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第11話(3)
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かつて大公、皇族の身分を持ったままの国王の兄弟が幅を利かせ、権力争いの果てに内乱になりかけた例が帝国の歴史にも刻まれており、ニコライも散々学ばされたところであった。
弟の帝位に安泰をもたらすことは、兄の、そして臣下としての務めであり、ではアレクサンドラのために動くならとにかく慎重にしなければと改めて心に刻んでいると、M公爵が「ところで」と口を開き、
「独り言に助言してやった礼に、王女殿下がQ伯爵夫人のサロンに行く日を聞き出してくれよ」
と身を乗り出した。
ニコライが少し眉を寄せ、「何だ、タチアナと同席を狙うのか」と言うと、「それが最も近づける機会だからな」とM公爵は取り澄ました。
「そもそも、Q伯爵夫人のサロンに言ったことはあるのか」
「あるよ。誘われて、冷やかしで何度か」
「そうか。だがあまり期待しないでくれ。サーシャが行った日、タチアナも出席予定だったんだが、皇后陛下がストップをかけたんだ。サーシャがもう行かないとしても、陛下が不可を取り下げるかどうかは私にも保証できない」
本人は参加する気満々だったとは言わずに告げると、M公爵は「そうなのか。まあ教えてくれ」と無造作に答えた。
巷(ちまた)で囁かれているM公爵の野心については、あまり話頭に上らせることはしなかったが、大事な親友のことであり、成就させてやりたいと思ってはいた。
ただ、彼の性格ゆえなのか、タチアナへの恋慕そのものはニコライに対しても露わにせず、どのくらい想っているのか、それは第一王女を妻に得るという名誉を捨象してもなお残るのかが定かではなかった。
貴族の婚姻としては、政略ずくめでも珍しくなく、非難を受けることはなかったが、ニコライとしてはタチアナの兄として、彼女に愛情も抱いてくれる者を伴侶に迎えて欲しいと思っていた。
ゆえに、M公爵がそういう者であって欲しいと望みながら、万一逆であった場合を考えると、友人でありながら快く応援できなくなる懸念もあって、本人には確認できないでいた。
当然、M公爵の狙いについて、タチアナに伝えたこともなく、打ち解けた会話においても、M公爵の名を出したことも出されたこともないため、タチアナが彼をどう考えるのかについては、尋ねるに値しない問いであった。
言葉を交わしたことさえない相手、ないはずだが、についてどうかと聞かれても、タチアナが困るだろう。
他方で、M公爵は、タチアナのことになると返答が鈍くなるニコライには不満があるようだったが、ニコライに対しそういう主張をぶつけて来たことはなかった。
タチアナは第一王女として、王権の強化、それこそ他国も含めた政略結婚の道を歩むこともあって然るべきで、結婚相手を、帝国で最も自由に選べない1人であることは疑いなく、それこそニコライが皇太子となっていればともかく、公爵位に降りた兄の希望など考慮要素の候補にすら入らない。
嫁ぎ先については、国王陛下はもちろん、母である皇后陛下の意向が大いに働くであろうから、仮にタチアナがこの方に、と述べたところで聞き入れられる可能性はほぼ皆無であるし、下手をすると相手が決まるまで本人に知らされない可能性すらある。
今はなおさら、ニコライと親しいこと周知の事実であるM公爵を、タチアナの相手にというのは、身分は申し分ないとしても、皇后陛下がノーを突き付ける可能性がなくはないため、親友を夢の成就から遠ざける要因になっているかもしれないと思うと気の毒で、あまりはきはきと応じることも憚られるのであった。
弟の帝位に安泰をもたらすことは、兄の、そして臣下としての務めであり、ではアレクサンドラのために動くならとにかく慎重にしなければと改めて心に刻んでいると、M公爵が「ところで」と口を開き、
「独り言に助言してやった礼に、王女殿下がQ伯爵夫人のサロンに行く日を聞き出してくれよ」
と身を乗り出した。
ニコライが少し眉を寄せ、「何だ、タチアナと同席を狙うのか」と言うと、「それが最も近づける機会だからな」とM公爵は取り澄ました。
「そもそも、Q伯爵夫人のサロンに言ったことはあるのか」
「あるよ。誘われて、冷やかしで何度か」
「そうか。だがあまり期待しないでくれ。サーシャが行った日、タチアナも出席予定だったんだが、皇后陛下がストップをかけたんだ。サーシャがもう行かないとしても、陛下が不可を取り下げるかどうかは私にも保証できない」
本人は参加する気満々だったとは言わずに告げると、M公爵は「そうなのか。まあ教えてくれ」と無造作に答えた。
巷(ちまた)で囁かれているM公爵の野心については、あまり話頭に上らせることはしなかったが、大事な親友のことであり、成就させてやりたいと思ってはいた。
ただ、彼の性格ゆえなのか、タチアナへの恋慕そのものはニコライに対しても露わにせず、どのくらい想っているのか、それは第一王女を妻に得るという名誉を捨象してもなお残るのかが定かではなかった。
貴族の婚姻としては、政略ずくめでも珍しくなく、非難を受けることはなかったが、ニコライとしてはタチアナの兄として、彼女に愛情も抱いてくれる者を伴侶に迎えて欲しいと思っていた。
ゆえに、M公爵がそういう者であって欲しいと望みながら、万一逆であった場合を考えると、友人でありながら快く応援できなくなる懸念もあって、本人には確認できないでいた。
当然、M公爵の狙いについて、タチアナに伝えたこともなく、打ち解けた会話においても、M公爵の名を出したことも出されたこともないため、タチアナが彼をどう考えるのかについては、尋ねるに値しない問いであった。
言葉を交わしたことさえない相手、ないはずだが、についてどうかと聞かれても、タチアナが困るだろう。
他方で、M公爵は、タチアナのことになると返答が鈍くなるニコライには不満があるようだったが、ニコライに対しそういう主張をぶつけて来たことはなかった。
タチアナは第一王女として、王権の強化、それこそ他国も含めた政略結婚の道を歩むこともあって然るべきで、結婚相手を、帝国で最も自由に選べない1人であることは疑いなく、それこそニコライが皇太子となっていればともかく、公爵位に降りた兄の希望など考慮要素の候補にすら入らない。
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今はなおさら、ニコライと親しいこと周知の事実であるM公爵を、タチアナの相手にというのは、身分は申し分ないとしても、皇后陛下がノーを突き付ける可能性がなくはないため、親友を夢の成就から遠ざける要因になっているかもしれないと思うと気の毒で、あまりはきはきと応じることも憚られるのであった。
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