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第22話(4)
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自分では、考え抜いた内容を持参し、最大限にへりくだって打診をしたつもりだったが、ベルケンドルフ公爵の手法を事前に知らされていてそれを躱(かわ)せなかったことで、後から仕方がなかったという慰めと、情けなさとが交互に押し寄せて苦しめられた。
「メルジューンが適地だと判断したのであれば、それを獲得できるまで粘るべきだろう、獲得してからここに!持って来るべき類のものだ!
誰のための利便性向上だ、オルロフの領地を反映させるためのか!」
「とんでもないことでございます、あくまでオルトは足がかりでございます。初めての取組でございますので、窓口が領内に設置される姿を実際にお見せできれば、利点をお分かりいただけるものと思っております」
「結局、自分で力不足を自覚しているということだな、メルジューンに置くメリットなどいくらでも挙げられるものを、実地を見せないと説得ができないと!
制度というものは、練りに練り上げてから走らせるものだ、"とりあえずやってみる"では済まされない。そんなことも分からないのに、公証の長を務めているのかね」
アレクサンドラは組み合わせた手の中で、指に爪を立てる。
手袋越しで感じにくいところを、強いて痛みが走るまで食い込ませた。
交渉が決裂になった真の理由を説明しなければ、もはや汚名を返上することはできない。
しかしそれを実行すると、ベルケンドルフ公爵の醜聞の方はともかくとして、彼の人から受けた己の恥を曝け出すことになる。
貴族の妻である者が、同じく妻を持つ者から誘惑を受けたというのは、たとえ相手が常に浮名を流す人物だったとしても強烈なスキャンダルになり得た。
そうなれば自分の名はもちろん、夫のニコライの名誉も汚し、公証の評判にも波及しかねない。
潔白であっても、それを客観的に証明することはできない、誘惑を受けた証拠はないのだが、受けなかったという証拠もまた存在しない。
そして、世間は火のない所に煙は立たないと考えるものであった。
悲しみが込み上げる。
あのような、女としての尊厳を傷つけられる出来事を持ち出さなければ、進められない性質のものなのか、公証長としての仕事というものは。
屈辱と恐怖をすぐに霧散させられないのは愚者であって、その経験を武器として振り回せ、そうしなければ務められないものなのか、公証長は。
ほろりと零れたのは涙だった。
「何だその涙は!公証長としての立場で訪れている者に対して、女だからと言って一切の容赦はせんぞ!いつもいつも女は!泣けば許されると思っている!」
さらなる怒りを声量に注ぎ込み、議長公爵はそれ見たことかと言いたげに怒鳴った。
指摘は合理的であった。
アレクサンドラは公証長としてこの場に立っており、女であるがゆえに手心を加えられることを望んでいない。
そして、涙を留めることができなくとも、アレクサンドラは公証長として一言物申さなければならなかった。
「私がメルジューンを断念いたしましたのは、設置承諾の対価として、私の貞操を要求されたからでございます」
議長公爵は目を剥いた。
「何という讒言(ざんげん)か!自分の落ち度をベルケンドルフのせいにするのか!」
「讒言ではございません。かの公爵の悪評はご存知でいらっしゃいましょう、私は身を持ってそれを体験いたしました。
たとえ公証について政策を進めるためであっても、非人道的な要求に応じることは決してできません」
アレクサンドラは、目元も拭わずに淡々と弁明をしたが、「私は、ザハーリン家の妻でございますから」と付け加えた時に堪えが効かなくなってハンカチを取り出した。
忍耐もそれと同時にぷつりと切れた。
「他人を貶めて悪足掻きか!」
「悪足掻きではございません!女が、自発的と装った上で、己の身を差し出せと脅迫されたのでございます!それを女の落ち度と仰るのですか、もし奥方様がそのような仕打ちを受けても!」
デミトフ公爵の顔がみるみる赤黒くなった。
「出て行け!」
耳をつんざく怒声から逃げるように身を翻し、秘書に頼らずドアを引き開けたアレクサンドラの後方で、投げつけられた紙束が室内を舞った。
「メルジューンが適地だと判断したのであれば、それを獲得できるまで粘るべきだろう、獲得してからここに!持って来るべき類のものだ!
誰のための利便性向上だ、オルロフの領地を反映させるためのか!」
「とんでもないことでございます、あくまでオルトは足がかりでございます。初めての取組でございますので、窓口が領内に設置される姿を実際にお見せできれば、利点をお分かりいただけるものと思っております」
「結局、自分で力不足を自覚しているということだな、メルジューンに置くメリットなどいくらでも挙げられるものを、実地を見せないと説得ができないと!
制度というものは、練りに練り上げてから走らせるものだ、"とりあえずやってみる"では済まされない。そんなことも分からないのに、公証の長を務めているのかね」
アレクサンドラは組み合わせた手の中で、指に爪を立てる。
手袋越しで感じにくいところを、強いて痛みが走るまで食い込ませた。
交渉が決裂になった真の理由を説明しなければ、もはや汚名を返上することはできない。
しかしそれを実行すると、ベルケンドルフ公爵の醜聞の方はともかくとして、彼の人から受けた己の恥を曝け出すことになる。
貴族の妻である者が、同じく妻を持つ者から誘惑を受けたというのは、たとえ相手が常に浮名を流す人物だったとしても強烈なスキャンダルになり得た。
そうなれば自分の名はもちろん、夫のニコライの名誉も汚し、公証の評判にも波及しかねない。
潔白であっても、それを客観的に証明することはできない、誘惑を受けた証拠はないのだが、受けなかったという証拠もまた存在しない。
そして、世間は火のない所に煙は立たないと考えるものであった。
悲しみが込み上げる。
あのような、女としての尊厳を傷つけられる出来事を持ち出さなければ、進められない性質のものなのか、公証長としての仕事というものは。
屈辱と恐怖をすぐに霧散させられないのは愚者であって、その経験を武器として振り回せ、そうしなければ務められないものなのか、公証長は。
ほろりと零れたのは涙だった。
「何だその涙は!公証長としての立場で訪れている者に対して、女だからと言って一切の容赦はせんぞ!いつもいつも女は!泣けば許されると思っている!」
さらなる怒りを声量に注ぎ込み、議長公爵はそれ見たことかと言いたげに怒鳴った。
指摘は合理的であった。
アレクサンドラは公証長としてこの場に立っており、女であるがゆえに手心を加えられることを望んでいない。
そして、涙を留めることができなくとも、アレクサンドラは公証長として一言物申さなければならなかった。
「私がメルジューンを断念いたしましたのは、設置承諾の対価として、私の貞操を要求されたからでございます」
議長公爵は目を剥いた。
「何という讒言(ざんげん)か!自分の落ち度をベルケンドルフのせいにするのか!」
「讒言ではございません。かの公爵の悪評はご存知でいらっしゃいましょう、私は身を持ってそれを体験いたしました。
たとえ公証について政策を進めるためであっても、非人道的な要求に応じることは決してできません」
アレクサンドラは、目元も拭わずに淡々と弁明をしたが、「私は、ザハーリン家の妻でございますから」と付け加えた時に堪えが効かなくなってハンカチを取り出した。
忍耐もそれと同時にぷつりと切れた。
「他人を貶めて悪足掻きか!」
「悪足掻きではございません!女が、自発的と装った上で、己の身を差し出せと脅迫されたのでございます!それを女の落ち度と仰るのですか、もし奥方様がそのような仕打ちを受けても!」
デミトフ公爵の顔がみるみる赤黒くなった。
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