呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がする(その2)

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 呼んでいる声がする(その2)


 同じアパートに知り合いがいるというだけで寂しさがこんなに薄れるとは思わなかったと瑠子は思った、三が日は特に。

 窓を開け、猫男の部屋の窓の方を見てみた。灯りが灯っているのが見える。

 ポツンポツンと星がまたたいている。

 宇宙に吸い込まれる気がした。販売の疲れも薄れる。

 明日は、仕事休み、お金が無いけどこの辺を探検しようかと瑠子は思った。散策をあえて探検と思いたいと思った。散策よりずっと面白そうな響きだから。

 そして、あの嫌な家から脱出出来ただけで、世界は素晴らしい気がした。

 そうだ探検してそれから海へ行こう。

 そういえば、「そうだ、何とかに行こう」っていうコマーシャルあったなあと思いながら眠りについた。

 翌朝、食パンを一切れにコーヒーを飲んで

 外に出た。時計は昼の十二時を指していた。

 水色の空にうろこ雲が光りを反射している。幸せってこういう事をいうのかなと空を見上げながら考えた。

 一〇分程歩くと、海があるのもここの素晴らしい所だと思う。

 坂ノ下の方を見遣るとまさかの猫男が、また猫の頭を撫でていた。

「こんにちは。」

 大きな声で猫男は挨拶した。

「猫は可愛いよね。」

「あ、ほんと、可愛いですよね。」

 その時、黒猫が甘えた声で鳴きながら側に近づいて来た。

「可愛い。」

 思わずそう言うと、頭を撫でた。

「この子はね、黒っていうんだよ。」

「あ、黒。」

 それから、グレーの猫と、茶トラの猫が

 猫男の近くに寄ってきた。

「あ、この猫が茶トラ、この子はグレーっていうんだよ。」

「名前そのまんまですね。」

「はは、俺センスないね。」

「あ、ごめんなさい。わかりやすい方が良いですよね。」

 瑠子は、慌ててフォローした。が、無駄だったのかもしれない。

 その時、猫が猫男に向って一斉に鳴いた。まるで、猫男の動揺した気持ちを慰める様ににゃおにゃお鳴きだした。

「ふふふ、」

 瑠子は思わず笑ってしまった。

 笑い始めると少し長く笑ってしまった。すると、猫男も笑い出した。なんか場が和んだ気がして助かった。

 二人で少しの間笑っていた。

「君どこに行くの?」

「あ、え、ちょっと。」

「気をつけて。」

「どうも。」

 軽く、会釈をした。

 とりあえず駅に向うかな、と瑠子はうろこ雲が漂う空を見上げながら思った。

 駅前は、商店街になっている。改札を抜けて右側に卵といつも買うコーヒー飴を買った。それから併設されている百円ショップをうろつき水玉の湯のみを一個買うと本屋で立ち読みをした。

 それから、駅前の踏み切りを渡ってなだらかな網浜海岸に向って歩いて行った。

 この街には海岸がすぐ側にある。そこがとても気にいっている。

 冬の海岸は人もまばらだ

 波打ち際まで行って海を見ていた。

 どの位見ていただろうか。

 海は、いつまで見ていても飽きない。

 ザブーン

「なんか海が荒れてるな。」

 急に声がした。

 何と振り向くと後ろに男が立っていた。

 猫男だ。

「えっ?」

「天気が悪くなるよ。」

 どうしているの、まさかついて来たんじゃ?と訝った。

「あの、奇遇ですね。」

「ははは、そうだね。俺もびっくりしたよ。いるから。」

「今日はお休みですか。」

「俺学生だから、今休学中、コンビニでアルバイトしてるんだ。」

「え、学生さん」

  年下なのかなと瑠子は思った。

「あ、うんまあ、でもだいぶ留年してるから年くっちゃってるけどさ。二十六歳、君は?」

「二十三歳です。」

「見えないな。もっと下に見えるよ。」

「え、そうですか」

 どうせ幼いですよ瑠子は思った。

「海っていいよね。」

 潮の匂いのする海を見ながら瑠子は頷いた。

「そして丘もあってさ。ここ最高。」

 その時波が打ち寄せて足元まで来た。

 瑠子は慌てて逃げた。

「あ、俺バイトの時間、またね。」

 猫男は砂浜を突然、駆けて行った。

 その姿を目で追った。

「変な人。」

 呟きながら瑠子は笑った。

「さあて、帰るか。」

 海を見ると、水平線が赤く染まっていた。

 猫男、明日は荒れるって本当かな。そういえばちょっと波に勢いがあるなあ

 って瑠子は思った。

 次の日、仕事は相変わらず暇だ。瑠子の働いているショップにはお客さんは、余り来ない。人が来ない時は時間が進まない。なんとかやり過ごし一日は過ぎた

 仕事が終わると猫男の言った通り雨が降っていた。けれど仕事の終わった開放感で瑠子は傘をさして弾む様に歩いた。猫男め、あんたは、天気予報士かなどと心の中でつっこみながらどんどん強くなる雨の中を歩いた。

 グレーの雲が空一面を覆い雨は勢い良く振。

 駅までの道は細い路地を通って行く。

 所どころに、雨はじゃんじゃん降るし歩きにくい。

 途中、傘がおちょこになりそうになりながら歩いていると、傘もささずに、歩いている若い年の女の子がいた。

 哀れな姿に、瑠子は傘を差しかけた。

 その人ははっとした様な顔をしてこちらを見た。

 大きな瞳がびっくりした様に見つめた。髪はびしょ濡れで気のせいか瞳の中も濡れている様な気がした。

 その人は歩きながらハンカチで髪を拭いたが、そんなハンカチ位では拭き取れなかった。

「あの、傘は?」

「買い物に来たんですけれど、突然、雨が降ってきて。」

「あ、ふふふ・・。」

 瑠子は意味も無く笑った。

 その人はすまなそうな顔をした。

「あの、ありがとうございます。」

「いいえ。」

 その人と瑠子はそれから、無言で歩いた。

「あ、ここで・・・ありがとうございました。」

 立ち止まったそこは、浜風駅の前だった。

「あ、いいえ。」

 女の人は、駅に歩いて行った。

 なんだか倒れそうな感じに見えた。

 雨は強さを増していた。




 続く

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