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キサラギの里編
第59章 キサラギの里の攻防3 気楽
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『神隠しの森』の一角にある、キサラギ一族の墓地。ひんやりと肌に纏わりつくような空気をかき分け、2人分の影が走り、群青の夜空を背に交錯する。
1人は、特別強化機兵、エプシロン。手に携えた光の刃を構え、墓標の上を翔ぶように躍動する。人工皮膚を纏った甘いマスクの口元には、余裕とも侮りともとれる笑みを宿す。
もう1人は、ガンダラ軍、鋼魂精鋭隊S級戦士の一角、ヘクター・スカーフェイス。
黒衣の裾を翻しながら、立ち並ぶ墓石の群れの間を縫うように駆け抜ける。
古傷だらけの顔を険しくしかめ、麻痺で引き攣った片目はいつも以上に見開かれ、闘志の炎が灯る。
エプシロンは、剣を持つのと反対の手を前に向ける。掌が腕の中に格納され、前腕が機銃の砲身へと姿を変えた。
「新しい兵装を試すとしよう。『エナジーブラスト』!」
スカーフェイスに狙いをつけ、砲身からエネルギーを圧縮した弾丸を連射する。
流れ弾を受けた墓標が、乾いた音を立てて砕け散り、星空に舞い上がった。
スカーフェイスは、一層大きく目を見開き、迫り来るエネルギー弾の隙間をかいくぐる。
しかし、全てをかわすことは出来ず、スカーフェイスの体と、攻撃の射線が交差した。
「命中確率、97パーセント。捉えた。」
エプシロンが命中を確信したそのとき・・・。
「『ディフェンスクローク』!」
スカーフェイスが闘牛士のように黒衣を体の前ではためかせると、弾道が逸れ、流れ弾が周囲の墓標を打ち砕いた。
「魂気を込めた上衣をバリアのように使って攻撃を逸らせるのか。そのなり、忍の里の者ではないな?計算上、当主が出てくると想定していたが。」
エプシロンは、上から下へと視線を落とし、スカーフェイスを値踏みする。
「データベースを検索・・・ほう、王国の最上級戦士だったか。軍属が何をしに来た?大方、オーバーテクノロジーの回収といったところか。」
淡々と問いかけるエプシロンに対し、スカーフェイスは口を開くことなく、視線だけを返し続けた。
目の前の敵は、話に聞いていた機兵とやらだろう。ティルの治療がこの里で行われていることは、把握していないようだ。それ自体は好都合。
そもそも、当主が墓を守りに来ない理由にはさして興味が無い様子だ。
当主が責務と親心の間で揺れていることは、知る由もないし、理解が及ぶこともないのだろう。
どれだけ人を模して、流暢に言葉を紡ごうとも、本質は機械。
「墓荒らしに教える必要はない。軍の都合だ。」
スカーフェイスは、黒衣に纏わせていた魂気を解放し、周囲に光の玉を浮かべる。それは、まるで彷徨う死者の魂が顕現したかのように、静かに揺らめき、夜の墓地を照らし出した。
「データ上は、治癒能力が特筆されているようだが、なかなか興味深い技を持っているな。」
光の玉を目で追うエプシロンの電子頭脳が、対象を解析するべく、回転速度を上げる。
「撃て。『人魂流星群(ソウルファンネル)』!」
スカーフェイスを囲う人魂が明るみを増した刹那、エプシロンに向けて一斉に熱線を発射した。
メスの届かない体の奥に、魂気を当てて病巣を精密に処置するべく『設計』した術式を、攻撃に転用した能力だ。
網の目のように入り組んだ閃光が、闇夜を裂く。
「魂気線の一斉射撃。数は多いが1つ1つの軌道は単純。99パーセント以上の確率で、回避可能。」
熱線の包囲網の隙間を縫うように、最小限の身のこなしで攻撃をかわすと、エプシロンは砲身を構える。
「荷電粒子を体内で加速、攻撃範囲を収束・・・こうか!」
人魂から放たれたのと同質の熱線を、スカーフェイスに向けて放った。
「!!」
スカーフェイスは、間一髪反応するも、攻撃が肩をかすめる。焼き切れた黒衣から一筋の煙が立ち上り、肉の焦げる匂いが鼻を突く。
「光の玉による攻撃と防御は、同時に出来ないようだな。その様子では、戦闘中は治癒能力も使えまい?」
エプシロンの分析は的確だった。
事実、『人魂流星群(ソウルファンネル)』を展開している間は、『ディフェンスクローク』は使えず、その逆も然り。さらに、魂気を戦闘に向けている間は、『リペアボディ』を使うことも不可能だった。
「(たったあれだけの攻防でそこまで見抜き、しかも、攻撃の質を模倣してくるとは・・・!)」
エプシロンの解析力、何よりも即座に攻撃の特性を模倣した学習能力に驚嘆する。しかし、スカーフェイスはどこか達観した空気すら纏い、一息、小さくつぶやいた。
「やはり、1人の戦いは気が楽だな。傷つく者を気にすることなく、戦士に徹することができる。ここは、任されよう。」
元より、『リペアボディ』は自分自身は対象外。守るべき味方がいなければ、戦闘中に治癒能力が使えないことはデメリットにはならない。
黒衣の医師は、今宵は戦士となることを決めている。時を同じくして、親であることを選ぶ者の背中を押すために。
「何をぶつぶつ言っている?」
「解析してみたらどうだ?」
冷徹に見据えるエプシロンの問いかけに、一言だけ返すと、スカーフェイスは今一度、魂気を練り上げる。
揺らめく人魂の奔流を従えると、魂の通わぬ難敵を食い止めるべく、闇夜を躍動した。
1人は、特別強化機兵、エプシロン。手に携えた光の刃を構え、墓標の上を翔ぶように躍動する。人工皮膚を纏った甘いマスクの口元には、余裕とも侮りともとれる笑みを宿す。
もう1人は、ガンダラ軍、鋼魂精鋭隊S級戦士の一角、ヘクター・スカーフェイス。
黒衣の裾を翻しながら、立ち並ぶ墓石の群れの間を縫うように駆け抜ける。
古傷だらけの顔を険しくしかめ、麻痺で引き攣った片目はいつも以上に見開かれ、闘志の炎が灯る。
エプシロンは、剣を持つのと反対の手を前に向ける。掌が腕の中に格納され、前腕が機銃の砲身へと姿を変えた。
「新しい兵装を試すとしよう。『エナジーブラスト』!」
スカーフェイスに狙いをつけ、砲身からエネルギーを圧縮した弾丸を連射する。
流れ弾を受けた墓標が、乾いた音を立てて砕け散り、星空に舞い上がった。
スカーフェイスは、一層大きく目を見開き、迫り来るエネルギー弾の隙間をかいくぐる。
しかし、全てをかわすことは出来ず、スカーフェイスの体と、攻撃の射線が交差した。
「命中確率、97パーセント。捉えた。」
エプシロンが命中を確信したそのとき・・・。
「『ディフェンスクローク』!」
スカーフェイスが闘牛士のように黒衣を体の前ではためかせると、弾道が逸れ、流れ弾が周囲の墓標を打ち砕いた。
「魂気を込めた上衣をバリアのように使って攻撃を逸らせるのか。そのなり、忍の里の者ではないな?計算上、当主が出てくると想定していたが。」
エプシロンは、上から下へと視線を落とし、スカーフェイスを値踏みする。
「データベースを検索・・・ほう、王国の最上級戦士だったか。軍属が何をしに来た?大方、オーバーテクノロジーの回収といったところか。」
淡々と問いかけるエプシロンに対し、スカーフェイスは口を開くことなく、視線だけを返し続けた。
目の前の敵は、話に聞いていた機兵とやらだろう。ティルの治療がこの里で行われていることは、把握していないようだ。それ自体は好都合。
そもそも、当主が墓を守りに来ない理由にはさして興味が無い様子だ。
当主が責務と親心の間で揺れていることは、知る由もないし、理解が及ぶこともないのだろう。
どれだけ人を模して、流暢に言葉を紡ごうとも、本質は機械。
「墓荒らしに教える必要はない。軍の都合だ。」
スカーフェイスは、黒衣に纏わせていた魂気を解放し、周囲に光の玉を浮かべる。それは、まるで彷徨う死者の魂が顕現したかのように、静かに揺らめき、夜の墓地を照らし出した。
「データ上は、治癒能力が特筆されているようだが、なかなか興味深い技を持っているな。」
光の玉を目で追うエプシロンの電子頭脳が、対象を解析するべく、回転速度を上げる。
「撃て。『人魂流星群(ソウルファンネル)』!」
スカーフェイスを囲う人魂が明るみを増した刹那、エプシロンに向けて一斉に熱線を発射した。
メスの届かない体の奥に、魂気を当てて病巣を精密に処置するべく『設計』した術式を、攻撃に転用した能力だ。
網の目のように入り組んだ閃光が、闇夜を裂く。
「魂気線の一斉射撃。数は多いが1つ1つの軌道は単純。99パーセント以上の確率で、回避可能。」
熱線の包囲網の隙間を縫うように、最小限の身のこなしで攻撃をかわすと、エプシロンは砲身を構える。
「荷電粒子を体内で加速、攻撃範囲を収束・・・こうか!」
人魂から放たれたのと同質の熱線を、スカーフェイスに向けて放った。
「!!」
スカーフェイスは、間一髪反応するも、攻撃が肩をかすめる。焼き切れた黒衣から一筋の煙が立ち上り、肉の焦げる匂いが鼻を突く。
「光の玉による攻撃と防御は、同時に出来ないようだな。その様子では、戦闘中は治癒能力も使えまい?」
エプシロンの分析は的確だった。
事実、『人魂流星群(ソウルファンネル)』を展開している間は、『ディフェンスクローク』は使えず、その逆も然り。さらに、魂気を戦闘に向けている間は、『リペアボディ』を使うことも不可能だった。
「(たったあれだけの攻防でそこまで見抜き、しかも、攻撃の質を模倣してくるとは・・・!)」
エプシロンの解析力、何よりも即座に攻撃の特性を模倣した学習能力に驚嘆する。しかし、スカーフェイスはどこか達観した空気すら纏い、一息、小さくつぶやいた。
「やはり、1人の戦いは気が楽だな。傷つく者を気にすることなく、戦士に徹することができる。ここは、任されよう。」
元より、『リペアボディ』は自分自身は対象外。守るべき味方がいなければ、戦闘中に治癒能力が使えないことはデメリットにはならない。
黒衣の医師は、今宵は戦士となることを決めている。時を同じくして、親であることを選ぶ者の背中を押すために。
「何をぶつぶつ言っている?」
「解析してみたらどうだ?」
冷徹に見据えるエプシロンの問いかけに、一言だけ返すと、スカーフェイスは今一度、魂気を練り上げる。
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