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第15話(3)
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1件目により生まれた体験談がじわじわと、まずは帝都の住民へと広がる。
どういう手続なのか、所要時間は、対応は、手数料は、また認証を受けて役に立ったか、良かったか悪かったかの雑感は。
「悪くはなかったよ。書式が正しいかは見られるけど、内容には口出しされないね。1時間ちょっとすんなり終わったよ。今までの認証と違って堅苦しい雰囲気だったね、職員も何か緊張していたし。
ただまあ、改ざんされる可能性はなくなるのかねえ、公証に副本が保管されるから。ただそこから内容が漏れたりしないか、ちょっと不安だがね。
後で書き換えたい時は面倒だけどね、あと、本人確認にサインを登録してないと手間が増えるらしいよ、私は大丈夫だったが」
1人目が話した内容は、最初は事実が、次第に噂になって広がり、相続で揉める種を減らしたい、心から尽くしてくれた者に特別な感謝を示したい、あるいは遺産に集(たか)る恩知らずを排除したい、と日頃から考えていた平民達からの予約はそろそろと増えていき、また将来を考えて、取引行為を日頃行わないが、サインや印章の登録をする者も少しずつ現れた。
もちろん、王命により許された権能とはいえ、懐疑的な見方も多く、それらの者の最大の懸念は、本当に内容は秘匿されるのかという点にあった。
先の事件のように職員が副本を勝手に持ち出すのでは、また確認した職員の口から内容が洩れるのでは、という疑いの眼差しを向ける者も多かった。
事件を引き合いに出されては弁明のしようがなく、時間経過に頼るしかないものではあったが、そのような指摘を受けた場合は、遺言状認証については万全の体制を敷いたことを説明し、理解を求める低姿勢に徹した。
驚くべきは、遺言状の手続処理、特に副本管理の厳格性を見て触発されたのか、あるいは気まずくなったのかもしれないが、アレクサンドラが事実上捨て置いていた台帳管理部門が、見通しが良くなるように台帳管理棚の立て方を変える取組を始めたことだった。
着手前に、心持ち落ち着きのない責任者から許可を求められ、アレクサンドラはどうして最初からそうしないのかと嫌味の1つでも言ってやりたくなったが、それは上に立つ者の振る舞いではないと堪えて、「せっかくやるのだから、穴がないようしっかり頼みます」という強い激励に微笑みを添えた。
利用した者からの伝聞と公証の地味な努力から評判が作られていく。
遺言状で人生で常時作成されているべきものではなく、サイン等の認証に比べると件数は劇的に少なかったが、希望は引きも切らず、予約制にして正解であったと思われるほどであった。
高めに設定した手数料についても、遺言という重要時に金を渋る人はいないのか、苦情は出なかった。
ただし、予約してから認証が受けられるまでの期間が長くなっていき、急ぎたいので順番を飛び越せないのかという要求や、本人が来られないので代理を立てたいという要望が寄せられたのは、想定通りであった。
いずれも断ったが、前者についてはいずれ職員の数を増やさねばという課題が、交渉に提示されることになった。
また、予想外の反応もあった。
遺族の意に沿わない遺言を、本人が勝手に作り、公証がその不行状の手助けをしたという言いがかりが2件あった。
ただ、怒鳴り込んで来た者、陰湿に居座り続ける者ともに、上役のフョードルが業務妨害として粛々と官憲に引き渡すという、公証では行われて来なかった行動は、センセーショナルな出来事として、帝都に静かに広まった。
実際、椅子を蹴ったりするなど他の利用者の邪魔にもなっていたのだが、「遺言状の認証という厳粛な手続を妨げることは、相続への侮辱である」という断固とした姿勢を示して憚らず、アレクサンドラはそれを全面的に指示した。
遺言というその者の人生の重大イベントを、他者が妨げることがあってはならない、公証のそういう対処は立場の表明になり、思いがけず公証への信頼が回復する結果に繋がった。
帝都以外の地域からの予約、それから貴族階級からも問い合わせが入り始めて、遺言状の認証は次の段階に入った。
事例を積み重ねていくと、予想できたもの・できなかったもの双方の課題がどんどん露わになり始める。
形式が整わないものが持参される
1通しか持参されない
2通持参されても内容が異なる
訪問者が、遺言状の名義人本人ではない
出張での認証をしてもらいたい
ある人物が遺言状の認証を受けたかどうかを知りたい
アレクサンドラは、それらの整理と対応の要否の判断、対応内容を、部下達に一任した。
相談には乗るし、どうしても部署単独での対応が不可能なものについては、公証長案件に引き上げる余地を残したものの、ほとんどを任せるつもりだった。
公証長が取るべき、次の行動に移らなければならない段階に来た、とアレクサンドラは気を引き締める。
どういう手続なのか、所要時間は、対応は、手数料は、また認証を受けて役に立ったか、良かったか悪かったかの雑感は。
「悪くはなかったよ。書式が正しいかは見られるけど、内容には口出しされないね。1時間ちょっとすんなり終わったよ。今までの認証と違って堅苦しい雰囲気だったね、職員も何か緊張していたし。
ただまあ、改ざんされる可能性はなくなるのかねえ、公証に副本が保管されるから。ただそこから内容が漏れたりしないか、ちょっと不安だがね。
後で書き換えたい時は面倒だけどね、あと、本人確認にサインを登録してないと手間が増えるらしいよ、私は大丈夫だったが」
1人目が話した内容は、最初は事実が、次第に噂になって広がり、相続で揉める種を減らしたい、心から尽くしてくれた者に特別な感謝を示したい、あるいは遺産に集(たか)る恩知らずを排除したい、と日頃から考えていた平民達からの予約はそろそろと増えていき、また将来を考えて、取引行為を日頃行わないが、サインや印章の登録をする者も少しずつ現れた。
もちろん、王命により許された権能とはいえ、懐疑的な見方も多く、それらの者の最大の懸念は、本当に内容は秘匿されるのかという点にあった。
先の事件のように職員が副本を勝手に持ち出すのでは、また確認した職員の口から内容が洩れるのでは、という疑いの眼差しを向ける者も多かった。
事件を引き合いに出されては弁明のしようがなく、時間経過に頼るしかないものではあったが、そのような指摘を受けた場合は、遺言状認証については万全の体制を敷いたことを説明し、理解を求める低姿勢に徹した。
驚くべきは、遺言状の手続処理、特に副本管理の厳格性を見て触発されたのか、あるいは気まずくなったのかもしれないが、アレクサンドラが事実上捨て置いていた台帳管理部門が、見通しが良くなるように台帳管理棚の立て方を変える取組を始めたことだった。
着手前に、心持ち落ち着きのない責任者から許可を求められ、アレクサンドラはどうして最初からそうしないのかと嫌味の1つでも言ってやりたくなったが、それは上に立つ者の振る舞いではないと堪えて、「せっかくやるのだから、穴がないようしっかり頼みます」という強い激励に微笑みを添えた。
利用した者からの伝聞と公証の地味な努力から評判が作られていく。
遺言状で人生で常時作成されているべきものではなく、サイン等の認証に比べると件数は劇的に少なかったが、希望は引きも切らず、予約制にして正解であったと思われるほどであった。
高めに設定した手数料についても、遺言という重要時に金を渋る人はいないのか、苦情は出なかった。
ただし、予約してから認証が受けられるまでの期間が長くなっていき、急ぎたいので順番を飛び越せないのかという要求や、本人が来られないので代理を立てたいという要望が寄せられたのは、想定通りであった。
いずれも断ったが、前者についてはいずれ職員の数を増やさねばという課題が、交渉に提示されることになった。
また、予想外の反応もあった。
遺族の意に沿わない遺言を、本人が勝手に作り、公証がその不行状の手助けをしたという言いがかりが2件あった。
ただ、怒鳴り込んで来た者、陰湿に居座り続ける者ともに、上役のフョードルが業務妨害として粛々と官憲に引き渡すという、公証では行われて来なかった行動は、センセーショナルな出来事として、帝都に静かに広まった。
実際、椅子を蹴ったりするなど他の利用者の邪魔にもなっていたのだが、「遺言状の認証という厳粛な手続を妨げることは、相続への侮辱である」という断固とした姿勢を示して憚らず、アレクサンドラはそれを全面的に指示した。
遺言というその者の人生の重大イベントを、他者が妨げることがあってはならない、公証のそういう対処は立場の表明になり、思いがけず公証への信頼が回復する結果に繋がった。
帝都以外の地域からの予約、それから貴族階級からも問い合わせが入り始めて、遺言状の認証は次の段階に入った。
事例を積み重ねていくと、予想できたもの・できなかったもの双方の課題がどんどん露わになり始める。
形式が整わないものが持参される
1通しか持参されない
2通持参されても内容が異なる
訪問者が、遺言状の名義人本人ではない
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ある人物が遺言状の認証を受けたかどうかを知りたい
アレクサンドラは、それらの整理と対応の要否の判断、対応内容を、部下達に一任した。
相談には乗るし、どうしても部署単独での対応が不可能なものについては、公証長案件に引き上げる余地を残したものの、ほとんどを任せるつもりだった。
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