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第13話(3)
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母夫人が、
「せっかくお会いしたのだから、お話ししたいのならお話ししなさいな」
と促されてもなおもじもじとしており、アレクサンドラが少し勇気を出して「お聞きしたいです」と言ってみると、ソフィア嬢は母夫人の顔色を窺い、ええと、と小さく呟いたが、思い切って椅子から降りてアレクサンドラの前にやって来た。
アレクサンドラが、紳士がするように差し伸べた手のひらに、ソフィア嬢は華奢な手を乗せたが、もう片方でアレクサンドラの指を掴んで、表に返したり形をなぞったりし始めた。
不思議な行動だと思ったが、少女がもじもじとしている様子なのを感じてされるがままになっていると、手はそのままで今度は上目遣いでアレクサンドラを見つめ始めた。
「どうかしましたか」
子供に対する問いかけの正解を知らないが、とりあえずできる限り優しく声をかけてみると、ソフィア嬢は
「お人形さんみたい」
とはにかみながら言った。
J夫人とT夫人はまあ、とそれぞれに笑い、母夫人は「人形だなんてもう少し言い方が」と眉を曇らせたが、アレクサンドラは特に悪い気はしなかったため微笑みながら問いかけた。
「人形のようですか」
「ええ、とてもきれい」
「ありがとうございます」
トルベツコイ夫人が、「ソーニャ、公爵夫人のお作法はお手本にさせていただきなさい」と言うと、娘は「お手本にしたら、私もきれいになれますか」と期待の眼差しをアレクサンドラに向ける。
「ええ。でも今でもお綺麗です」
「ちがいます、私はかわいいですが、きれいではありません。私ははやくきれいになりたいのです。ええと、アレクサンドラ・イワーノヴナ……さまのようになりたいです」
勝気な娘にとって、今までずっと自分の可愛さが至上だと自信満々だったところに、アレクサンドラは青天の霹靂だった。
理想の女性像に出会い、何としてもその美を真似したい、そういう必死さがありありと見て取れて、
「ごめんなさいね、夫人。主張が強い子で」
「良いではありませんか、志が高ければそれだけ夢に近いということですもの」
母であるトルベツコイ夫人が笑いながら取り成し、アレクサンドラの代わりにT夫人が引き取った。
容姿で悩みを抱いたことがなかったアレクサンドラだったが、勝気なところは巻き戻る前の自分と重なるところがあり、今更呆れと恥ずかしさを覚えた。
ソフィア嬢はアレクサンドラの手を捕らえたまま、
「私に、きれいになるお手本をみせてくださいませ。今日これからわが家におこしくださいませ」
と懇願を始めた。
瑞々しい飛躍を見る思いで丸くするアレクサンドラをよそに、さすがにトルベツコイ夫人が慌てふためいて娘を制止したが、ソフィア嬢は「すぐにでも見せていただきたいのです」と眉を逆立てた。
「今ここでご覧なさい。お茶を嗜まれたりお話をされたりするお姿もお手本になるのですから」
「おちゃとお話だけではたりません、ほかのお手本も見せていただかないと、お手本になりません!」
「そうは言っても、今からお越しいただいてどうするのです。他のお手本と言うけれど、一通り見せていただくつもりなのでしょう、そのような失礼な」
「ではあしたでもよいです、見ないとお手本にできない!」
癇癪を起こし地団駄を踏みそうなソフィア嬢は、「ね、ね、良いでしょう?」とアレクサンドラの前に跪いて涙声で請う。
背後でトルベツコイ夫人が首を振っているのが目に入り、断って欲しいという意図は汲み取ったものの、アレクサンドラは答えに窮した。
実際、明日は公証で職務を執らねばならず、どんなにせがまれても時間を作ることはできない上に、それ以降も何日なら可能だという約束が難しい。
子供の扱いが分からない生真面目なアレクサンドラは、何と答えれば宥められるのかと困惑するしかなかったが、そこへJ夫人が母夫人に向かって、
「ねえ、改めて晩餐に招いたら良いのではないかしら。サーシャは公証長の務めがあるから、普段は体が空かないのでしょう、ね?」
と助け船を出した。
「ええ、実は」と答えながらアレクサンドラがJ夫人を見遣ると、伯母は目配せをした。
茶席に参加した姪の目的をどう実現させるかを考えてくれていたらしい伯母に内心感謝をしていると、T夫人が「良い思い付きね。その方がお手本中のお手本を見られて良いわよ」とソフィア嬢に向かって言った。
「お手本ちゅうのおてほん?」
「そうよ、晩餐にお呼ばれした時は、誰でも特に気を付けて行動するでしょう。晩餐の振る舞いを見れば、全部のお手本を見られるわ」
T夫人はそう言ってから、「と思うのだけれど、どうかしら」とトルベツコイ夫人へと振り向いた。
母夫人ははらはらとしながら、
「我が家は全く構いませんけれど、逆に公爵夫人にご迷惑ではありませんか。そういえば公証長でいらっしゃるのですものね」
とアレクサンドラに尋ねた。
アレクサンドラは、「もしお招きくださるのであれば喜んで参りますわ」と微笑んで答えた。
「せっかくお会いしたのだから、お話ししたいのならお話ししなさいな」
と促されてもなおもじもじとしており、アレクサンドラが少し勇気を出して「お聞きしたいです」と言ってみると、ソフィア嬢は母夫人の顔色を窺い、ええと、と小さく呟いたが、思い切って椅子から降りてアレクサンドラの前にやって来た。
アレクサンドラが、紳士がするように差し伸べた手のひらに、ソフィア嬢は華奢な手を乗せたが、もう片方でアレクサンドラの指を掴んで、表に返したり形をなぞったりし始めた。
不思議な行動だと思ったが、少女がもじもじとしている様子なのを感じてされるがままになっていると、手はそのままで今度は上目遣いでアレクサンドラを見つめ始めた。
「どうかしましたか」
子供に対する問いかけの正解を知らないが、とりあえずできる限り優しく声をかけてみると、ソフィア嬢は
「お人形さんみたい」
とはにかみながら言った。
J夫人とT夫人はまあ、とそれぞれに笑い、母夫人は「人形だなんてもう少し言い方が」と眉を曇らせたが、アレクサンドラは特に悪い気はしなかったため微笑みながら問いかけた。
「人形のようですか」
「ええ、とてもきれい」
「ありがとうございます」
トルベツコイ夫人が、「ソーニャ、公爵夫人のお作法はお手本にさせていただきなさい」と言うと、娘は「お手本にしたら、私もきれいになれますか」と期待の眼差しをアレクサンドラに向ける。
「ええ。でも今でもお綺麗です」
「ちがいます、私はかわいいですが、きれいではありません。私ははやくきれいになりたいのです。ええと、アレクサンドラ・イワーノヴナ……さまのようになりたいです」
勝気な娘にとって、今までずっと自分の可愛さが至上だと自信満々だったところに、アレクサンドラは青天の霹靂だった。
理想の女性像に出会い、何としてもその美を真似したい、そういう必死さがありありと見て取れて、
「ごめんなさいね、夫人。主張が強い子で」
「良いではありませんか、志が高ければそれだけ夢に近いということですもの」
母であるトルベツコイ夫人が笑いながら取り成し、アレクサンドラの代わりにT夫人が引き取った。
容姿で悩みを抱いたことがなかったアレクサンドラだったが、勝気なところは巻き戻る前の自分と重なるところがあり、今更呆れと恥ずかしさを覚えた。
ソフィア嬢はアレクサンドラの手を捕らえたまま、
「私に、きれいになるお手本をみせてくださいませ。今日これからわが家におこしくださいませ」
と懇願を始めた。
瑞々しい飛躍を見る思いで丸くするアレクサンドラをよそに、さすがにトルベツコイ夫人が慌てふためいて娘を制止したが、ソフィア嬢は「すぐにでも見せていただきたいのです」と眉を逆立てた。
「今ここでご覧なさい。お茶を嗜まれたりお話をされたりするお姿もお手本になるのですから」
「おちゃとお話だけではたりません、ほかのお手本も見せていただかないと、お手本になりません!」
「そうは言っても、今からお越しいただいてどうするのです。他のお手本と言うけれど、一通り見せていただくつもりなのでしょう、そのような失礼な」
「ではあしたでもよいです、見ないとお手本にできない!」
癇癪を起こし地団駄を踏みそうなソフィア嬢は、「ね、ね、良いでしょう?」とアレクサンドラの前に跪いて涙声で請う。
背後でトルベツコイ夫人が首を振っているのが目に入り、断って欲しいという意図は汲み取ったものの、アレクサンドラは答えに窮した。
実際、明日は公証で職務を執らねばならず、どんなにせがまれても時間を作ることはできない上に、それ以降も何日なら可能だという約束が難しい。
子供の扱いが分からない生真面目なアレクサンドラは、何と答えれば宥められるのかと困惑するしかなかったが、そこへJ夫人が母夫人に向かって、
「ねえ、改めて晩餐に招いたら良いのではないかしら。サーシャは公証長の務めがあるから、普段は体が空かないのでしょう、ね?」
と助け船を出した。
「ええ、実は」と答えながらアレクサンドラがJ夫人を見遣ると、伯母は目配せをした。
茶席に参加した姪の目的をどう実現させるかを考えてくれていたらしい伯母に内心感謝をしていると、T夫人が「良い思い付きね。その方がお手本中のお手本を見られて良いわよ」とソフィア嬢に向かって言った。
「お手本ちゅうのおてほん?」
「そうよ、晩餐にお呼ばれした時は、誰でも特に気を付けて行動するでしょう。晩餐の振る舞いを見れば、全部のお手本を見られるわ」
T夫人はそう言ってから、「と思うのだけれど、どうかしら」とトルベツコイ夫人へと振り向いた。
母夫人ははらはらとしながら、
「我が家は全く構いませんけれど、逆に公爵夫人にご迷惑ではありませんか。そういえば公証長でいらっしゃるのですものね」
とアレクサンドラに尋ねた。
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