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第五章

5-19ビエム・カース

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 5-19ビエム・カース

 黒の集団は一斉にその異形の兜に群がる。


 ざっと見ても黒ずくめの男たちは三十人くらいいる。
 しかもそいつらはたぶん人じゃない。
 黒ずくめは両手に短刀のダガーを握りしめ、執拗に異形の兜を襲う。
 しかし、異形の兜の戦士は素手でそいつらを軽々と薙ぎ払う。
 黒ずくめの男たちより早く動き、その手刀は黒づくめの腕切り裂き、蹴り上げによって上半身を吹き飛ばすという異様なまでの戦闘能力!

 あたしは思わず同調をして異形の兜の戦士を【感知魔法】を使って見る。
 
 すると異形の兜の戦士は攻撃をするたびに体内の魔力を拳や足に流し込み、どうやらそこに埋め込まれている魔晶石の魔法を使って攻撃力を上げているようだ!?

 しかしそれは普通の人間でないことになる。
 キメラやゴーレムの類と同じで人ではないのだ!

 「おのれ、裏切り者! お前たち、一斉にやっておしまい!」

 ボンテージ美女のヒステリックな命令に一度に十人ほど異形の兜に群がるが、何と異形の兜は押し寄せる黒ずくめをその場で約十メートル近く跳躍して距離を取る。

 あたしたちはそのあまりの運動能力に唖然としてしまう。

 「くっ! 試験体一号改! 何をしているのですの、お前もあやつを倒すのですわ!!」

 ボンテージ美女は鞭を一振り、残った怪人に打ち付け異形の兜を追わせる。

 と、ここでアイミが反応する。

 ぴこっ!

 「エルハイミ! アイミがあれは以前襲撃してきたキメラだって!!」

 アイミと同調をしているティアナにはダイレクトにアイミの意思が伝わってくる。
 あたしはその言葉を聞きもう一度その怪人を見る。
 以前見た時と少し外観が違うが、修復されたマスクも見覚えがある。

 「ビエム!!」

 あたしの叫びにこの怪人は一瞬びくっとなり動きを止める。
 そしてちらっとあたしたちの方に顔を向けてから異形の兜に立ち向かう。

 異形の兜は既に十人ほどの黒ずくめを倒し終わっていた。

 そこへビエムが躍り出て鍵爪の腕を振るう。
 それを異形の兜は払いのけ、拳を打ち込もうとするが、払いのけた腕に鍵爪から生えた触手が絡み付き異形の兜の動きを封じる。

 異形の兜は魔力を活性化させ、体内に埋め込まれているらしい魔晶石の魔力を開放する。
 その力は片手でビエムを持ち上げ地面にたたきつける。
 
 流石にその衝撃に耐えられずビエムは異形の兜を開放してしまい、体制を整えるため距離を取る。

 そこへ異形の兜は必殺の正拳を叩き込む。
 ビエムはかろうじてそれをかわすが、完全に避け切れず左肩を吹き飛ばされる。

 よろめくビエムにとどめを刺すために異形の兜は跳んだ!
 その跳躍は軽く十メートル近く跳ね上がり、魔力を込めた足はわずかに光っている。
 
 そして先ほどの稲妻のような蹴りが炸裂する!

 「試験体一号改! 今ですわ、やっておしまい!!」

 まるでそれを待ち構えるかのようにボンテージ美女がビエムに命令をする!
 と、異形の兜の蹴りがビエムに当たる瞬間、ビエムがはじけ頭を残し網のように広がる!?
 蹴りの当たった部分は吹き飛ばされたものの、異形の兜の上半身にはビエムが絡み付く!

 「ぐっ! これは!?」

 初めて口を開く異形の兜、予想通り男性の渋い声がする。

 「おーっほっほっほっほっ! かかりましたわね、裏切り者ショーゴ・ゴンザレス! 散々逃げ回って手を焼かせてくれましたけど、これで終わりですわ! 試験体一号改最後の務めを果たしなさい!!」

 ボンテージ美女がそう言うとビエムの体内魔力が急激に活性化する!?
 まずい、あのままじゃ暴走して爆発する!

 「くっ! おのれっ!!」

 かろうじて動く左腕を手刀に異形の兜はビエムの首を叩き切る!
 跳ね飛ばされたビエムの首は宙に舞い仮面が外れ、間違いなくビエムの顔を晒す。

 「あっ!」

 あたしの短い叫びと同時に異形の兜と中心に大爆発が起こる!


 どおっおおおおおんんっっ!!!!


 「おーっほっほっほっ、やりましたわヨハネス様ぁ! 憎き裏切り者をこのジェリーンが始末いたしましたわぁ!!」

 高笑いするボンテージ美女だったが、爆炎が収まり視界が開けてくるとそこには人影があった。
 ぼろぼろになりながらもかろうじて立っているその異形の兜は片腕をもがれ、所々を損傷している。
 血はほとんど流れていない。
 傷口から覗くそこには魔晶石や機械機構のようなものが見える?
 こいつもキメラか??

 「くっ、しぶといですわね! でも、もう戦う力など残っていないですわね? お前たち、一気にやっておしまい!!」

 残っていた黒ずくめが一斉に異形の仮面に殺到する。


 「やらせん!」


 しかしそれを一刀両断でロクドナルさんが叩き切る。

 「アイミ!」

 異形の兜を守るかの如くアイミも【炎の矢】を乱射しまくりながら間に割り込む。

 「くっ、誰ですの!? 邪魔をするのは!!!?」

 「黒の集団! 今度こそ捕まえていろいろしゃべってもらうわよ!」
 
 ティアナが声を張り上げる。

 「黒の集団? 失礼な、そんな無粋な名前を勝手に付けないでいただきたいわ! 我々は秘密結社ジュメル! この腐った世界を破壊する者! 大いなる意志に立てつく愚か者どもめ、思い知るがいいですわ!!」

 そう言って【氷の矢】を打ってくる。
 なかなかの本数を一度に放つそれはそこそこ出来る魔術師か!?

 しかしあたしたちに並では通らない。
 【氷の矢】がぶつかる寸前あっさりとアンナさんにかき消され魔力吸収される。

 「なっ!? 何をしたのですの!!!?」

 「その様な魔法は私たちには通用しません。お覚悟!」

 そう言ってアンナさんは詠唱短縮で【火球】を二十個くらい発生させボンテージの女に放つ。

 「ひっ、ひいぃぃぃぃぃっ!」
 

 どかっぁぁぁんんんっ!!


 叫んで防御魔法を展開するが完全に防ぎきれず吹き飛ばされる。
 爆裂の中煙を上げてひゅるるるるぅううっと吹き飛ばされ、ぼてっと向こう側の崖の方に飛ばされ落っこちる。
 勢い止まらず崖の下へ落ちていくが「お、覚えてなさいよね!!!!」と叫んでいたみたいだ。


 あ、アンナさんあれ逃げられちゃったんじゃ?


 「あ、強すぎました。あれってまだ生きているでしょうか?」

 「アンナさんまだ数名黒ずくめがいます。先にそちらを捕縛しないといけませんわ!」

 あたしはそう言いながら黒ずくめたちを牽制するために【地槍】アーススパイクで動きを止める。
 そこへロクドナルさんとアイミが躍り出て捕縛しようとするがアンナさんがいきなり叫ぶ。

 「逃げてください! 自爆するつもりです!!」

 ロクドナルさんもアイミもすぐに跳ね退き防御をする。
 それと同時位に残った数名の黒ずくめも自爆する。

 ばぁんんんっ!
 ばぁんんんっ!! 
 ばぁんんんっ!!!!

 「くっ、まさか自爆するとは、まるで間者のようですな」

 剣を収めロクドナルさんが言う。
 
 「逃げられたかしら?」

 「どうでしょうかしら? あの崖ですからね。それより‥‥‥」


 そう言ってあたしは切り飛ばされたビエムの頭のところまで行く。


 「オ、オマ・・・エハ‥‥‥」

 「やはりビエムでしたわね? 何故こんな事に? ゴエムも探していましたわよ」

 「ゴ、ゴエム・・・ダメ、ナイショ‥‥‥」

 そう言ってビエムはそれ以上何も言わなくなった。


 あたしは何も言わずその場を離れ異形の兜の男のもとに行った。

 「エルハイミ?」

 ティアナも駆けつけてきた。
 あたしは同調して異形の兜を見る。
 これは人じゃない。
 でもかろうじて生きている。
 人としての生命力を感じる。
 
 あたしは回復魔法をかけながらティアナやアンナさんに声をかける。



 「この人を助けますわ!!」


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