立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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キサラギの里編

第60章 キサラギの里の攻防4  激突

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キサラギ本家の研究室では、オーバーテクノロジー『黒き十字架』のレプリカによる治療が続いていた。
バンは、細心の注意を払ってレプリカから照射される電磁波の出力を調整し、寝台に横たわったティルの頭部に当て、肉体と魂の接合部とも言える脳を揺さぶる。
モニターに表示される波形が徐々に起伏を帯び始め、ティルの意識が戻るのが近いことを示していた。
1日中、処置に当たり続けているバンの顔にも、疲労が滲み始める。

「(もう少しだ、もう少し頑張るんだ、ティル。)」

しかし同時に、家屋の外から聞こえる爆発音や悲鳴が、徐々に近づいてくるのも伝わってきた。
一際大きな振動音が響く。

「(近い!)」

研究室に置かれた機器がカタカタと揺れ、天井からは建材の破片が降り落ちる。危うく手元が狂いそうになるのを、バンは寸手の所で踏み止まった。
額に一層、汗が浮き立つ。

「思いのほか、外が騒がしくなって来たね。森を突破した敵がいるようだ。今度こそ、私も出ることにするよ。ここは、頼めるね?」

レプリカに魂気を注ぐ装置をバンに手渡すと、ジルは研究室の出口へと歩み出した。

「ああ、大丈夫だ。」

今度もバンは、短く答える。
一層集中力を高め、左手に握った装置からは、レプリカに魂気を届け、右手で機器を操り、治療を続けた。

ジルが屋敷から外に出ると、家屋の周りをモンスターと量産型機兵が取り囲んでいた。
警鐘がけたたましく響き、煙の匂いが鼻を突く。
里の忍たちも勇ましく応戦しているが、戦火は人里にも広がり始め、視界を赤く照らしていた。

ジルの瞳に、炎が灯る。

中庭を抜け、屋敷の正門を抜けた所で、ジルの姿を見つけた忍の1人が、息を切らして馳せ参じる。

「遅くなったね。状況は?」

「敵はB級程度の魔獣、さらに、機械で出来ていると思しき戦闘兵が多数。森では、魔力を宿した人間らしい敵も。こいつらは特に手強いです。鋼魂精鋭隊の少年たちが応戦していますが、押されていたる模様。里にも敵兵が到達し始めています。」

「うん。非戦闘員の避難は?」

「どうにか間に合いました。敵の侵攻ルートとは反対側の森の避難所に、誘導しています。」

「了解した。私も前線で指揮を執ろう。」

その時、特殊合金製のブレードを振り上げた、白兵戦用機兵『ヒューメル』と、それより2回り大きく、両手に巨大な鋏を構えた格闘型機兵『クラブ』が、無機質な足音を鳴らし、ジルの方へと押し寄せてきた。

「当主、危ない!」

しかし、伝令の忍が声を上げるよりも早く、ジルは身を翻し、両腕を大きく振り抜いた。彼女の周囲に強烈な突風の渦が巻き起こると、迫り来る機兵たちは、硬い装甲ごとバラバラに断裂され、残骸の雨が降り注ぐ。

「何が危ないものかい。」

余裕の笑みを浮かべながら、ジルは機兵の欠片を払う。
伝令はあっけに取られ、冷や汗を流した。

「人様の家を訪ねる時の礼儀も知らない連中には、仕置きが必要だね。」

ジルが敵の進軍してくる森の方に視線を向けたその時、闇夜を赤い閃光が斬り裂いた。
魔力の気配。
飛び交う斬撃。

咄嗟に反応して、ジルは攻撃をかわす。
飛び退いた場所には深々と斬撃が突き刺さり、地面に生々しい爪痕を刻んだ。

闇夜から浮き出るようにその輪郭を露わにしたのは、メタルたちとの戦いから密かに離脱し、単独、キサラギ本家のオーバーテクノロジーを狙って来た、ゲンジであった。

「今の攻撃をかわすとはな。有象無象の忍どもとは違うようだが、同じこと。そこをどけ。どかなくても、八つ裂きにするがな。」

眼光は研ぎ澄ました刃のように鋭く、悠然とナイフを構える。

「奇遇だね。私も、同じことを思った所だよ。一段と躾がなってなさそうな顔つきだ。」

ジルもまた、目の前の無頼漢を視線で射返し、不敵な笑みを浮かべた。

両者は互いを実力伯仲の相手だと値踏みし、ヒリつくような殺気をぶつけ合った。

・・・

森ではメタルとジェノが、ジグロとウェルダンに劣勢を強いられていた。

ジェノは大量の魂気を消耗してカゲロウ4体を爆破したにも関わらず、決定打を与えることが出来なかったことに苛立ちを募らせていた。

「(判断を誤った。さっきは残り3体も仮面野郎にぶつけて、確実に仕留めるべきだった。まさか、3体の同時爆破でほとんどダメージを受けないとは。あの大男の方のタフネスとパワーは・・・異常だ。)」

メタルは、ウェルダンの灼熱を宿した掌と、剣を交えて斬り結んでいる。ウェルダンの勢いにメタルがやや押されているが、決して倒せない相手ではない。ジェノも加勢すればなんとかなりそうだ。
しかし、ジグロのパワーとタフネスには太刀打ち出来ず、場の流れを完全に掌握されてしまっていた。

実のところ、ジグロはエクトプラズマーの中でも、規格外の存在であった。
『ミオスタチン欠乏症』。
ジグロには、生物の筋肉が発達しすぎないように抑制する因子が、生まれつき欠損していた。幼少の頃から異常に発達していた筋肉のせいで、周囲から好奇の視線を浴びながら育ったコンプレックスが全く無いわけではなかったが、元より楽天的で陽気な性格だったこともあり、自分のことを認めない人間との関わりはスッパリと諦め、時には自然と打ち解け、時には膂力で捩じ伏せたモンスターと親しくする時間が彼の生き甲斐になっていた。
しかし、チンピラ上がりの素行の悪いモンスターフォース隊員に、親しくしていた『ペット』を一方的に処分されたのをきっかけに、軍属、さらには人類全体にまで怨嗟の念を爆発させ、見切りをつけるに至る。

『素晴らしいまでの恨みの炎じゃ。こいつを使えば、お主の躯体は全てを阻む鎧となり、拳は全てを焼き払う大砲になるじゃろう。』

彼はドグマハートと出会い、エクトプラズムを取り込んだことで手にしたあまりに強大な力を振るう先を求めて、日々、戦場を求めて人類を粛正する修羅となった。

ミオスタチン欠乏症の人間は、腫瘍等疾患のリスクも高く、元より自らの寿命が長くはないかもしれないことは昔から受け入れており、その分、自分のやりたいことを、やりたいように太く生き潰そうと心に決めている。元来の肉体の強さに加え、達観した死生観に支えられた覚悟が、ジグロのエクトプラマーとしての規格外の実力を裏付けていたのである。

「(くそっ。ソニックスラッシャーでもアースクラッシュでも、ほとんどダメージを受けない。いつの間にか黒づくめのナイフ使いもいなくなっている。単独でオーバーテクノロジーを狙いに行ったとしたら、ティルが危ない!)」

メタルは焦りを募らせる。

「『フロスティエッジ』!」

氷柱状の凍結弾がジグロとウェルダンに撃ち込まれる。
結界の上からとはいえジグロの一撃を受けて吹き飛ばされていたレイチェルが、どうにか戻って来た。とはいえ、肉弾戦を得意としないにも関わらず、全身と頭を強く打ちつけて、一時的に脳震盪を起こしていた。意識は朦朧とし、足元はふらついている。

レイチェルの放った『氷結魔法』に、ジグロは手足の動きを固められつつも、すぐに氷を振り解き、またもやダメージを感じさせない。一方、ウェルダンは苦手とする冷気攻撃を浴びたことで、身を屈めて怯んでいた。

「勝機!」

メタルはすぐさま、レイチェルの『フロスティエッジ』で周囲に散らばった氷を剣に取り込み、氷属性の刃を形成する。

「これで終わりだ!『ツンドラクラッシュ』!」

ウェルダンに強烈な一撃を叩き込む。

「くおお!」

ウェルダンは、剣を受けた傷口から全身に凍結が広がり、その場に倒れ沈黙した。

「いいぞ、まずは1人仕留めた。」

「まだ終わりじゃないです。」

レイチェルが息を切らしながらも、魂気を高めていく。

ウェルダンを沈黙させたのも束の間、メタルもジェノも事態を飲み込み戦慄する。

「少しはやるじゃないか、ガキんちょ共よ。ジワジワなぶるのも趣味じゃねぇ。一息に消し飛ばしてやろう。」

ジグロは両腕を交叉し、尋常ではない魔力をその身に纏い、高めていく。大気が鳴動し、木々がざわめく。

「『ファイナルインパクト』!」

ジグロが両拳を前に突き出し、高出力のエネルギー波を放つ。模擬戦で特別強化機兵、アブソリュート・ガードナーに高出力バリアを展開させた、破壊の波動である。

「『カオスフレア』!」

レイチェルの杖の先に、炎、氷、雷、3属性の魂気が集まり、極彩色の輝きに黒い火花が走ると、強大な混沌の波動が放たれた。

両者の放った最大の一撃がぶつかり合い、周囲には眩いばかりの閃光と爆音が広がった。

ジグロの一撃はもちろん強力だったが、レイチェルのカオスフレアも、シェリーとの訓練を経てその威力は底上げされていた。両者の押し合いを、メタルとジェノは真剣な眼差しで見守っていた。

技の威力自体はほぼ互角と言えた。両者の間で天と地ほどの差があったもの。それは、他ならぬ肉体そのものの強さだった。

「ハッハァーー!どういうカラクリか知らんが、大した出力だ。だが、技の威力に体力が追いついていないようだな?」

息を切らし、辛そうな表情のレイチェル。技の押し合いで自らに返ってくる反動をこらえることが出来ず、腰が砕けてしまう。カオスフレアの出力を保つことが出来ず、ジグロのファイナルインパクトに押し負けていく。

「(ダ、だめです。全力のカオスフレアをぶつけても、歯が立たないなんて。)」

シェリーの『無限零度(インフィニティ・ゼロ)』の吸熱により攻略された時とはまた異なる、細工なしの力負け。強大な相手とのぶつかり合いだからこそ浮き彫りになった自らの弱点。
訓練とは違い、自らの命をとりに来ている相手に飲み込まれる絶望。
今まで味わったことのない無力感で頭の中が真っ白になった刹那、レイチェルは側にいたメタル、ジェノもろとも巨大な破壊の波動に飲み込まれてしまう。
爆音と閃光が収まり、土煙が風に流された後に現れた、まるで巨大な蛇が這ったかのように大きくえぐられた地面が、波動の破壊力を物語っていた。















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