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第五章
5-20治療
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5-20治療
全く良く出来ている。
あたしたちはそう思う他なかった。
黒の集団、いや、秘密結社ジュメルを甘く見ていた。
ビエムの亡骸を回収しようとしたら自己溶解を始めてほとんど形状が分からないくらいになっていた。
まさかと思って他の黒ずくめたちを見てもほとんど同じで、元は何だったのかも分からないほど溶解が進んでいた。
もともとホリゾン帝国と秘密結社ジュメルの関係は疑っていたが確たる証拠がなかった。
今回の件でその裏付けとなる証拠が手に入ったと思ったら証拠隠滅をされてしまった。
全く、用意周到だな。
しかし、あたしたちにはもう一つ収穫があった。
裏切り者呼ばわりされていた異形の兜の男、ショーゴ・ゴンザレスと言う人物だ。
だが今の彼は油断は禁物、このままでは命が危ないのだ。
先の戦闘でかなりのダメージを受けている。
あたしたちは彼を城の一室に連れ込み、容態を見る。
同調して感知魔法も駆使したあたしやティアナ、そして心眼を開きその真相を見極めるアンナさん。
あたしたちの目に映るそれはおおよそ人ではなかった。
いや、かろうじて残る人の部分はほぼほぼ脳みそぐらいなもので、各内臓器官や動力に至るまで機械らしきものと魔晶石による構成だった。
だけどよくこんな体で生きていけるわね‥‥‥
「エ、エルハイミちゃん! 彼の動力源、これって魔晶石核です!」
「えっ!?」
そんな馬鹿な!?
魔晶石核なんてうちの専売特許みたいなもの、世の中なんかに出回っていないはず。
あたしは慌ててそれを確認するも、確かに魔晶石核だ。
ぴこ!
アイミがこのサラマンダーは自分が召喚した子だと言っている。
「エルハイミ、これってどういう事よ?」
「多分、私たちが作った魔晶石核が横流しか強奪されているのですわ」
あたしは彼の胸に手を当て胸部の補強鎧と皮服、そして皮膚ならぬ表皮を魔法で分解して開く。
そこには人間の心臓ではなく、紛れもない魔晶石核があった。
魔晶石核は赤く点灯していてまさしく心臓の鼓動のようだ。
これが魔力循環を起こし、彼の生命活動を助けているのだ。
「ティアナ、アンナさん、今は彼を救う事を最優先としましょう。この魔晶石核はもうじき寿命ですわ。ここには幸いアイミと上等な魔晶石原石があります。資材も何とかなるでしょうから彼に双備型魔晶石核を取り付けますわよ!」
あたしの提案にティアナもアンナさんも首を縦に振ってくれる。
あたしはさっそくアイミに手伝ってもらいながら魔晶石核を作り上げ、ティアナが準備してくれた素材を【創作魔法】を使って双備型ベースを作り、双備型魔晶石核を起動させる。
彼の体を事細かく解析したアンナさんがゆっくりと魔晶石核を取り出す。
それにはまるで血管のようにたくさんの管がついていて、それをあたしとアンナさんで慎重に双備型魔晶石核に取り付けていく。
ゆっくり、ゆっくりとだ。
でないと不協和音を起こして彼の生命維持に支障が出てしまうからだ。
どのくらい時間が過ぎただろう、ティアナが見守る中、あたしたちはやっと双備型に全ての管を着け終わる。
今度はあたしがそおっと双備型魔晶石核を彼に胸に戻す。
既に魔力循環は始まっており最低限の生命維持活動を始めている。
「ふう、まずはこれで一安心ですわね?」
「ええ、魔力循環は始まっています。しかしマナの動きが良くない。魔力の流れが速すぎます。こうなるとかなりの部分を直さないといけませんね。エルハイミちゃん、引き続きお願いします」
「わかりましたわ、ティアナお願いします。魔晶石原石と素材になるものを追加でお願いしますわ!」
ティアナは分かったと言って部屋から出て行った。
「エルハイミさん、本当にこの者を治しても大丈夫なのでか? 先ほどのように暴れまわらないでしょうね?」
ティアナに変わってアテンザ様が入ってきた。
見るとウェースド陛下も一緒だ。
「アテンザ様、この者は先の黒の集団、いえ秘密結社ジュメルなるものの情報を持つ重要人物ですわ。大丈夫、少なくとも彼はあの者たちと敵対関係ですわ。いきなり私たちに牙を向ける事は無いですわ」
その危険性を考えないわけでもないけど、あたしは何となく大丈夫と言う確信があった。
「エルハイミ、材料を持ってきたわよ。って、姉さま?」
「ティアナ、わざわざあなたが荷運びなどせぬとも、私が手伝います! ほかに必要なものは!?」
過保護な姉はここでも通常運転だ。
「いえ、姉さま、もうすでに必要なものは揃えて‥‥‥」
ティアナには悪いがそちらはお任せしてあたしとアンナさんは作業を続ける。
各魔晶石の効能をアンナさんが解読してあたしが新しい魔晶石に魔力を封じ込め、それを彼に次々と換装していく。
所々バランスに問題があるので更に高スペックな魔晶石やパーツに組み替え彼の体は徐々に修復が進んでいく。
「なくなった腕は破壊されたマシンドールの腕を代用しましょう」
アンナさんの提案にあたしは待ったをかける。
「アンナさん、待ってください。このままマシンドールの腕を代用につけてはすぐにまた壊れてしまいますわ。私が強化した腕に組みなおしますわ」
そう言ってあたしは破壊されたマシンドールの腕二本分を使い彼の腕を修復していく、ちょっとしたおまけをつけて。
そうこうしているうちに彼の治療がほぼほぼ終わった。
っと、異形の兜とマスクを着けたままでは大変だろうし、素顔を見てみたいと思ったあたしは兜とマスクを取ろうとしてみる。
だがしかしどうやっても外れない?
「エルハイミちゃん、もしかしてその兜とマスクを外そうとしていますか? それは彼の表皮ですから外せませんよ?」
えっ?
これが素顔だったの!?
なんかそれってビエムより酷いんじゃ‥‥‥
あたしは同情しながら最後に彼に大量の魔力を注ぎ込み体内の魔晶石を活発化させる。
すると魔力循環が始まった彼に異変が起こる!
なんとあの厳つい表皮が緩んで来て徐々に普通の人間それになった!?
しかもそれは顔だけじゃなく全身が変わっていき、全裸の男性になった!!
アンナさんは思い切り赤面してあっちの方を見るけど、あたしは別の問題に衝撃を受けている!!
元男だった者としてすっごく同情する。
だって無いのである。
あれが無いのだ!
ゾウさんがいないのだ!!
「あ、アンナさん、大丈夫ですわ、ついていませんから‥‥‥」
「え?」
あたしの呼びかけに驚いてアンナさんが戻ってくる。
思わずまじまじと見てしまうアンナさん。
多少ふくらみはあるもののやはりゾウさんはいない。
「生殖機能を持たせないキメラ‥‥‥ でもありませんね。どちらかと言うとゴーレムに近い?」
いろいろな興味が出てアンナさんは人型に戻った異形の兜の男をまじまじと観察する。
つられて他の人たちも来るが、今は素っ裸の男を鑑賞する以外特に何もない。
みんなはすぐに興味をなくすが、あたしだけは違った。
分かるよ、分かる、その辛さ。
あたしは既に割り切って過去に出来たけど彼は今現在の進行形。
なんとなく憐れみを含んだ感情でそっと彼の頬に手を当てる。
うん、頑張って生きていってね。
ううっ、なんとなくあたしまでもらい涙が出てしまう。
と、なんと彼が気付いたみたいだ。
彼はうっすらと目を開きあたしに気付く。
「ううっ、て、天使?」
はい?
なんか寝ぼけているみたいだな。
「もう大丈夫ですわ。あなたの体は治療しましたわ。安心なさいな」
あたしがそう言うと彼はぼうっとあたしを見続ける。
「天使ではない? ‥‥‥女神か!?」
えーと、何まだ寝ぼけてるの?
仕方ない。
「ここはノルウェンのお城の中ですわ。先程の戦闘であなたは大けがを負いましたわ。でもあなたは私たちに害を及ぼすような方では無いと判断し、あなたの治療をいたしましたわ。今はまだ傷が癒えたばかり、もう少しおやすみなさいですわ」
あたしはそう言ってもう一度彼の頬をなでる。
彼は「すまない」とひとこと言ってから、また目をつぶる。
流石にこのままではまずいのであたしは近くのシーツを彼にかぶせ一旦ティアナたちとこの部屋を出る。
大人しくしているし、あたしの言葉を聞き入れるから大丈夫だろう。
彼の回復を待ってからいろいろと聞かせてもらおう。
と、今はアテンザ様とウェースド陛下の方だ。
「エルハイミさん、本当に大丈夫なのでしょうね?」
「少なくとも理性はちゃんと有るようですから心配はないと思いますわ。彼が回復したらいろいろと聞きたいことがありますが」
「見張りをつけておいた、何かあればすぐにこちらに連絡をよこすであろう。それより、あの黒の集団が秘密結社ジュメルと名乗りを上げたというのか?」
ウェースド陛下は今まで大人しくしていた黒の集団が名乗りを上げ、大々的に襲撃してきたことを心配している。
「秘密結社ジュメル、以前同伴していた怪人も強くなっていました。まさか旧型とは言えマシンドールがああも簡単にやられてしまうとは‥‥‥」
アンナさんはそう言って手に持つ切断されたマシンドールの頭部を見る。
合金製のボディーだがそれでも普通のプレートメイル以上の強度を持つ。
それがあっさりとやられてしまったのだ。
「そもそもここしばらく大人しくしていたのが襲撃を開始するとは、アテンザ殿、ティアナ殿下。何卒支援の方頼みますぞ!」
焦りをにじませながらウェースド陛下はガレントへの応援を要望する。
「勿論、この件に関しましては本国に報告してしかる対応を取らせますわ。秘密結社ジュメルなどと言うふざけた輩を放置しておくわけにはいきませんもの。ティアナ、この件に関しましては私の方から本国に連絡を入れます。あなたは当初の目的を果たしなさい。ウェースド陛下、どうぞティアナたちにご助力願いますわ。彼女たちの目的が達成されるは我がガレント、しいてはノルウェン王国の国益につながります。私はこれよりすぐに本国へと参り、マシンドールの増援を回してもらうようにしますわ」
アテンザ様はそう言ってロクドナルさんやアンナさん、アイミにまで増援が戻るまで万が一はここを死守するように告げてからここを後にしようとする。
「ティアナ、お姉ちゃんは本国に行きます。決して無理をしないでね。すぐに増援を引き連れて戻りますから!」
そう言ってティアナに抱き着く。
抱き着かれたティアナは相変わらずアテンザ様の胸の谷間に挟まれもがいているが、今は仕方ない。
「エルハイミさん、ティアナの身に万が一が有ったら許しませんからね! 私が戻るまでしっかり守りなさい!」
最後にそう言って今度こそこの場を後にした。
「さて、ウェースド陛下。こちらの防衛に関しましては増援が来るまで剣聖ロクドナル、オリジナルマシンドールのアイミ、魔導士アンナ、そして無詠唱魔法の使い手エルハイミと私が付きます。どうぞご安心召され。陛下はマース教授にご助力いただき魔結晶石を見つけ出すようお願いいたします。」
ティアナの要望にウェースド陛下は分かったと言ってマース教授を引き連れ採石済みの倉庫へ向かう。
あたしたちもそれについて行く。
まずは魔結晶石を早く見つけ、異形の兜の男から情報を引き出し、ここノルウェンの防御を増強しなきゃだね。
いろいろと忙しくなってきた。
アテンザ様にも言われたことだし、あたしはもう一度気合を入れなおすのだった。
全く良く出来ている。
あたしたちはそう思う他なかった。
黒の集団、いや、秘密結社ジュメルを甘く見ていた。
ビエムの亡骸を回収しようとしたら自己溶解を始めてほとんど形状が分からないくらいになっていた。
まさかと思って他の黒ずくめたちを見てもほとんど同じで、元は何だったのかも分からないほど溶解が進んでいた。
もともとホリゾン帝国と秘密結社ジュメルの関係は疑っていたが確たる証拠がなかった。
今回の件でその裏付けとなる証拠が手に入ったと思ったら証拠隠滅をされてしまった。
全く、用意周到だな。
しかし、あたしたちにはもう一つ収穫があった。
裏切り者呼ばわりされていた異形の兜の男、ショーゴ・ゴンザレスと言う人物だ。
だが今の彼は油断は禁物、このままでは命が危ないのだ。
先の戦闘でかなりのダメージを受けている。
あたしたちは彼を城の一室に連れ込み、容態を見る。
同調して感知魔法も駆使したあたしやティアナ、そして心眼を開きその真相を見極めるアンナさん。
あたしたちの目に映るそれはおおよそ人ではなかった。
いや、かろうじて残る人の部分はほぼほぼ脳みそぐらいなもので、各内臓器官や動力に至るまで機械らしきものと魔晶石による構成だった。
だけどよくこんな体で生きていけるわね‥‥‥
「エ、エルハイミちゃん! 彼の動力源、これって魔晶石核です!」
「えっ!?」
そんな馬鹿な!?
魔晶石核なんてうちの専売特許みたいなもの、世の中なんかに出回っていないはず。
あたしは慌ててそれを確認するも、確かに魔晶石核だ。
ぴこ!
アイミがこのサラマンダーは自分が召喚した子だと言っている。
「エルハイミ、これってどういう事よ?」
「多分、私たちが作った魔晶石核が横流しか強奪されているのですわ」
あたしは彼の胸に手を当て胸部の補強鎧と皮服、そして皮膚ならぬ表皮を魔法で分解して開く。
そこには人間の心臓ではなく、紛れもない魔晶石核があった。
魔晶石核は赤く点灯していてまさしく心臓の鼓動のようだ。
これが魔力循環を起こし、彼の生命活動を助けているのだ。
「ティアナ、アンナさん、今は彼を救う事を最優先としましょう。この魔晶石核はもうじき寿命ですわ。ここには幸いアイミと上等な魔晶石原石があります。資材も何とかなるでしょうから彼に双備型魔晶石核を取り付けますわよ!」
あたしの提案にティアナもアンナさんも首を縦に振ってくれる。
あたしはさっそくアイミに手伝ってもらいながら魔晶石核を作り上げ、ティアナが準備してくれた素材を【創作魔法】を使って双備型ベースを作り、双備型魔晶石核を起動させる。
彼の体を事細かく解析したアンナさんがゆっくりと魔晶石核を取り出す。
それにはまるで血管のようにたくさんの管がついていて、それをあたしとアンナさんで慎重に双備型魔晶石核に取り付けていく。
ゆっくり、ゆっくりとだ。
でないと不協和音を起こして彼の生命維持に支障が出てしまうからだ。
どのくらい時間が過ぎただろう、ティアナが見守る中、あたしたちはやっと双備型に全ての管を着け終わる。
今度はあたしがそおっと双備型魔晶石核を彼に胸に戻す。
既に魔力循環は始まっており最低限の生命維持活動を始めている。
「ふう、まずはこれで一安心ですわね?」
「ええ、魔力循環は始まっています。しかしマナの動きが良くない。魔力の流れが速すぎます。こうなるとかなりの部分を直さないといけませんね。エルハイミちゃん、引き続きお願いします」
「わかりましたわ、ティアナお願いします。魔晶石原石と素材になるものを追加でお願いしますわ!」
ティアナは分かったと言って部屋から出て行った。
「エルハイミさん、本当にこの者を治しても大丈夫なのでか? 先ほどのように暴れまわらないでしょうね?」
ティアナに変わってアテンザ様が入ってきた。
見るとウェースド陛下も一緒だ。
「アテンザ様、この者は先の黒の集団、いえ秘密結社ジュメルなるものの情報を持つ重要人物ですわ。大丈夫、少なくとも彼はあの者たちと敵対関係ですわ。いきなり私たちに牙を向ける事は無いですわ」
その危険性を考えないわけでもないけど、あたしは何となく大丈夫と言う確信があった。
「エルハイミ、材料を持ってきたわよ。って、姉さま?」
「ティアナ、わざわざあなたが荷運びなどせぬとも、私が手伝います! ほかに必要なものは!?」
過保護な姉はここでも通常運転だ。
「いえ、姉さま、もうすでに必要なものは揃えて‥‥‥」
ティアナには悪いがそちらはお任せしてあたしとアンナさんは作業を続ける。
各魔晶石の効能をアンナさんが解読してあたしが新しい魔晶石に魔力を封じ込め、それを彼に次々と換装していく。
所々バランスに問題があるので更に高スペックな魔晶石やパーツに組み替え彼の体は徐々に修復が進んでいく。
「なくなった腕は破壊されたマシンドールの腕を代用しましょう」
アンナさんの提案にあたしは待ったをかける。
「アンナさん、待ってください。このままマシンドールの腕を代用につけてはすぐにまた壊れてしまいますわ。私が強化した腕に組みなおしますわ」
そう言ってあたしは破壊されたマシンドールの腕二本分を使い彼の腕を修復していく、ちょっとしたおまけをつけて。
そうこうしているうちに彼の治療がほぼほぼ終わった。
っと、異形の兜とマスクを着けたままでは大変だろうし、素顔を見てみたいと思ったあたしは兜とマスクを取ろうとしてみる。
だがしかしどうやっても外れない?
「エルハイミちゃん、もしかしてその兜とマスクを外そうとしていますか? それは彼の表皮ですから外せませんよ?」
えっ?
これが素顔だったの!?
なんかそれってビエムより酷いんじゃ‥‥‥
あたしは同情しながら最後に彼に大量の魔力を注ぎ込み体内の魔晶石を活発化させる。
すると魔力循環が始まった彼に異変が起こる!
なんとあの厳つい表皮が緩んで来て徐々に普通の人間それになった!?
しかもそれは顔だけじゃなく全身が変わっていき、全裸の男性になった!!
アンナさんは思い切り赤面してあっちの方を見るけど、あたしは別の問題に衝撃を受けている!!
元男だった者としてすっごく同情する。
だって無いのである。
あれが無いのだ!
ゾウさんがいないのだ!!
「あ、アンナさん、大丈夫ですわ、ついていませんから‥‥‥」
「え?」
あたしの呼びかけに驚いてアンナさんが戻ってくる。
思わずまじまじと見てしまうアンナさん。
多少ふくらみはあるもののやはりゾウさんはいない。
「生殖機能を持たせないキメラ‥‥‥ でもありませんね。どちらかと言うとゴーレムに近い?」
いろいろな興味が出てアンナさんは人型に戻った異形の兜の男をまじまじと観察する。
つられて他の人たちも来るが、今は素っ裸の男を鑑賞する以外特に何もない。
みんなはすぐに興味をなくすが、あたしだけは違った。
分かるよ、分かる、その辛さ。
あたしは既に割り切って過去に出来たけど彼は今現在の進行形。
なんとなく憐れみを含んだ感情でそっと彼の頬に手を当てる。
うん、頑張って生きていってね。
ううっ、なんとなくあたしまでもらい涙が出てしまう。
と、なんと彼が気付いたみたいだ。
彼はうっすらと目を開きあたしに気付く。
「ううっ、て、天使?」
はい?
なんか寝ぼけているみたいだな。
「もう大丈夫ですわ。あなたの体は治療しましたわ。安心なさいな」
あたしがそう言うと彼はぼうっとあたしを見続ける。
「天使ではない? ‥‥‥女神か!?」
えーと、何まだ寝ぼけてるの?
仕方ない。
「ここはノルウェンのお城の中ですわ。先程の戦闘であなたは大けがを負いましたわ。でもあなたは私たちに害を及ぼすような方では無いと判断し、あなたの治療をいたしましたわ。今はまだ傷が癒えたばかり、もう少しおやすみなさいですわ」
あたしはそう言ってもう一度彼の頬をなでる。
彼は「すまない」とひとこと言ってから、また目をつぶる。
流石にこのままではまずいのであたしは近くのシーツを彼にかぶせ一旦ティアナたちとこの部屋を出る。
大人しくしているし、あたしの言葉を聞き入れるから大丈夫だろう。
彼の回復を待ってからいろいろと聞かせてもらおう。
と、今はアテンザ様とウェースド陛下の方だ。
「エルハイミさん、本当に大丈夫なのでしょうね?」
「少なくとも理性はちゃんと有るようですから心配はないと思いますわ。彼が回復したらいろいろと聞きたいことがありますが」
「見張りをつけておいた、何かあればすぐにこちらに連絡をよこすであろう。それより、あの黒の集団が秘密結社ジュメルと名乗りを上げたというのか?」
ウェースド陛下は今まで大人しくしていた黒の集団が名乗りを上げ、大々的に襲撃してきたことを心配している。
「秘密結社ジュメル、以前同伴していた怪人も強くなっていました。まさか旧型とは言えマシンドールがああも簡単にやられてしまうとは‥‥‥」
アンナさんはそう言って手に持つ切断されたマシンドールの頭部を見る。
合金製のボディーだがそれでも普通のプレートメイル以上の強度を持つ。
それがあっさりとやられてしまったのだ。
「そもそもここしばらく大人しくしていたのが襲撃を開始するとは、アテンザ殿、ティアナ殿下。何卒支援の方頼みますぞ!」
焦りをにじませながらウェースド陛下はガレントへの応援を要望する。
「勿論、この件に関しましては本国に報告してしかる対応を取らせますわ。秘密結社ジュメルなどと言うふざけた輩を放置しておくわけにはいきませんもの。ティアナ、この件に関しましては私の方から本国に連絡を入れます。あなたは当初の目的を果たしなさい。ウェースド陛下、どうぞティアナたちにご助力願いますわ。彼女たちの目的が達成されるは我がガレント、しいてはノルウェン王国の国益につながります。私はこれよりすぐに本国へと参り、マシンドールの増援を回してもらうようにしますわ」
アテンザ様はそう言ってロクドナルさんやアンナさん、アイミにまで増援が戻るまで万が一はここを死守するように告げてからここを後にしようとする。
「ティアナ、お姉ちゃんは本国に行きます。決して無理をしないでね。すぐに増援を引き連れて戻りますから!」
そう言ってティアナに抱き着く。
抱き着かれたティアナは相変わらずアテンザ様の胸の谷間に挟まれもがいているが、今は仕方ない。
「エルハイミさん、ティアナの身に万が一が有ったら許しませんからね! 私が戻るまでしっかり守りなさい!」
最後にそう言って今度こそこの場を後にした。
「さて、ウェースド陛下。こちらの防衛に関しましては増援が来るまで剣聖ロクドナル、オリジナルマシンドールのアイミ、魔導士アンナ、そして無詠唱魔法の使い手エルハイミと私が付きます。どうぞご安心召され。陛下はマース教授にご助力いただき魔結晶石を見つけ出すようお願いいたします。」
ティアナの要望にウェースド陛下は分かったと言ってマース教授を引き連れ採石済みの倉庫へ向かう。
あたしたちもそれについて行く。
まずは魔結晶石を早く見つけ、異形の兜の男から情報を引き出し、ここノルウェンの防御を増強しなきゃだね。
いろいろと忙しくなってきた。
アテンザ様にも言われたことだし、あたしはもう一度気合を入れなおすのだった。
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