続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第12話(1)

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遺言状の認証についての制度設計は、フョードル・クロチコフが作成した素案を土台に、アレクサンドラが意見を出す形で行われて行った。
一口に遺言状と言っても、決まった形式があるわけではなく、「何を、どう」認証するかという点で議論を重ねた。
最初の考え通り、公証が争いに巻き込まれないよう、認証をするのは「何月何日に、名義人が自ら、これこれという内容の遺言状を作成した」という点であり、誰にどう財産を与えるかには一切関知しない。
その点は利用者に何度も念押しをしなければならない。
その上で、

名義人を明らかにするため氏名と住所を、最新の遺言状だけが有効になるため日付を必ず記載したものであること
来庁している者が、その遺言状の名義人本人であること
本人であることの確認は、公証にサインを登録していれば台帳との突き合わせで行い、それ以外は信用のおける書面で証明してもらうが、証明能力が疑わしい場合は受け付けないこと
その上で、持参された遺言状が確かに存在していることを、遺言状の上に公証の認証印を押して存在を保証する
そして、一言一句同じ内容の控えにも認証印を押して、それを公証で保管して完了

という流れで進めることとした。
この仕組みの肝は、担当職員の能力と責任感、それに頼り過ぎない物理的な制御であることを共通認識にした2人は、とにかくこの点に検討時間を割いた。

認証印を押すまでに各種確認は複数、しかし秘密を所持する者を限るため必ず2名で行う
控えについては、一度保管すれば閲覧することはほぼ皆無で、サインの台帳のように何度も取り出すということはないため、保管する個室を確保し、出入りは単独は厳禁、責任者となるフョードル・クロチコフを必ず伴って入室する。
個室については、公証長室のある4階の部屋を開けて確保した。
予約制にし、1日当たりの取り扱い件数を絞るため、4階でも利便性は損なわれないという判断であり、フョードルもこれに承諾した。
そして、認証印だけでなく、個室の鍵も公証長が管理し、開錠記録を取ることにした。
そこには、構造的に機密を保てないという台帳管理部門の主張が、遺言状に関しては決してなされないようにという反省を活かした。

担当する職員、フョードルの部下については、当初は2人を選出して職務に当たらせる。
遺言と相続に関する知識の習得が必須となるため、まずは希望者を募った上で、能力があると認めた者を異動させる。
異動後は専属とし、従来の認証よりも高度な職務となるため、不平等感が出てもやむを得ないと割り切って、手当という形で他の職員よりも高い報酬を支払うこととした。
それを賄うため、及び遺言状を取り扱う難易度を考え、手数料も高く設定する。

アレクサンドラは、遺言状の認証を新たに始めることについてまず上役達を集めて部外秘扱いとして説明をし、追って職員内に募集をかけることを伝えた。

「それはあの、確定事項でございましょうか」

上役の1人がおずおずと尋ねるのに、アレクサンドラは

「最終的な決定は元老院に諮りますが、確定事項と思ってもらって構わないわ」

と頷いた。
忌々しいことに、窓口の方とは異なり、遺言状の認証は、国内の遺言騒動の一部を解消に導き、収入の確保に繋がり、「認証分野の拡大」という域を出ないことから、筋論としては却下される要素が見つからなかった。
もちろん、元老院への"運動"で躓く恐れは存在したが、今の段階ではそれは黙殺すべき要素だった。
また1人が、

「そうすると、その例えば、私の部署につきましては、病気がちの者も抱えておりまして、人材が引き抜かれるとなるとその、立ち行かなくなると申しますか」
「なのでまずは希望者を募ります。希望をそのまま通すのではなく、審査をするので、その時に同じ部署から2人以上は選出しないようにするわ。
普通の異動や昇格でも、優秀な人材が自分のチームから抜けてしまうのは"ある"ことだし、同じだと考えてちょうだい。
事実、フョードル・クロチコフの異動により昇格者が出ます。
もし本当に立ち行かなくなった場合は遠慮せず相談を。業務の分担変更も視野に入れてね」

アレクサンドラの回答に、その1人は手を下げた。
自分の部署から人材がいなくなると困るというのは、感情としては理解できるが、実際に発言するとなると資質が疑われる。
今は呆れるタイミングでも、苛立つ場面でもないとアレクサンドラは一息吐いて、上役達を見渡し、「それではよろしく頼みますね」と場を解散した。
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