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第十六章

16-5密航

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16-5密航


 「いやぁ、あのもふもふは癖になるわぁ」

 「いえ、ぴくぴくのお耳が良いんです!」
 
 「ミアム、尻尾も良いのよ?」


 
 シェルもセレもミアムまでもがさんざん二人の尻尾と耳を触りまくってご満悦だった。


 「エ、エルハイミ、今度猫耳カチューシャをつけてみませんか?」


 ティアナ、何故そこではぁはぁしているの?
 いや、ティアナに何かされるのは嫌いじゃないけど何か新しい扉を開いちゃったの?


 とか言いながらあたしもまだロゼッタさんの尻尾を触っている。



 むう、このさわり心地、確かに一級品だ。


 そして内緒だけど触り方次第でロゼッタさんがぴくぴくと動く場所がある。

 付け根と先端だ。
 先端は毛の部分では無く本当の尻尾の先端。
 そう、骨がある最後の所だ。

 ロゼッタさん敏感だって言ってたもんねぇ~。
 その辺を重点的に触ると顔を赤くしてこちらを熱いまなざしで見てきたりするのよね。
 うん、初やつ初やつ。

 ちなみにティアナは耳派のようだ。
 

 「あー、皆さん食事の準備が出来ましたが‥‥‥」

 ゾッダさんがお玉もってエプロン姿で扉の所に立っている。
 既に部屋の中にはほんわかとしたゆる~い空気が漂っていたがずっとこのままでいる訳にも行かずあたしたちは用意してもらった食事に行く事にしたのだった。


 * * *

 
 「セキは大丈夫でしょうか、エルハイミ?」

 「ええ、先ほど念話でコクに連絡しましたわ。予定通り明後日の夜半に私たちもノージムへ渡航すると。それとあちらはあちらで食事もセキの教育も問題無いと言ってますわ」

 食事と言っても分かれる前にコクとセキには魔力供給しているから数日は問題無いはずだけど。
 しかしティアナはものすごくセキを心配している。
 分からなくはないけど脱皮をしたし、記憶も戻って来たから問題無いだろう。


 「へぇ、魚料理以外でもここって海藻も食べるんだ? 初めてだわね」

 シェルは席について出された料理を見ている。
 どうやら海藻サラダのようだ。 

 「これって食べれたんですか? どう思うミアム?」

 「ティアナ様、まずは私たちが確認しますのでしばしお待ちを」

 「ティアナ、イチロウさんの食事で問題は無かったですわよね? でしたら問題無く食べれますわよ。イチロウさんの食材にもふんだんに海藻は使われていましたし、師匠の所のあの味噌汁に入っていたのもわかめと言う海藻でしたわよ」

 セレやミアムは初体験なのだろう。
 しかしあたしたちは既にボヘーミャとユグリアで体験済みだ。

 「そうなのですか? しかしこれは初めてですね。どれ」

 そう言ってセレやミアムより先にティアナはそれを口にする。

 
 もごもご
 くにくに。

 ごくん。


 「意外とさっぱりしていて行けるわね?」

 シェルが真っ先に感想を言う。
 
 「確かにイチロウ殿の食事よりあっさりしていますね。バルド、こちらではこういった食事が多いのですか?」

 「はい、ティアナ様。海藻は海の中に一年中ありますので海辺の極寒の地域では野菜の代わりにこれをよく食べます。ただ、生で食べると毒となる種類もありますので必ず熱を通すよう注意しないといけませんが」

 そう言ってバルドさんももしゃもしゃと食べ始める。

 うん、まさしく海藻サラダだ。
 できればこれに豆腐とか入れるといいんだけどなぁ~。

 あたしはそんな事を思いながら食事を始める。


 そして食事をしながらノージムへの渡航について話をする。


 「明後日の深夜船着き小屋に隠してある船でエダーの港町に渡りますが、漁船に偽装してあります。夜間漁を装い移動しますので皆さんにも準備した衣服に変装していただきます」

 バルドさんにそう言われながらあたしたちは質問をする。
 いくつかの受け応えが終わり食事も終わりお茶を飲んでいる頃だった。

 
 「あのぉ、エルハイミ様ってかの有名な『育乳の魔女』でも有らせられるのですよね?」

 「ごふっ! ぞ、ゾッダさん、何をいきなりですわ?」

 「ああっ、すみません。いえ、ホリゾンでは『無慈悲の魔女』とか『雷龍の魔女』とか最近は『育乳の魔女』とかも言われていてかなり有名なんですよ。イージム大陸に『育乳の魔女』が出て聖騎士団が壊滅させられたとか、何処かの小国の国王が男性なのに胸を大きくする呪いをかけられたとか色々と噂が‥‥‥」

 「わ、私は一体どういう扱いになっているのですの!?」

 出されたナフキンでこぼしたお茶を吹きながらあたしは抗議の声をあげる。
 しかしゾッダさんは首を傾げ言う。

 「絶対に相手をしてはいけない魔女だと言われていますよ? ただ、北の大地の女性にはエルハイミさんを、『育乳の魔女』を崇拝する人もいるそうです。どうしても栄養が乏しい地域なので私も含めなかなか胸が育たないんですよ、ホリゾンって」


 そう言われてあたしはふと有ることを思い出す。

 それはあのジェリーンたちだ。

 あのおっぱいお化け軍団はみんなホリゾン出身のはずなのに?
 思わず聞いてしまう。


 「私の知っているホリゾンの魔術師はやたらと胸の大きい女性が多かったような気がしますわ」

 「ああ、それは上流の方ですね? 彼女らはその美貌とスタイルを保持する為に並ならぬ努力をするのです。しかし普通の者はそうはいきませんのでなかなか‥‥‥」

 そう言ってあたしの胸を見る。


 「そ、それでどうやったらエルハイミさんのように大きく成るのか教えていただけないかと」


 『エルハイミ、ここでも新しい女の子に手を出すの?』

 『何を言っているのですのっ! する訳無いじゃ無いですの!! 私にはティアナがいますわ!!』

 『そうよシコちゃん、エルハイミは私のよ!』
 
 『あー、でもイオマの胸は大きくしたのよねぇ~。エルハイミ、あたしのもしてよ!』

 あたしとシコちゃんの念話にいきなりティアナとシェルも混じって来た!?
 驚き後ろを見るとにっこりと笑っているティナとシェルがいる!?


 「あの、エルハイミ様?」

 「すみません、ゾッダ。話は聞きました。胸を大きくするコツは食事は勿論マッサージが効果的です」

 ティアナはあたしが言う前にそう答える。

 「好きな人にやってもらうともっと効果的らしいわよ~」


 ぼっ!


 シェルのその返答にゾッダさんは思い切り赤くなってあたしとティアナを見る。

 「そ、それじゃぁエ、エルハイミ様とティアナ様ってそう言う事を!?」

 「ええ、毎晩のように!」


 おいこらシェル! 
 なんて事言うのよ!!
 最近は忙しくてしてないわよ!!
 それにすると他の事になっちゃうし!!


 真っ赤になって頭から湯気を出しているゾッダさんにティアナはふっと笑いこう言う。

 「大丈夫です。あなたにもきっといい人が見つかれば、愛されれば望みはかないます。まだまだ若いのです機会はあります」

 「あ、ティ、ティアナ様‥‥‥」

 ゾッダさんは何やら納得して様で首を縦に振り「わかりました、頑張ってみます」と言って向こうへ行ってしまった。

 うーん、彼女には頑張ってもらいたいものだ。
 しかし『育乳の魔女』の名前がそんなに知れ渡っているとは‥‥‥

 あたしはため息をつくのだった。


 ◇ ◇ ◇


 「ティアナ様、エルハイミ様。準備はよろしいですか? 船を出します」

 「はい、大丈夫です。お願いします」

 夜半ランタンの明かりをつけた漁船があたしたちを乗せて川から海へと出て行く。
 既に港にはホリゾン軍の船は無くあたしたち同様夜間漁の船が数隻海へと出ていた。



 あたしたちはそれらの灯りに紛れノージム大陸へと密航をするのであった。

  
  
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