続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第11話(2)

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ニコライははっとした。
だとすると、アレクサンドラがサロンに出向くことは筒抜けだったということだ。
あの夜の妻の憔悴は、やはりサロンで何事かが起こった結果だという勘は正しかったのかとニコライはかっとなり、しかし怒りのやり場はなく、テーブルを手のひらで叩く。

「お気持ち察するよ」

M公爵が首を竦めるのを一瞥し、ニコライは爪でテーブルをこつこつやり始める。
男が男を陥れるのには手段を選ばない残酷さがあるが、女同士の陰湿さはまた性質が異なるとニコライは考えていた。
針の一刺しで止めを刺すのではなく、小さく致命的ではない、悪口やら仲間外れやらといった、子供時分と変わらないような嫌がらせを繰り返すというのが女のやり方であり、悲しくも母皇后のやり方も同じ傾向を示していた。
想像するに、Q伯爵夫人がI公爵夫人に、アレクサンドラがサロンへの参加を求めて来たと話し、I公爵夫人がそれを母皇后の耳に入れ、心に沁みるまで体験させてやれとでも言ったのだろう。
指示などしていない、真に受けて何かが行われても与(あずか)り知らぬことだと嘯(うそぶ)く母の様子が脳裏にありありと浮かんで、皇后でありながら女における典型例をなぞるとはと息子ながら情けなくなる。
それでも、母皇后の恨みがニコライに向かって発散されるならば甘んじて受け止めるのだが、アレクサンドラが槍玉に上がるのは承服できることではない。
淑女の慎みなのか、アレクサンドラはサロンの夜に何が起こったか、永遠に話してくれないだろう。
だとしても露払いは自由にやっても構うまい、ニコライが力強く言うのに、M公爵は過保護になり過ぎるなよと釘を刺した。

「くれぐれも元老院の連中に地均し的なことはするなよ」
「やっぱり駄目だろうか」
「当たり前だ、元王子。君は公証の人間じゃない。いくら公証長の夫であって、何らかの手は貸すだろうということは皆察しているが、だとしても表に見える、あからさまな形で関与するな。奥方に、夫の七光りでしか仕事ができない無能力者というレッテルを、堂々と貼らせることになるぞ」
「それは……駄目だな」
「奥方に助けを求められるなら別だが、そうではない限り彼女にも悟られるな。バレた瞬間に信用を失うぞ」
「そうかな」
「失う。下手すると嫌われて、今よりも心を開いてもらえなくなる。一生」

ニコライは深刻な表情で頷いてから、「おい、今よりとは何だ」と抗議を発する。
M公爵は「夫婦にしては丁重で、まだ主従のようだというのが巷の噂だが」と人の悪い顔で笑う。
ニコライはむっとして、「何だその噂は。誰が流している」といきり立った。

「出所は使用人か?全員入れ替えてやろうか」
「短絡的だな。人の口には戸が立てられないものだろ。というか事実なのか」
「事実じゃない。今回だって深く相談に乗ったんだ」
「相談ねえ。まあ、事実じゃないと思うのなら泰然としていないと、自覚があると自白しているようなものだぞ」

たとえ自覚があっても、他人からの批評は余計なお世話であるニコライは不機嫌に口を噤んだ。
涙を見せてもらっただけでは全く足りず、一刻も早く世の夫婦に勝る仲になりたいと内心で嘆いていると、M公爵が呟くように忠告を吐いた。

「公爵になっても陛下の子で皇太子殿下の兄なのは何も変わらない。下手な行動は暗躍になり、殿下が即位なさった際に国が割れる要因になりかねないぞ。君に野心があるなら別だが」
「野心などあるわけがない」
「ならば基本大人しくしていなさい」
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