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第2章
呼んでいる声がする(第2章)その14 荒野のイエローハウス
しおりを挟む猫男がイエローハウスからいなくなる、それは瑠子にとって寝耳に水の話であった。
漠然とこのままずっと、こんな生活が続く気がしていたのだ。
猫男が、いなくなると心の中でその言葉を繰り返した。
どうしてよ、猫男が、あいつがいなくなるくらいでおかしいよ。そう自分に言い聞かせながら坂を上った。すぐ目前に迫って来た瑠子の住むイエローハウスが見えた。いつもならやっと見えて来たそのアパートを心楽しく見上げたものであったが今日は、まるで荒野に建てられた建物の様に物寂し気に感じた。今まではこんな風に感じた事は無かったのにと思った。
そして、なぜだか、走馬灯の様に今までの猫男とのやりとりが浮かんできた。
「あたしは死ぬのか?」
そんな事を考えながら、いつのまにか部屋に辿り着いていた。
「もうやめよう、考えるのは、ただの隣人なのだからそう思って部屋の窓を開けた。そこからいつもの様に暗い海がうっすらと見えた。
走馬灯の様に猫男との日々がその暗い海と一緒に脳裏に浮かんだ。どの位そうして
窓の外を見ていたかわからないが、はっとした。猫男はまだ、あの海岸にいるのだろうか。そう思った時、猫達のご飯の事が気になった。
心配になった瑠子はドアを開けて坂を駆け下りた。
坂の途中の街頭の所にやってくると、猫男が猫達にごはんをあげているのが見えた。
それを遠くから見て瑠子は思いだした。あの様な彼の姿を遠くから見た事がある事を。
街頭に照らされて猫男の姿がシルエットになっているあの姿、そんな事を考えながら
それを少しの間見つめていた。
そして気疲れないうちにまた元来た道を走って引き返した
そうしながらもういなくなるんだ、猫男はこの住処からいなくなるんだという思いがまた、巡って来て辺りの暗闇と同じに自分の心が暗く感じた。
もう一人のあたしが、イエローハウスは有るんだし猫男がいなくなったからってどうって事はないと自分に言い聞かすのだが、そう言い聞かせてみても何かが無くなってしまったような思いを瑠子は癒せなかった。
自分の部屋で動けずに座っていると、30分位して、階段を上ってくる足音が聞こえて来て、ドアの開け閉めの音で消えた。
猫男が部屋に入る音に違い無かった。この聞き馴れた足音を聞くのもあと何回なのだろうかなどと考えてしまった。
翌朝は、妙に明るく晴れていた。しかし、瑠子の心はどんよりと曇りの様な気持ちであった。
駅ビルマーマレードで、そんな瑠子の変化に気づいた佐季は心配そうに瑠子に尋ねた。
「どうしたの、何かあった?」
「いえ、まあ、あったといえばあった様な。」
「あったの?」
「たいした事ではないんですけれど、猫男が大学を卒業して北海道で就職するそうです。」
「それは。」
そう言った佐季は少しの間黙った。
そして隣の商品の入っている箱から、双子の人形を手に取りながら言った
「寂しくなるわね。」
とぽつんと言った
「そんな事無いですよ。」
と慌てて瑠子は言った
「ただ、あまりに急だったんで。」
すると、佐紀は、慰める様に瑠子の肩をたたいた。
いつもなら、そのような態度に佐紀が何か勘違いしていると憤慨したのかもしれない
けれど、今日は違かった。
つづく
読んでいただいてありがとうございました
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