲルベルト公爵閣下の話によると、今は俗世から離れ、心穏やかに静かに暮らしているという。
そしてオリヴァー殿下はというと、残念ながらお亡くなりになった。
去勢されて平民になるくらいなら死んだ方がましだと、自ら望んで毒杯を煽ったらしい。最後まで選民思想の強い嫌なヤツだった。
ただ、オリヴァー殿下が平民にならずに死を選んだおかげで、良かったこともあるにはあった。
婚約者を病気で亡くして嘆き悲しむわたしに寄り添い、優しく慰めて支え続けた王弟のアーネスト。二人の間に少しずつ愛が芽生えて結婚するに至った。本来オリヴァーが治めるはずだったエクハルト王国を、彼のためにも二人で手を取り合って良い国にしていこうと誓い合った。
という話が、いつの間にか美談として世間に広がったのだ。
オリヴァー殿下との破婚の後、あまり時間を空けずに婚約と結婚を果たしたわたしたちが、国民に非難されることなくすんなり受け入れられたのは、その美談があったおかげだ。
オリヴァー殿下、本当に性格の悪い嫌なヤツだったけれど、最後に役に立ってくれてありがとう。
この国のことは、わたしたち二人にお任せ下さい。絶対に今以上にいい国にしますから。
心から冥福をお祈りします。
end
お披露目の時、王宮のバルコニーに立つわたしたちを、多くの国民が笑顔で手を振り、祝福してくれた。
中でも王族を始めとした多くの高位貴族たち――要はわたしが聖女だと知っている面々――は、涙を流してわたしたちの婚約を喜んでくれた。アーネスト様との婚約により、聖女が国に留まることが明らかになったからだ。
彼らはきっと、わたしが国を出て行ったらどうしようと、ずっと不安な思いを抱えていたんだろうな。申し訳ないことをした。
でも、もう安心して欲しい。
この国はわたしの愛する人がいずれ王になる大切な国。わたしの全力で守っていこうと思う。
ただし。
「浮気は絶対に許さないから。もし浮気したら、今度こそ他国に亡命しちゃいますからね!」
国民たちに向かってにこやかに手を振りながら、すぐ隣にいるアーネスト様にだけ聞こえるくらいの小声でわたしは囁いた。
ちゃんと聞こえたのだろう、アーネスト様がにやりと笑う。
「大丈夫だ。浮気する余裕などないくらい、毎夜リザに搾り取られているからな」
「!」
真っ赤になったわたしの腰に腕を回して引き寄せると、アーネストが頬にキスをした。
それを見た国民たちから大きな歓声が上がる。
「愛している。浮気など絶対にしない。だから君も誓ってくれ。私以外の男に決して想いを寄せないと」
「誓う必要のないくらい、あなたに骨抜きにされてますが?」
わたしが頬を染めてそう言うと、アーネスト様が見たことがないくらい幸せそうに笑った。
その笑顔に、わたしは明るい未来を確かに感じることができたのだった。
**********
ちなみに。
クラウディア様は家族と話し合った末、修道院に入ることにしたそうだ。
時々面会に行っているエンゲルベルト公爵閣下の話によると、今は俗世から離れ、心穏やかに静かに暮らしているという。
そしてオリヴァー殿下はというと、残念ながらお亡くなりになった。
去勢されて平民になるくらいなら死んだ方がましだと、自ら望んで毒杯を煽ったらしい。最後まで選民思想の強い嫌なヤツだった。
ただ、オリヴァー殿下が平民にならずに死を選んだおかげで、良かったこともあるにはあった。
婚約者を病気で亡くして嘆き悲しむわたしに寄り添い、優しく慰めて支え続けた王弟のアーネスト。二人の間に少しずつ愛が芽生えて結婚するに至った。本来オリヴァーが治めるはずだったエクハルト王国を、彼のためにも二人で手を取り合って良い国にしていこうと誓い合った。
という話が、いつの間にか美談として世間に広がったのだ。
オリヴァー殿下との破婚の後、あまり時間を空けずに婚約と結婚を果たしたわたしたちが、国民に非難されることなくすんなり受け入れられたのは、その美談があったおかげだ。
オリヴァー殿下、本当に性格の悪い嫌なヤツだったけれど、最後に役に立ってくれてありがとう。
この国のことは、わたしたち二人にお任せ下さい。絶対に今以上にいい国にしますから。
心から冥福をお祈りします。
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