呼んでいる声がする

音羽有紀

文字の大きさ
59 / 61
第2章

呼んでいる声がする(第2章)その19カプセル

しおりを挟む
呼んでいる声がする 第2章 その19(カプセル)


マーマレードの仕事が終わりになり白く輝く月光の下を瑠子は

家路を目指して海沿いの道を歩いていた。

雑貨屋まりもで、メロンパンを買った。猫の秀子ちゃんは、レジの隣で

いつもの様に瑠子をじっと見つめている。

あたしの事秀子ちゃんは覚えてくれているのかなと嬉しい気持ちに瑠子は

なった。

まりもの裏の海岸に細い路地を通って歩いて行った。

誰もいない海岸をイメージしていたが

そこには留萌さんがいた。

「こんばんは。」

嬉しくなって声を掛けた。

「ああ、こんばんは。また、会ったね。」

それからぼそっと留萌さんは言った。

「北海道に行くらしいね。紫苑君。」

「逃げ出すんですよ。彼は。」

「逃げ出す?」

瑠子は、頷いた。

「……しがらみから。」

「しがらみか。」

「まあ、誰にでも有るよね、そういうことって。」

「そうなんですよ。誰でも有るんです。けれど彼は、立ち向かわず逃げ出すんです。そうですけど、短絡的過ぎます」


それを聞くと可笑しそうに留萌さんは笑った。

「手厳しいな。」

留萌さんは、ぼそっと言った。

「瑠子ちゃんは、知っているんだね。彼の事を。」

「知りませんけれどね。けれど。知ってます

ナイーブなんですよ。彼は。」

「それは、そうかもしれないな。彼は、繊細そうだもんね

留萌さんがその時ひときわ高く鳥が鳴いて二人の横を横切った

「あ、カモメが鳴いたね」

「夜でも?」

不思議に思って瑠子は聞いた。

「ああ、この前も鳴いて僕の上を飛んでましたよ。」

「そうなんですね。」

夜も鳴くカモメ、それはあたしの様ではないか。この暗い海があたし達には似合う。

それはまるで、この海、カモメ、ね留萌さん、猫男、アタシ達でだけでカプセルに入っているみたいだと瑠子は思った。カプセルの中から猫男だけが出て行くんだ。

この海辺の街のイエローハウスから。猫男はカプセルにいるなんてないんだけれど、と瑠子は思った。

そのとき風がふいたかと思うと波間が光った気がした。瑠子は強い衝動にかられた

「留萌さん、あたし言ってやります。紫苑君に。」

「えっ?」

じっと、留萌さんは、瑠子を見つめた。

「今から?」

腕時計を見ると、9時だった。

「ええ。鉄は熱いうちに打てといいますし。」

「うーん、こういう時にも使うのかな?それは。」

「使うと思います。」

「そうかな?」

「それじゃあ。留萌さんあたし紫苑君に言ってきます。」

「ああ、気を付けて。」

グレーのコートを着た彼は、軽く手を上にあげた。

瑠子は、歩き馴れた場所を急ぎ足で歩いて行った。猫男は、イエローハウスに帰っているのだろうか。だんだん、風が強くなって来た。夜の道は心をおかしくさせると瑠子は思った

そんな事を言うべきか迷いが生じて来た

いなくなるのに、関係ないのに、けれど、やはり言うべきではないかと決意した。

隣人では無いか、猫の世話をしている者

親の事で苦しむ同志ではないか。

だから助言するべきなのだ。逃げても良いのかと。

第一猫達をどうする気よ。

そんな事を考えで頭がぐるぐるしながら進んで行った。

走れば白い月が瑠子の後を追って来た。

真っ暗な坂道を抜けると曲がった所に猫達の餌をあげている側の街灯が

建っていた。そこに猫達に囲まれて猫男がいた。瑠子は息をのんだ。

「やあ。」

街灯に浮かび上がった彼は表情が感じられなかった。なんだか前にも

こんな光景見た事ある。そんな事を思いながら彼に近づいて行った。

彼を目にすると瑠子は言い出す勇気が消えかかった

が、暗闇に力を借りて声を発した

「逃げるんだわ。紫苑君は。」

「えっ。」

驚いた様に猫男は目を見開いた

「それ、どういうこと?」

「そういうこと、です。」

「もしかして、北海道の事?」

瑠子は頷いた。

その瑠子の言葉を聞いて彼は少し笑った猫男は、真面目な表情で言った。

「そうかもね。」

瑠子は、調子が狂った。反論の言葉が出て来るかと身構えていたからだ。

                       つづく


大変遅くなりました。すみませんです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

地味男はイケメン元総長

緋村燐
青春
高校一年になったばかりの灯里は、メイクオタクである事を秘密にしながら地味子として過ごしていた。 GW前に、校外学習の班の親交を深めようという事で遊園地に行くことになった灯里達。 お化け屋敷に地味男の陸斗と入るとハプニングが! 「なぁ、オレの秘密知っちゃった?」 「誰にも言わないからっ! だから代わりに……」 ヒミツの関係はじめよう? *野いちごに掲載しているものを改稿した作品です。 野いちご様 ベリーズカフェ様 エブリスタ様 カクヨム様 にも掲載しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...