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第21話(2)
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他方のタチアナは、当事者であり不満の度合いはアレクセイの比ではない。
しかし妹の不満は、自分へ何の打診もないまま先方と話が進められていたことに尽きており、勝手に結婚相手を決められる点にはないはずだ。
そんな、王女の宿命を弁えている妹に、王族も自分の結婚を自由に選ぶべきだと説いたところで、何故心を変えられると思うのか。
ニコライの件を引き合いに出すと言うが、アレクサンドラは、結果的には両陛下の心に適う相手であって、ただ「皇太子妃」という肩書きが異なるところが母皇后の不興を買ったという状況であって、タチアナのように、肩書きも相手も変わる場合の参考例にはなるまい。
その程度の例で、タチアナに自由主義を説いたところで何の効果があろうか、彼女の前でただの愚を演じることに他ならない。
本当にこの結婚を止めたいのなら、国王陛下を説得するのが最適だ。
しかし、M公爵にはそれは不可能だ、何人たりともそれはできない、タチアナ自らがこの結婚を嫌悪しない限りは。
そして、もしタチアナの心を動かす手段があるとするならば、それは身を滅ぼすほどの狂おしい恋慕だけだ、とニコライは固く信じていた。
ニコライが、親友の頼みを引き受けられない理由はここにあった。
王女を妻にという野心があるのは結構なことだ、男の名誉欲はニコライにもよく理解できる。
しかし肝心の愛情はどこにあるというのだ。
「君は、タチアナをどう思っているんだ」
「もちろん心からお慕いしているさ」
「慕うというのは……君の中でどういう感じなんだ。その、ちゃんと好いているのか?」
「何だ、子供っぽい質問だな。好きだよ、私が王女との結婚をずっと求め続けていたのは知っているだろう」
嘘だ、とニコライは内心で反論した。
いや、嘘ではないのかもしれない、M公爵にとっての好きは、野心に完全に侵食されたものなのだ。
ニコライは悲しくなってさらに言い募った。
「君のやり方で、タチアナがイエスと言ってくれると、本当に思っているのか?深い愛情もないままで、どうやって妹を惚れされるというんだ」
「深い愛情とは君のように、相手を想うあまり皇太子の地位を捨てるとか、そういう話かい」
「何だその言い方は!」
「怒鳴るな、君が持ち出したんだろう。そもそも惚れされる必要なんてあるのかい」
「何だと」
M公爵はカップを取り上げ、茶で唇を湿してから続けた。
「当時のアレクサンドラ嬢にベタ惚れした君の方はともかく、彼女の方は、結婚に応じたのは戦略が先立っていたはずだ。君と結婚して、かつ君が皇太子の地位を捨てる以外に、突破口は無かったんだから」
「それは、そうかもしれないが」
「かも、じゃないよ、確実にそうだった。それに、君の場合は、皇太子の地位を捨てなくても彼女との結婚は果たせたじゃないか。アレクサンドラ嬢は、皇后陛下から皇太子妃にという執念を持たれていたんだから。君の言う深い愛情が、成婚に作用したとは言えないだろう」
「しかし、私と君では条件が異なるだろう。君の場合は、捨てる方も結婚を承諾する方もタチアナなんだ。君も知っていると思うが、妹は第1王女として、自分の役割を固く弁えているよ。それを何とか翻させるために、彼女に愛を乞わないでどうするんだ」
ニコライの考えでは、たとえ政略結婚であろうとも、相手とは愛を育むように努力するのが嗜みであって、より相手を希(こいねが)う方が、恋する気持ちを持たないで結婚を企てるなど、あってはならないことだった。
己の手で未来を切り拓く自由を説いたところで、結婚を勝ち取れると思うのは愚の骨頂であり、自分の真心をとにかく手を尽くして訴えて、タチアナの琴線を震わせる努力が是非とも必要だった、彼にそんなものがあればだが。
M公爵は肩を竦めながら、「で、皇太子殿下の説得は、やってくれるのかい」と平然と言った。
「やるよ、やるさ」
とニコライは悔しさと悲しさをない交ぜにしながら、親友を睨んだ。
しかし妹の不満は、自分へ何の打診もないまま先方と話が進められていたことに尽きており、勝手に結婚相手を決められる点にはないはずだ。
そんな、王女の宿命を弁えている妹に、王族も自分の結婚を自由に選ぶべきだと説いたところで、何故心を変えられると思うのか。
ニコライの件を引き合いに出すと言うが、アレクサンドラは、結果的には両陛下の心に適う相手であって、ただ「皇太子妃」という肩書きが異なるところが母皇后の不興を買ったという状況であって、タチアナのように、肩書きも相手も変わる場合の参考例にはなるまい。
その程度の例で、タチアナに自由主義を説いたところで何の効果があろうか、彼女の前でただの愚を演じることに他ならない。
本当にこの結婚を止めたいのなら、国王陛下を説得するのが最適だ。
しかし、M公爵にはそれは不可能だ、何人たりともそれはできない、タチアナ自らがこの結婚を嫌悪しない限りは。
そして、もしタチアナの心を動かす手段があるとするならば、それは身を滅ぼすほどの狂おしい恋慕だけだ、とニコライは固く信じていた。
ニコライが、親友の頼みを引き受けられない理由はここにあった。
王女を妻にという野心があるのは結構なことだ、男の名誉欲はニコライにもよく理解できる。
しかし肝心の愛情はどこにあるというのだ。
「君は、タチアナをどう思っているんだ」
「もちろん心からお慕いしているさ」
「慕うというのは……君の中でどういう感じなんだ。その、ちゃんと好いているのか?」
「何だ、子供っぽい質問だな。好きだよ、私が王女との結婚をずっと求め続けていたのは知っているだろう」
嘘だ、とニコライは内心で反論した。
いや、嘘ではないのかもしれない、M公爵にとっての好きは、野心に完全に侵食されたものなのだ。
ニコライは悲しくなってさらに言い募った。
「君のやり方で、タチアナがイエスと言ってくれると、本当に思っているのか?深い愛情もないままで、どうやって妹を惚れされるというんだ」
「深い愛情とは君のように、相手を想うあまり皇太子の地位を捨てるとか、そういう話かい」
「何だその言い方は!」
「怒鳴るな、君が持ち出したんだろう。そもそも惚れされる必要なんてあるのかい」
「何だと」
M公爵はカップを取り上げ、茶で唇を湿してから続けた。
「当時のアレクサンドラ嬢にベタ惚れした君の方はともかく、彼女の方は、結婚に応じたのは戦略が先立っていたはずだ。君と結婚して、かつ君が皇太子の地位を捨てる以外に、突破口は無かったんだから」
「それは、そうかもしれないが」
「かも、じゃないよ、確実にそうだった。それに、君の場合は、皇太子の地位を捨てなくても彼女との結婚は果たせたじゃないか。アレクサンドラ嬢は、皇后陛下から皇太子妃にという執念を持たれていたんだから。君の言う深い愛情が、成婚に作用したとは言えないだろう」
「しかし、私と君では条件が異なるだろう。君の場合は、捨てる方も結婚を承諾する方もタチアナなんだ。君も知っていると思うが、妹は第1王女として、自分の役割を固く弁えているよ。それを何とか翻させるために、彼女に愛を乞わないでどうするんだ」
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M公爵は肩を竦めながら、「で、皇太子殿下の説得は、やってくれるのかい」と平然と言った。
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