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第8話(1)
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ニコライは公爵位を得ても、現国王の直系の血筋であることに変わりはないため、政治上の役職が与えられることはなかったが、名誉職、特に文化芸術関連の肩書は徐々に増やされていった。
国が買い上げる美術品の検討や、振興策として設けられた賞の審査など、雑多だが最終決定権がニコライに付与され、ニコライの判断がないと進められない事項が多く、王宮での用件も、なかなか時間を割いてくれないニコライに困惑した文官達が、それらを一気に消化してしまおうという目論見のもと団結して手配されたものだった。
必要な時間ではあったが、別に今夜である必然性はなかったとニコライは不満だったが、元はと言えば自分が先延ばしにしていたせいであり、邸宅に五月雨に押し掛けられるのを考えるとやむを得なかった。
受賞すべき順序や力関係などがあるのだろうから、事務方の良いように計らって構わないと申し伝えても、そういうわけには参りません、と1つ1つの案件、各人・各物の情報を丁寧に説明してくるため、遅々としてもどかしいことこの上なかった。
やっと解放され、即帰途に就こうかとも思ったが、せっかくなので両陛下と弟妹に挨拶をと侍従に問い合わせると、国王陛下と皇太子アレクセイは政務、皇后陛下は取り込み中だが、3人の王女達はお会いできるということだった。
この時間に取り込み中ということもあるまい、まだ鼻を曲げているのかと母の強情にニコライは呆れながら、妹達の部屋へと足を運んだ。
ドアが開かれると、「お兄さま!」と弾丸のように駆けて来た末妹を、以前のように滑らかに受け止めた。
「こら、危ないよ。いつになったらレディの姿を見せてくれるんだいマリア」
すると床に降ろしたマリアはあたふたと衣装を整え姿勢を正して、スカートを摘まんだが、その隣に抜け目のない次女エカチェリーナが滑り込んで来て、「ごきげんよう。お兄様、お久しゅうございます」と先に淑女の礼を取り、マリアが「ごきげんよう」と慌てて追いかけた。
ニコライは、上手にできた労いの言葉をかけると、1人椅子に掛けているタチアナに抗議した。
「演奏がないから行かないというのは、随分冷たいじゃないか。サーシャもお前と会えるのを楽しみにしていたし、お前がいてくれたら心細くないだろうと思っていたのに」
するとタチアナは「そうでしたの。それは申し訳のないことを致しました」と答えながら、控えていた侍女達に、手真似で出て行くよう指示した。
全員が退出し兄妹だけになってから、タチアナは「仕方がなかったのですわ。今日はダメだと言われたんですもの」と大仰に肩を竦めた。
「言われた?誰に」
「言わずもがなでございましょう。王女が気軽に出歩くものではない、という突然のお咎めでしたの。もう二度と行けないかもしれないと思うと憂鬱ですわ」
「今更じゃないか、もう何度か行っているんだろう?」
「ええ。なので、角が立たないように断りの返信を書くように、とのご指示に従ったところ、あのようなお手紙になりましたの。お気持ちを損ねていなければ良いのですけれど」
角が立たないどころか高慢極まりない調子であったのは、送付の前に検閲されることを前提に、盛大に反抗心を示した結果だったようだ。
アレクサンドラを快く思っていないという懸念は杞憂だったと胸を撫で下ろしながら、母皇后が義姉妹の交流を阻んだ事実に、それほどにこの結婚が気に入らないのかとショックと憤りとを覚えた。
母皇后がニコライに寄せていた、立太子の強い期待には当然気が付いていたが、同じ血を分けた兄弟妹の誰が国王になっても構わないという考えのニコライは、期待に応えられなかったことへの申し訳なさは感じるものの、母の拘りが全く理解できなかった。
国が買い上げる美術品の検討や、振興策として設けられた賞の審査など、雑多だが最終決定権がニコライに付与され、ニコライの判断がないと進められない事項が多く、王宮での用件も、なかなか時間を割いてくれないニコライに困惑した文官達が、それらを一気に消化してしまおうという目論見のもと団結して手配されたものだった。
必要な時間ではあったが、別に今夜である必然性はなかったとニコライは不満だったが、元はと言えば自分が先延ばしにしていたせいであり、邸宅に五月雨に押し掛けられるのを考えるとやむを得なかった。
受賞すべき順序や力関係などがあるのだろうから、事務方の良いように計らって構わないと申し伝えても、そういうわけには参りません、と1つ1つの案件、各人・各物の情報を丁寧に説明してくるため、遅々としてもどかしいことこの上なかった。
やっと解放され、即帰途に就こうかとも思ったが、せっかくなので両陛下と弟妹に挨拶をと侍従に問い合わせると、国王陛下と皇太子アレクセイは政務、皇后陛下は取り込み中だが、3人の王女達はお会いできるということだった。
この時間に取り込み中ということもあるまい、まだ鼻を曲げているのかと母の強情にニコライは呆れながら、妹達の部屋へと足を運んだ。
ドアが開かれると、「お兄さま!」と弾丸のように駆けて来た末妹を、以前のように滑らかに受け止めた。
「こら、危ないよ。いつになったらレディの姿を見せてくれるんだいマリア」
すると床に降ろしたマリアはあたふたと衣装を整え姿勢を正して、スカートを摘まんだが、その隣に抜け目のない次女エカチェリーナが滑り込んで来て、「ごきげんよう。お兄様、お久しゅうございます」と先に淑女の礼を取り、マリアが「ごきげんよう」と慌てて追いかけた。
ニコライは、上手にできた労いの言葉をかけると、1人椅子に掛けているタチアナに抗議した。
「演奏がないから行かないというのは、随分冷たいじゃないか。サーシャもお前と会えるのを楽しみにしていたし、お前がいてくれたら心細くないだろうと思っていたのに」
するとタチアナは「そうでしたの。それは申し訳のないことを致しました」と答えながら、控えていた侍女達に、手真似で出て行くよう指示した。
全員が退出し兄妹だけになってから、タチアナは「仕方がなかったのですわ。今日はダメだと言われたんですもの」と大仰に肩を竦めた。
「言われた?誰に」
「言わずもがなでございましょう。王女が気軽に出歩くものではない、という突然のお咎めでしたの。もう二度と行けないかもしれないと思うと憂鬱ですわ」
「今更じゃないか、もう何度か行っているんだろう?」
「ええ。なので、角が立たないように断りの返信を書くように、とのご指示に従ったところ、あのようなお手紙になりましたの。お気持ちを損ねていなければ良いのですけれど」
角が立たないどころか高慢極まりない調子であったのは、送付の前に検閲されることを前提に、盛大に反抗心を示した結果だったようだ。
アレクサンドラを快く思っていないという懸念は杞憂だったと胸を撫で下ろしながら、母皇后が義姉妹の交流を阻んだ事実に、それほどにこの結婚が気に入らないのかとショックと憤りとを覚えた。
母皇后がニコライに寄せていた、立太子の強い期待には当然気が付いていたが、同じ血を分けた兄弟妹の誰が国王になっても構わないという考えのニコライは、期待に応えられなかったことへの申し訳なさは感じるものの、母の拘りが全く理解できなかった。
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