立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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強襲編

第78章 急襲

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「バルトス、来やがったか・・・!(野郎、どうしてここに?国王からの招集に応じてたんじゃなかったのか?)」

ギーメルがいつもの薄ら笑いを浮かべるが、その顔はどこか強張っている。
想定外のタイミングで現れた、日々の『訓練』で散々に打ちのめされ、力の差を見せつけられて来た相手。
虚勢を張るものの、身構えずにはいられなかった。

「国王からの呼び出しが、予定よりもだいぶ早く解散になってな。ネズミがロクでもないことをしていないか、確かめに来ただけだ。オレの言いつけを破って訓練場を抜け出して、こんな所にいるとはな。」

バルトスの嫌な予感は当たってしまった。
ここ最近、ギーメルの態度が、まるで何かを達観でもしたかのように、妙に大人しくなったことに、違和感を強めていた矢先の国王からの招集。
ギーメルが良からぬことを起こすとしたら、絶好のタイミング。
シェリーが途中退席したことにより、結局、国王(軍事最高顧問を兼任)とS級戦士を交えた幹部会は、予定より早く切り上げとなっていた。

妙な胸騒ぎを覚えていたバルトスは、『最悪のケース』が当たった場合に、ギーメルが向かうであろう場所に足を運んでいた。果たして、ギーメルは賊と旧知の仲のように戯れているではないか。

「へっ。そこまで読んでたなら、もう少し早く来てやりゃあ、こいつも死ななくて済んだかもしれねぇのに。現場を押さえたかったか?お前も悪だなぁ⁉︎」

ギーメルは、潰された虫のように這いつくばるアベルを指して屁理屈を吐く。

バルトスの脳裏に、仄かな痛みが刺す。

ギーメルを戦力として飼い慣らすことを最初に強く進言したのは、バルトス自身ではなかった。
『指導係』を務める中で、彼の離反を想定していなかったわけではない。力で捩じ伏せ、万が一の時には自ら処分する覚悟はあった。
それでも、どこかに慢心があった。
『力の差を見せつければ、御し切れる。』
『自分が出張れば、どうとでもなる。』

実力者故に、リスクを過小評価するきらいがある。
他のS級戦士に対して抱いていた懸念が、他ならぬ自身にも当てはまっていたことを、バルトスはこの時、痛感していた。

『あなたはいつも、自分の力を求めてばかり。人類の未来のためって言うけど、私たちのことはどうでもいいの⁉︎』

「(自分の力に溺れていたことに、気づいていなかったのは、オレだったのかもな。カトレアよ。)」

軍人としての勤めに邁進し、自らを高めることに没頭するあまり、離れて行ってしまったかつての伴侶の名を、心でつぶやく。

しかし、幻影を振り払うかのように気炎を吐いた。

「今更だが認めよう。お前には、性根を叩き治す価値もなかったということを。粛正する。」

牢獄内の空気が、熱を帯びて鳴動するかのような気迫で、目の前の無頼漢を見据える。

「やってみろ。この間までのオレだと思うなよ。」

ギーメルは、一呼吸置くと、腰を落として咆哮する。その身から溢れ出す、紫苑のゆらめき。
今、彼の体を包んでいるのは、『魂気』ではなくエクトプラズムから授かった力、『魔力』だった。
エクトプラズマーの中でも、元々、精鋭隊に身を置けるほどに魂気を扱えた者は、そう居ない。

「エクトプラズムを分け与えてから、この短期間で、もうこれだけの魔力を発することが出来るとはな。」

ゲンジが驚嘆の表情を浮かべる。

「もちろん、魂気だって今まで通り使えるぜ。二刀流ってヤツだ。今日こそテメェを・・・!」

ギーメルの体内を電流が巡り、人間の反応速度の限界を超えて、肉体を駆動させる。

『大雷台祭(サンダーダンサー)』を発動し、魔力を込めた拳でバルトスに先制の一撃を撃ち込もうと、間合いを一気に詰めた。

「血祭りに上げてやるぜぁーー!」

己を奮い立たせるかのように、積年の恨みを込めて、絶叫する。

「⁉︎」

刹那、ギーメルは底なしの重低音と、耐え難い不快感に、鳩尾を貫かれる。

「二刀流とやらになっても、やることは今までと同じか。阿呆めが。」

タイミングを完全に合わせたバルトスの拳が、水月の奥深くに食い込んでいた。

「ゲ、ボアァァ・・・!」

ギーメルは悶絶し、吐瀉物を撒き散らしながら前のめりに倒れ込んだ。
それを見下ろすバルトスの頬に、酸えた飛沫付着する。しかし、バルトスは全く意に介さず、追撃の手を緩めなかった。
ギーメルの顎に膝蹴りを合わせ、さらに、跳ね上がった顔面に右ストレートを打ち下ろした。
拳の勢いそのままに吹き飛ばされたギーメルの体は、ぶつかった石材の壁を砕き、そのまま力無く崩れ落ちた。

それを目の当たりにしたゲンジ、ジグロ、ウェルダンは、呆気に取られた。特に、ジグロの驚嘆は大きかった。
自分のような『特異体質』でこそないが、鍛え抜かれた肉体。練り上げられた魂気。敵と見なした者には一切の容赦すらない決断力。これぞ完成された武人、いや、鬼神と言うべきか。
魔の力を鋼の肉体に宿しているのは自分のはずなのに、得体の知れない畏怖の念すら覚える。

「ワンダフルだ。武者震いが止まらねぇ。」

特別強化機兵、アブソリュートガードナーと対峙した時と同じ極上の高揚感が、背中を走り抜ける。

「全員!もう一度縄につけぃ!」

仁王立ちのバルトスが、鬼の形相で一括し、牢獄そのものがビリビリと震えた。

「見覚えのある顔だと思ったが、いつか邪魔をしてくれた精鋭隊の上級戦士か。」

ゲンジは、そんなバルトスの姿を、睨め上げた。

かつて、ライラの町近辺の荒原でメタル、ティルと交戦していた手配モンスターロンカの様子を見に行った時の記憶が蘇る。
オーバーテクノロジー『黒き十字架』を乱用しようとしたロンカに制裁を加え、さらに、メタルと対峙していた時に、救援に駆けつけてきたバルトスと邂逅した。
加減なく撃ち込んできた極大の光弾を、空間転移で辛うじて回避して撤収したのだった。
額に冷たい汗が伝うのを感じながら、奥歯を強く噛みしめる。

「間近で接すると、改めて凄まじい実力者だということがよく分かる。流石だ。だが、我々を止めることは出来んよ。プランBは・・・二段構えだ!」

ゲンジがバルトスに啖呵を切ったその時、警報が鳴り響いた。

「来たか!」

待っていた何かの到着を悟り、ゲンジの目に光が宿り、口角が持ち上がる。

・・・

警報鳴り響く地上では、王都の防衛隊が仕切りに無線を飛ばしていた。

「(軍司令部に向かって、上空から急速接近する物体を確認!魔力の気配は無し、すでに第一防衛ライン、第二防衛ラインも突破。何だこいつは、速すぎ・・・うわああぁーー!)」

悲鳴が砂嵐のような雑音に変わり、通信が途絶える。

魔力の気配もなく突如現れた、翼竜を彷彿とさせるその影は、防壁のはるか高みを音を置き去りにして駆け抜け、対空砲の嵐を物ともせずに潜りながら、嘲笑うかのように斬撃の絨毯爆撃で地上の兵士達を焼き払った。破壊された対空砲から次々と赤い火柱が立ち上がり、炸裂音と黒煙の隙間を縫うように、悲鳴が飛び交う。

防衛ラインを単騎突破し、急襲したのは、ドグマハート直属の特別強化機兵、空の暴君、マッハネオグライダーであった。

「どいつもこいつも遅すぎる!このオレの欠伸ぐらい、止めてみやがれぇ!」

王都の上空に侵入、さらに、軍の敷地内に到達したネオグライダーは、縦横無尽に飛び回り、施設や衛兵を攻撃して回っていた。

バルトスらが国王の招集に応じた隙に、保管庫と牢獄の襲撃を決行することを決めたギーメルは、『パンドラの小箱』に収納し直していたメッセージバードに自らが動く日時を伝え、ドグマハートらのアジトに向けて飛ばしていたのだった。
決行のタイミングに呼応し、ネオグライダーが単騎、奇襲をかけて撹乱する手筈になっていたのである。

・・・

「これは・・・、地上で、何か異変が起きている⁉︎」

目の前の獲物を捕食せんとする猛獣のようだったバルトスの注意が、わずかにゲンジ達から外れた。
刹那、ゲンジの周りの空間が歪む。その歪みは、近くにいたジグロ、ウェルダン、そして、崩れた石材に埋もれて力無く伏すギーメルをも包み込み、体と空間の境目を曖昧にしていく。
空間転移で脱出するつもりだ。

「また逃げる気か!そうはさせん!」

視線を前に戻すと、バルトスは懐から1本の小刀を取り出し、ゲンジに向かって投げつけた。

「ぐぬっ!」

小刀はゲンジの肩口を捉え、突き刺さった。
ゲンジは苦悶の表情で、忌々し気に小刀に目をやるが、キサラギの里でジルに両手を切り落とされているために、引き抜くことが出来ない。

次いで、バルトスは床を蹴り、ゲンジに突進すると、その懐目掛けて拳を振るった。
しかし、拳が捕えたのは、ゲンジではなく、彼を守るように前に出たジグロの鳩尾だった。

「ゲハァ・・・ア」

さしもの鋼鉄の筋肉を誇るジグロも、バルトスの鉄拳を急所に受け、たまらず苦悶の声を漏らした。

さらに、バルトスは倒れ込んだジグロの衣服を掴み、力ずくで引きずり起こした。
しかし、追撃を加えるよりも前に、ジグロの体は空間の中に溶け、彼を掴んでいたバルトスの手が滑り抜けた。

「本当に、おっかねぇヤツだな。魔力が完全に戻ったら、手合わせ願いたいもんだ。だが今日は、時間切れだぜ。」

息を切らし、脂汗を滴らせながらも、野生的な笑みは絶やさないまま、捨て台詞と共に姿を消した。











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