続・公証長サーシャの通過点―巻き戻れなくとも自分に負けずに生きる

蜂須賀漆

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第22話(1)

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ザハーリン公爵邸からデミトフ公爵邸までは、馬車で15分程度で着いてしまう近距離であった。
公証の庁舎からだともっと近くなるのだが、面会日はぜひ自宅から出立して欲しいというニコライの立っての頼みに従ったのだった。
アレクサンドラは、馬車の中で、両手のひらを見下ろした。
出かける挨拶をした彼女の、手袋を嵌めた手をニコライは包み、捧げ持つようにして額に掲げ、「神のご加護を」と神妙に呟いた。
その時は大袈裟なと笑ってしまったが、手加減のある、しっかりと捕らえて離さない彼の手の力が、手袋越しにずっと残っている感覚があった。
これからアレクサンドラがデミトフ公爵に対面する試練に、心を痛めていることが伝わって来て、朗報をお届けできるように努めますと伝えると、それはそれとして、と彼は語尾を途切れさせた。

試練と考えている時点で、自信がないことの現れだとアレクサンドラは手を握り込む。
ニコライは、王子時代にデミトフ公爵と対話したことがあるはずだ。
第1王子に対して、噂の罵声を浴びせるという不敬は決して働かなかっただろうが、異議は一切の忖度(そんたく)なく、即座に唱える人だと言い辛そうにしていた。
叱責を受けることは想定内と受け入れ、持参する案の隅をつつかれることも早々に覚悟した。
大切なのは、指摘にうまく返答をすることであって、口籠ってしまってはいけない、適切な返答が見い出せない場合は一旦素直に謝罪をして、その場で指摘を補う策を何とか見つけ出すしかない。持ち帰って検討することは許されまい、持ち帰れとなった段階で間違いなくこれは廃案になる。
過ごしやすい陽気であるのに、絹手袋の指先は氷水に浸したように感覚が希薄であった。

(この緊張は良いものではないわ)

第2の都市メルジューンを、初回は断念したことは必ず問い質される。
ベルケンドルフ公爵に掛け合ったが話が纏まらなかったと答えるしかないが、それで解放されるものだろうか。
容易ではないと覚悟はしていたが、メルジューンを案から落としてしまったのは痛手であって、アレクサンドラ自身が手抜かりがないと胸を張れない枷(かせ)となっていた。
そこを攻められば行き詰まってしまうが、有効な反論も見い出せず今日に至った。
自信がないまま、議長公爵に面会して良かったのだろうかと悔いつつ、時間を置いても解決しない事項であると、申し込みに踏み切ったのだ。
この判断が吉と出て欲しい、アレクサンドラは指を組み合わせて祈りを捧げた。
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