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入隊試験編
第18章 二次試験その9 お前は強いよ
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二次試験第3試合は、激闘の末にメタルがギーメルを打ち破り幕を閉じた。
「よくやったぞ少年!ウチは信じてた!」
シェリーがまっすぐな瞳で拳を握りながら、称賛する。
もう片方の腕には、レイチェルを抱えている。
「う、嬉しいけど、く、苦しいですー!」
気持ちの昂ったシェリーが、思わず手近にいたレイチェルを羽交い締めにしてしまったようだ。
メイカはバルトスに話しかけていた。
「正直、僕はこの試合もギーメルに分があると思っていたよ。魂気の総量もさることながら、能力の運用や実戦経験でも、ギーメルの方が高い水準にあると見立てていたんだけど、下馬評を覆されたよ。メタルはこの戦いで何かをつかんだようだね。あいつは、お前の弟子だったんだろう?」
「正直なところ、オレの見立てもお前と同じだったよ。周囲の元素(エレメント)を取り込んで剣の属性を変化させる。あれはオレにもマネはできん。ヤツ自身の思いや体験が絡み合って、たどり着いた能力の形だ。オレの指南を受けてから久しいが、ヤツなりに成長していたということか。」
「お前の口からそんな言葉が出るとはな。(やはり成長株のようだな。こいつは僕の目的のために、大いに利用できる素材だ。)」
メイカの表情が、にわかに野心的な影を宿したが、そのときバルトスの視線は、白目をむいて気絶しているギーメルに向けられていた。
「(能力は申し分ないが、やはりあいつは危険だな。A級レベルの力を持ちながら、過去の試験でも数々の狼藉をはたらいたため、B級に止まり続けていたが・・・。誰かがヤツの手綱を握る必要がある。)」
一方、勝利の確定を聞いたメタルは、緊張の糸が切れたかのように地面に膝を着いた。
手にしていた水の力を宿した剣から、ゆらめくような青いオーラが消えていく。剣の属性を変化させることができる時間には制限があるようだ。さらに、剣の刀身が形を失い、解けて行く。
戦いに集中して忘れていたが、ギーメルの猛攻で受けたダメージは大きく、メタルももう限界だった。
「(どうにか勝った。本当に手強いヤツだった。
土壇場で、剣に水の力を宿すことができていなかったら・・・負けていたかもしれない。)」
まるで先ほどまで手にしていた剣の感触を思い起こすかのように、自らの掌を見つめていたが、やがて体の痛みに小さくうめき声をもらしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「(いてて、体中の筋肉がきしんでるみたいだ。
でもあと一戦、なんとか戦い抜かなきゃ。
それに、ティルの様子も気になる。オレなんかよりもっとひどいダメージだった。大丈夫かな・・・)」
そのとき、メタルの耳に思いがけない人物の声が飛び込んできた。
「メタルー、あいつと試合して、勝ったんだね!敵とってくれて、ありがとう!」
振り向いた先にあったのは、ステージの方に小走りで駆け寄ってくるティルの姿だった。
「ティル!も、もう大丈夫なのか?あんなにひどいダメージだったのに・・・⁉︎」
メタルは目を丸くした。衣服に傷みや焦げ跡こそ見られるが、赤みを帯びて熱くなっていた皮膚も、ちぢれて焦げた匂いを立ち上らせていた髪も、ギーメルとの激闘がウソだったかのように元に戻っている。
「へへ、驚いた?私もびっくりしたんだけどさ。スカーフェイス先生が、治してくれたんだ。」
ティルは両手を前に広げながら、笑顔を向けた。
「言っただろう、スカーフェイスは右に出る者のない治癒能力者だと。」
バルトスがティルにところにやってきた。
治療から戻ってきたスカーフェイスの姿もある。
「まぁ、治療で全快したとは言え、戦闘不能のダメージを受けていた以上、二次試験は棄権と見なさざるを得ないんだが、私の『リペアボディ』で処置した以上は心配いらない。普段通りに過ごしてくれ。」
いやいや、あれだけのダメージが、メタルとギーメルが戦っている間に全快しているなんて、いくらスカーフェイスがS級戦士とはいえ、治癒能力の性能が破格すぎる。右に出る者がいないの一言では、到底片付けられない。
メタルは、自分によくハンターの仕事を回してくれていたマリオが、いつぞや苦笑いしながら話していた言葉を思い出した。
(S級戦士の人達って、単に魂気が多いってだけじゃなくて、それ以上にとにかくやることが人間離れしてるんですよね。みんな『チートに手足が付いて息してるような感じ』ですよ。イヤんなっちゃいますね!)
あのバルトスの加減を知らない破壊力を思えば、それを治癒能力に置き換えると、これほど破格の回復力になるということだろうか。
「まぁ、この先私に甘えられすぎても困るから先に言っておくと、私の『リペアボディ』は、脳や脊髄のダメージは治すことはできないからな。それ以外の肉体の損傷なら、私の魂気が続く限り、どんなケガでもほぼ問題なく完治できる。そういう設計の能力なんだ。」
スカーフェイス自らが補足してくれた。
「それから、私自身を治療することも不可能だ。おかげで、未だにこんな男前のままなんだがな。というわけで、私のことは労るんだぞ?」
自らの傷だらけの顔について自虐的に触れつつ、冗談混じりに付け足した。
それでも驚くしかないほどの回復力だが、ともかく、ティルが無事に元気になったことに、メタルは胸を撫で下した。
「でも、さすがに私は不合格決定だよね。
1戦目はKO負けだったし、2戦目は棄権で不戦敗扱い。ちょっと、いいとこ無さすぎだよね。」
ティルはしょんぼりと肩を落としながら、ステージ横の掲示板に目をやった。
視線を上から下へと動かし、試合結果とスコアを確認するが、やがて不思議そうに首をかしげた。そして、何かを確かめ直すようにもう一度視線が上から下へと動く。
「ねぇメタル、見て欲しいんだけど、これって間違ってるよね?」
ティルに促され、メタルも掲示板の前まで行き、掲示内容に目を通す。
第1戦 第2戦 総計
レイチェル +2 +1 +3
ジェノ -1 -1
ティル +1 -2 -1
ギーメル -2 -1 -3
メタル +2 +2
レイチェルは本来、2戦目にギーメルと当たるはずだったが、カード変更によりメタルがギーメルと戦うことになったため、メタルの本来の相手だったティルに不戦勝したことになっているようだ。
メタル対ジェノのカードは、本来の組み合わせから変更なく、まだ実施されていないということになる。
このあたりはつじつまが合う。
やはりティルとギーメルのスコアのつじつまが合わない。
ティルは1戦目がKO負けマイナス1点、2戦目は不戦敗でマイナス2点、トータルスコアはマイナス3点になるはずだ。
逆に、ギーメルは1戦目がKO勝ちでプラス2点、2戦目がKO負けでマイナス1点、トータルスコアはプラス1点のはず。
「私とギーメルの試合のスコア、逆だよね?」
ティルがメタルに確かめるように尋ねる。
「うーん、確かに。掲示のミスかな?」
メタルも首をかしげた。
その時、背後から声がした。
「失礼だな。ミスなんかじゃねぇよ。これが各々の今までの試合のスコアだ。」
2人の様子を見ていたガルドが話に割って入ってきた。
「メタル、お前試合のカードをムリやり変えた上に、第2試合の結果をちゃんと聞く前にギーメルに突っ込んで行っただろう。」
確かにそのとおりだ。あの時は、ティルに対するギーメルの行いが許せないことで頭がいっぱいだった。2人の試合の結果はてっきり、ギーメルのKO勝ちだと思っていた。
「ギーメルはティルとの試合で、完全に主導権を握った状態から再三の降参勧告を繰り返して、これ以上は遅延行為と見なすと警告を受けていたのは覚えているな?」
確認するガルドに対して、メタルとティルは頷いた。
「そして、その後ギーメルがとった行動は何だったかも思い出せるな?」
ギーメルのセリフが頭に蘇る。
(なぁ小娘、お前にビッグチャンスをやろう。
『オレ様の負けだ。降参してやる。お前の勝ちを宣言しろ。』)
にわかにティルの表情が固くなり、唇をギュッと結んだ。
生殺与奪を握った上での、勝利を放棄する宣言。お前への勝利など、自分にとっては何の価値もない。そう侮辱されたも同然。戦士としての存在価値を全否定された悔しさを、忘れることはできないだろう。
だが、続けてガルドが口にしたセリフはこうだった。
「オレは警告を受けた直後にもかかわらず、ヤツが『敗北宣言』したことを、試合放棄と判断した。意図的な試合放棄は減点対象。マイナス2点とした。」
晴天の霹靂だった。確かに説明されていたルールに照らし合わせても、そのような判断はあり得るかもしれないが、あの時には想像もしなかった。
さらにガルドは続けた。
「意図的な試合放棄を追認した者も減点対象。
受け答えによっては、ティルも減点対象になり得たんだが、ティルはギーメルの『敗北宣言』をきっぱり突っぱねたからな。その時点で減点はなし。あとは、試合内容を加味してポイントを決めたよ。
確かに、最後は一方的な形になっちまっていたが、互いの土俵でのスピード勝負は互角だった。ティルの方からも決定打になりそうな攻撃をしかけていた気配もあったからな。ティルにも勝ち筋はあった試合だと、オレは判断した。
故に、棄権試合の勝者と同じ、プラス1点をつけることにした。
掲示板の結果がああなっているのは、オレの判断どおりというわけだ。」
ティルは感極まって思わず喉元まで上がってきた声を、口元に両手を当ててどうにか押しとどめた。
敗北を喫した上に、2戦目を棄権せざるを得ない状態にまで追い込まれたことを実感したときには、意地を張ったことが正しかったのか、
わからなくなってしまっていた。
現状でも、決して参加者の中で優位なスコアになったわけではない。それでも、できる限りの手を尽くして戦い抜き、戦士として最後まで心を折らなかったことが報われていたことがわかり、ティルの心はただ打ち震えていた。
メタルも心の中でティルにエールを送っていた。これはティルの意地がつかんだ勝利だ。
とはいえ、あれだけの痛みや悔しさにティルが打ちひしがれていたのも事実。簡単に、良かったな、とか頑張ったな、と口にするのも違う気がする。それでもティルの顔をまっすぐに見て、一言だけ伝えた。
「やっぱりお前は強いよ、ティル。」
感情を押し留めていたティルの両手が口元から離れ、満面の笑みをメタルに向けた。
シェリーとレイチェルも、祝福するような晴れやかな表情で、メタルとティルのやり取りを見つめていた。
そんな中、ジェノは、1人静かにステージへと上がり、集中を高め始めた。
彼は思う。
劇的な展開ではあるが、自分自身がやるべきことは何も変わらない。それは最終戦の相手であるメタルに、己のできることすべてをぶつけて勝利すること。
「オレはオレのなすべきことをやるのみだ。お前にダメージがあるのはわかっているが・・・悪いが容赦はしない。」
ステージ上からメタルを睨みつけながら、宣戦布告した。
その気配を感じ取り、メタルもまた、満身創痍である身を今一度奮い立たせた。
二次試験は最終局面を迎えようとしていた。
「よくやったぞ少年!ウチは信じてた!」
シェリーがまっすぐな瞳で拳を握りながら、称賛する。
もう片方の腕には、レイチェルを抱えている。
「う、嬉しいけど、く、苦しいですー!」
気持ちの昂ったシェリーが、思わず手近にいたレイチェルを羽交い締めにしてしまったようだ。
メイカはバルトスに話しかけていた。
「正直、僕はこの試合もギーメルに分があると思っていたよ。魂気の総量もさることながら、能力の運用や実戦経験でも、ギーメルの方が高い水準にあると見立てていたんだけど、下馬評を覆されたよ。メタルはこの戦いで何かをつかんだようだね。あいつは、お前の弟子だったんだろう?」
「正直なところ、オレの見立てもお前と同じだったよ。周囲の元素(エレメント)を取り込んで剣の属性を変化させる。あれはオレにもマネはできん。ヤツ自身の思いや体験が絡み合って、たどり着いた能力の形だ。オレの指南を受けてから久しいが、ヤツなりに成長していたということか。」
「お前の口からそんな言葉が出るとはな。(やはり成長株のようだな。こいつは僕の目的のために、大いに利用できる素材だ。)」
メイカの表情が、にわかに野心的な影を宿したが、そのときバルトスの視線は、白目をむいて気絶しているギーメルに向けられていた。
「(能力は申し分ないが、やはりあいつは危険だな。A級レベルの力を持ちながら、過去の試験でも数々の狼藉をはたらいたため、B級に止まり続けていたが・・・。誰かがヤツの手綱を握る必要がある。)」
一方、勝利の確定を聞いたメタルは、緊張の糸が切れたかのように地面に膝を着いた。
手にしていた水の力を宿した剣から、ゆらめくような青いオーラが消えていく。剣の属性を変化させることができる時間には制限があるようだ。さらに、剣の刀身が形を失い、解けて行く。
戦いに集中して忘れていたが、ギーメルの猛攻で受けたダメージは大きく、メタルももう限界だった。
「(どうにか勝った。本当に手強いヤツだった。
土壇場で、剣に水の力を宿すことができていなかったら・・・負けていたかもしれない。)」
まるで先ほどまで手にしていた剣の感触を思い起こすかのように、自らの掌を見つめていたが、やがて体の痛みに小さくうめき声をもらしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「(いてて、体中の筋肉がきしんでるみたいだ。
でもあと一戦、なんとか戦い抜かなきゃ。
それに、ティルの様子も気になる。オレなんかよりもっとひどいダメージだった。大丈夫かな・・・)」
そのとき、メタルの耳に思いがけない人物の声が飛び込んできた。
「メタルー、あいつと試合して、勝ったんだね!敵とってくれて、ありがとう!」
振り向いた先にあったのは、ステージの方に小走りで駆け寄ってくるティルの姿だった。
「ティル!も、もう大丈夫なのか?あんなにひどいダメージだったのに・・・⁉︎」
メタルは目を丸くした。衣服に傷みや焦げ跡こそ見られるが、赤みを帯びて熱くなっていた皮膚も、ちぢれて焦げた匂いを立ち上らせていた髪も、ギーメルとの激闘がウソだったかのように元に戻っている。
「へへ、驚いた?私もびっくりしたんだけどさ。スカーフェイス先生が、治してくれたんだ。」
ティルは両手を前に広げながら、笑顔を向けた。
「言っただろう、スカーフェイスは右に出る者のない治癒能力者だと。」
バルトスがティルにところにやってきた。
治療から戻ってきたスカーフェイスの姿もある。
「まぁ、治療で全快したとは言え、戦闘不能のダメージを受けていた以上、二次試験は棄権と見なさざるを得ないんだが、私の『リペアボディ』で処置した以上は心配いらない。普段通りに過ごしてくれ。」
いやいや、あれだけのダメージが、メタルとギーメルが戦っている間に全快しているなんて、いくらスカーフェイスがS級戦士とはいえ、治癒能力の性能が破格すぎる。右に出る者がいないの一言では、到底片付けられない。
メタルは、自分によくハンターの仕事を回してくれていたマリオが、いつぞや苦笑いしながら話していた言葉を思い出した。
(S級戦士の人達って、単に魂気が多いってだけじゃなくて、それ以上にとにかくやることが人間離れしてるんですよね。みんな『チートに手足が付いて息してるような感じ』ですよ。イヤんなっちゃいますね!)
あのバルトスの加減を知らない破壊力を思えば、それを治癒能力に置き換えると、これほど破格の回復力になるということだろうか。
「まぁ、この先私に甘えられすぎても困るから先に言っておくと、私の『リペアボディ』は、脳や脊髄のダメージは治すことはできないからな。それ以外の肉体の損傷なら、私の魂気が続く限り、どんなケガでもほぼ問題なく完治できる。そういう設計の能力なんだ。」
スカーフェイス自らが補足してくれた。
「それから、私自身を治療することも不可能だ。おかげで、未だにこんな男前のままなんだがな。というわけで、私のことは労るんだぞ?」
自らの傷だらけの顔について自虐的に触れつつ、冗談混じりに付け足した。
それでも驚くしかないほどの回復力だが、ともかく、ティルが無事に元気になったことに、メタルは胸を撫で下した。
「でも、さすがに私は不合格決定だよね。
1戦目はKO負けだったし、2戦目は棄権で不戦敗扱い。ちょっと、いいとこ無さすぎだよね。」
ティルはしょんぼりと肩を落としながら、ステージ横の掲示板に目をやった。
視線を上から下へと動かし、試合結果とスコアを確認するが、やがて不思議そうに首をかしげた。そして、何かを確かめ直すようにもう一度視線が上から下へと動く。
「ねぇメタル、見て欲しいんだけど、これって間違ってるよね?」
ティルに促され、メタルも掲示板の前まで行き、掲示内容に目を通す。
第1戦 第2戦 総計
レイチェル +2 +1 +3
ジェノ -1 -1
ティル +1 -2 -1
ギーメル -2 -1 -3
メタル +2 +2
レイチェルは本来、2戦目にギーメルと当たるはずだったが、カード変更によりメタルがギーメルと戦うことになったため、メタルの本来の相手だったティルに不戦勝したことになっているようだ。
メタル対ジェノのカードは、本来の組み合わせから変更なく、まだ実施されていないということになる。
このあたりはつじつまが合う。
やはりティルとギーメルのスコアのつじつまが合わない。
ティルは1戦目がKO負けマイナス1点、2戦目は不戦敗でマイナス2点、トータルスコアはマイナス3点になるはずだ。
逆に、ギーメルは1戦目がKO勝ちでプラス2点、2戦目がKO負けでマイナス1点、トータルスコアはプラス1点のはず。
「私とギーメルの試合のスコア、逆だよね?」
ティルがメタルに確かめるように尋ねる。
「うーん、確かに。掲示のミスかな?」
メタルも首をかしげた。
その時、背後から声がした。
「失礼だな。ミスなんかじゃねぇよ。これが各々の今までの試合のスコアだ。」
2人の様子を見ていたガルドが話に割って入ってきた。
「メタル、お前試合のカードをムリやり変えた上に、第2試合の結果をちゃんと聞く前にギーメルに突っ込んで行っただろう。」
確かにそのとおりだ。あの時は、ティルに対するギーメルの行いが許せないことで頭がいっぱいだった。2人の試合の結果はてっきり、ギーメルのKO勝ちだと思っていた。
「ギーメルはティルとの試合で、完全に主導権を握った状態から再三の降参勧告を繰り返して、これ以上は遅延行為と見なすと警告を受けていたのは覚えているな?」
確認するガルドに対して、メタルとティルは頷いた。
「そして、その後ギーメルがとった行動は何だったかも思い出せるな?」
ギーメルのセリフが頭に蘇る。
(なぁ小娘、お前にビッグチャンスをやろう。
『オレ様の負けだ。降参してやる。お前の勝ちを宣言しろ。』)
にわかにティルの表情が固くなり、唇をギュッと結んだ。
生殺与奪を握った上での、勝利を放棄する宣言。お前への勝利など、自分にとっては何の価値もない。そう侮辱されたも同然。戦士としての存在価値を全否定された悔しさを、忘れることはできないだろう。
だが、続けてガルドが口にしたセリフはこうだった。
「オレは警告を受けた直後にもかかわらず、ヤツが『敗北宣言』したことを、試合放棄と判断した。意図的な試合放棄は減点対象。マイナス2点とした。」
晴天の霹靂だった。確かに説明されていたルールに照らし合わせても、そのような判断はあり得るかもしれないが、あの時には想像もしなかった。
さらにガルドは続けた。
「意図的な試合放棄を追認した者も減点対象。
受け答えによっては、ティルも減点対象になり得たんだが、ティルはギーメルの『敗北宣言』をきっぱり突っぱねたからな。その時点で減点はなし。あとは、試合内容を加味してポイントを決めたよ。
確かに、最後は一方的な形になっちまっていたが、互いの土俵でのスピード勝負は互角だった。ティルの方からも決定打になりそうな攻撃をしかけていた気配もあったからな。ティルにも勝ち筋はあった試合だと、オレは判断した。
故に、棄権試合の勝者と同じ、プラス1点をつけることにした。
掲示板の結果がああなっているのは、オレの判断どおりというわけだ。」
ティルは感極まって思わず喉元まで上がってきた声を、口元に両手を当ててどうにか押しとどめた。
敗北を喫した上に、2戦目を棄権せざるを得ない状態にまで追い込まれたことを実感したときには、意地を張ったことが正しかったのか、
わからなくなってしまっていた。
現状でも、決して参加者の中で優位なスコアになったわけではない。それでも、できる限りの手を尽くして戦い抜き、戦士として最後まで心を折らなかったことが報われていたことがわかり、ティルの心はただ打ち震えていた。
メタルも心の中でティルにエールを送っていた。これはティルの意地がつかんだ勝利だ。
とはいえ、あれだけの痛みや悔しさにティルが打ちひしがれていたのも事実。簡単に、良かったな、とか頑張ったな、と口にするのも違う気がする。それでもティルの顔をまっすぐに見て、一言だけ伝えた。
「やっぱりお前は強いよ、ティル。」
感情を押し留めていたティルの両手が口元から離れ、満面の笑みをメタルに向けた。
シェリーとレイチェルも、祝福するような晴れやかな表情で、メタルとティルのやり取りを見つめていた。
そんな中、ジェノは、1人静かにステージへと上がり、集中を高め始めた。
彼は思う。
劇的な展開ではあるが、自分自身がやるべきことは何も変わらない。それは最終戦の相手であるメタルに、己のできることすべてをぶつけて勝利すること。
「オレはオレのなすべきことをやるのみだ。お前にダメージがあるのはわかっているが・・・悪いが容赦はしない。」
ステージ上からメタルを睨みつけながら、宣戦布告した。
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