魔王様の小姓

さいとう みさき

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第一章:魔王様の蹂躙

第四話:魔王様の奴隷

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 魔王。
 それはこの世界に存在する人類の天敵。
 人族、エルフ族、ドワーフ族、草原の小人族などなど、おおよそ人型である種族を喰らう者。
 厳密にはその種族たちの魂を喰らう。
 そして、特に数の多く、ひ弱な人族は魔族たちの格好の餌食えじきとなる。


「ははははははっ! 今日は気分が良いぜ! お前はこれから俺様専用の食事にしてやる。俺様専用の奴隷だ!」

 魔王城について、王の間でユーリィは首に首輪を着けられ、鎖を付けられる。
 そして魔王の座る王座の横につながれていた。


「魔王様、この者がお気に召したのでございますな?」

「ん、セバスジャンか? 見ろよ、こいつ! すげーんだぜ、俺に魂吸われてもまだ生きていやがる。それ所か俺様を満腹にしやがった、すっげーよな!!」

 王座のやや斜め後ろに控えていた執事のセバスジャンは驚き少年を見る。
 白髪の混じる見た目が六十代くらいの、びしっと身なりを整えているステキなオジサマ風の彼が驚きの表情をするのは珍しい。
 魔王はそれを見て更に上機嫌になる。

 そしてユーリィの鎖を引っ張って自分の足元へ寄せる。


 じゃらっ!
 どさっ!!
 

「くぅっ」

 魔族は人族に比べ力も何も強い。
 魔王として見れば軽く引っ張ったつもりでも、ユーリィにしてみれば大きな力で引き寄せられたも同然で、魔王の足元に転がる。
 そして魔王にその細いあごに手を当てられ、顔を上げさせられる。


「それにな、こいつなんか好いだろ?」

「と、おっしゃられますと?」

「人間風情の顔なんざ、まじまじと見た事はねぇ。だがこいつの顔はなかなか整っていて、食欲をそそる。ドワーフ当たりなんぞ髭面ひげづらで口づけする事すら一苦労だからな!」

 そう言って魔王はユーリィのあごから手を離す。

 ユーリィは魔王にファーストキッスをうばわれた時を思い出す。

 力では抗えない。
 そしてこの偉丈夫いじょうふの魔王は無理矢理ユーリィの唇をうばった。

 それはあまりにも当たり間のようなしぐさ。
 そして抵抗しても触れた唇がやたらと温かく、感じた事の無いその感覚にいつの間にか舌まで入れられて口の中を好きにされた。
 しかも、男にだ。
 もうユーリィとしては最悪のファーストキッスとして未来永劫忘れる事の無い惨劇なるだろう。
 
 しかしだ。

 魔王に強引に唇をうばわれ、そして口の中まで好きにされていても最後にはやたらと心地よく感じてしまった。
 そして何かが吸われてゆく感覚さえ、気持ちよく感じてしまっていたのだ。
 だからユーリィは最後には抵抗することなく、魔王にその身をゆだねてしまった。
 同じ男なのに……

「でも……約束だから。シーラを助けてもらう代わりだから……」

 ユーリィはそう自分に言い聞かせ、ぐっと唇を噛む。
 願わくば、シーラだけでも無事でいてあって欲しい。


 高笑いを続ける魔王の足元でユーリィはそれだけを願うのだった。


 * * * * *


 シーラはふらふらと歩いていた。
 故郷であるサルバスの村は、魔族によって全ての住民は殺されるか捕まるかで誰一人としていなくなってしまった。
 シーラただ一人を除いては。

 このまま村にいても仕方なく、シーラはドリガー王国の首都に向かう事とした。
 そこまで行けばきっと国の騎士団が動いてくれる。
 きっと捕まったユーリィや村の人を助けてくれる。

 彼女はその一心で一人王都へ向かう。



「ほう、こんな所に女が一人でいやがるな?」

 シーラはその声にビクッとなる。
 見れば如何にも盗賊と見受けられる紫色の長髪の男が岩の上に座っていた。
 整った顔だが、男はニヤリとしてシーラを見る。

「ふむ、村娘らしいがなかなかに可愛いじゃないか? 今晩はお前で楽しもうか」

 そう言って手を上げると一斉にシーラの周りに盗賊の男たちが現れる。


「お頭、俺らにも回してくだせえよ?」

「ははは、可愛い嬢ちゃんだな!」 

「ダメじゃないかぁ、こ~んな所にお嬢ちゃん一人で歩いていたら、俺らのような悪いおじさんに襲われるぜぇ?」


 げへへへへといやらしい笑い声をあげる男たち。
 シーラはふるえながら、それでも叫ばずに言う。


「あ、あなたたちこの先の村で何が起こったか知ってるの? サルバスの村は魔王軍によって壊滅したわ。急いで王都に行って騎士団に事情を話して魔王軍を何とかしてもらわなきゃ、あなたたちだってただでは済まないのよ!?」


 今は身の危険より王都の騎士団に魔王軍の事を伝えることが重要だ。
 だからシーラはたとえ怖くても、盗賊たちにそうきっぱりと言う。

「魔王軍だぁ? ふん、そんなモン来る前に俺らはとっととお前をかついでとんずらするさ。そして他の場所でまた仕事をするさね」

 岩の上から飛び降りたそのお頭と呼ばれた男はシーラにゆっくりと近づいてくる。
 そして腰からナイフを引き抜きシーラに見せながら言う。

「魔王軍なんざ知らねぇ、俺らは俺らなりに楽しく生きていくだけさ! さあ、大人しくしろや!!」

 そう言ってシーラの腕を掴む。
 シーラは抵抗しよとするも、ナイフを突きつけられて怯えて動きを止める。
 それを確認して、そのお頭の男は、せっかく整っていて何もしなければ女の一人や二人が言い寄ってきそうなそのマスクをゆがませて、道のわきの草むらにシーラを押し倒す。


「い、いやぁあああああぁぁぁっ!!」

「へ、大人しくししろや。俺が気持ちいい事してやるからな」


 そう言ってシーラの頬にナイフを突きつける。

「ひっ!」

 ナイフを突きつけられ、恐怖にガタガタ震える。
 脳裏にはユーリィの顔が浮かぶも、目の前の野獣と化した男に恐怖心だけがつのってゆく。
 そして、そのお頭はシーラの胸元に手を伸ばし、その服を破り捨てる。


 びりびりびりぃ!


「い、いやぁあああああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!!!!」


 シーラの白い肌があらわになり、双丘が揺れる。
 彼女の悲鳴がこの周辺一帯に響くも、誰も助けに来ない。
 周りにはニタニタ笑う男たちだけがいる。

 そしてシーラのスカートやその下着にも手が伸び破り捨てられる。


 びりびりびりびぃっ!!


「きゃぁあああああぁぁぁぁあぁぁっ!!」

「へへへへ、いい声で鳴きやがる!」


 両の手を押さえられ、ズボンを脱いだ男がシーラの股の間にその足を割り込んできた。
 恐怖と絶望と、そしてユーリィの笑顔が消えて行くシーラは涙に視界が歪んで行く。
 もう駄目と、シーラがあきらめたその時だった。



「何をしている?」



 その声は唐突とうとつに聞こえてきた。

「あん?」

 お頭は声のした後ろへ振り返ろうとして、その首が宙に舞う。


 漸っ!


 首の無くなったお頭の身体はぶるっと震えて、噴水のように切られた場所から血を吐き出す。


 ぶっしゅーっ!


 ぼとぼととその血のりがシーラの白い肌を汚して行き、首を失ったお頭の身体はシーラの横に倒れた。
 シーラはなにが起こったのか分からず、呆然ぼうぜんとその死体を見る。


「お頭!」

「てめぇ、なにしやがる!!」

「この野郎っ!!」


 周りにいた盗賊たちは、直ぐにお頭の首をはねた青年に刀を抜いて飛び掛かる。
 しかし、その青年は銀色の一閃いっせんを放つと、盗賊たちはその場で全員倒れた。

 シーラはそれを呆然ぼうぜんと見ていたが、その青年はこちらに来ると、自分が羽織っていたマントをそっとシーラの肩にかける。


「大丈夫だったかい?」

「あ、あの、ありがとうございます…… あなたは?」

 そう、青年に言うも、青年は何やら顔を赤くして目線をシーラから外す。
 そしてシーラは今更ながらに自分がほぼ裸に近い状態だったことに気付く。


「あ、うぁっ///////」


 慌ててマントを引っ張って前で胸元を隠す。
 シーラも真っ赤になって下を向いてしまうが、チラチラとその青年を横目で見る。

「ぼ、僕はロラゼム。駆け出しの冒険者なんだけど///////」

 そう言って赤い顔のまま、まだ他の所見ている。
 金髪に青い瞳を持つ、まだ少年の面影を残すその優しそうな青年は、駆け出しの冒険者と名乗るも、先ほどの手際はまるで歴戦の戦士のように鮮やかだった。
 
 シーラはゆっくりと彼に向かい直って、改めてお礼を言う。


「危ない所を本当にありがとうございました。でも私は急いで王都に向かわなければならないんです。魔族が、私の村を襲って……」

 そう言うシーラにロラゼムは驚き顔を向ける。

「魔族だって? だって、北方にはまだ国の騎士団が魔族を押さえているはずじゃ……」

「そ、それは分かりません。でも私の村はみんな魔族に殺されるか捕まって、だから王都に行って騎士団にお願いして助けてもらわなくっちゃ、ユーリィが!!」

 シーラはその場でぼろぼろと泣き始める。
 ロラゼムは困った表情でシーラに言う。

「とにかく、近くの村か町まで行こう」


 シーラを慰めながら彼女を立ち上がらせるのだった。



 * * * * *
   
  
「おい、ガキ。飯だ食え」


 魔王にそう言われ、ユーリィは顔をあげる。
 執事のセバスジャンが持って来たお椀には、何やらどろどろになった食べ物が入っていた。

 ユーリィはそれを見てから、お椀を手に取る。
 そして匂いを嗅いで複雑な顔をする。


「これは、なに?」

「人族の食べ物を真似して我が魔王軍の料理人ローゼフが作ったものです。魔王様が特別作らせたものです、ありがたく食べなさい」

 セバスジャンはそう言ってドヤ顔をする。
 魔王はそれを見てニコニコしている。

 ユーリィは仕方なくそれを一口、お椀にさされていたスプーンですくってみる。
 そして恐る恐る口に運んで噴出ふんしゅつした。


 ぶぅふぅぅぅぅぅっ!!


「な、なにこれっ!? とんでもなくまずい!!」

「はぁ? 人間の食い物を真似させてつくらせたんだぞ? うまいはずだろ?」

「あ、あんたは食べた事あるの? これ、殺人的にまずいよ!!」

 ユーリィはそう言って口元を手の甲で拭う。
 そしてスプーンをお椀に戻し、吐き捨てるように言う。

「こんなまずいもの、犬だって食べないよ。僕に言わせればこれは料理に対する冒涜ぼうとくだよ!」

「はぁ? 喰っちまえば同じだろうに??」

「違う! 料理は丹精込めて下準備からしっかりとしないと美味しくならない。僕だったらもっと美味しく作れる!!」

 ユーリィが彼にしては珍しく感情を表す。
 それを見て、魔王はニヤリと口元をゆがませる。

「ほう、ガキ。貴様これより美味い食い物を作れるって言うんだな?」

「当たり前だろ! 僕は村でもみんなが美味しいって言ってくれる料理を作って来たんだから!!」

「ふん、ならお前が上手いもん作ってみろ。俺たち魔族は人間の食い物も食える。お前さんの言う美味い物ってのを作ってみろよ?」

「へっ?」



 ユーリーはニヤニヤ顔の魔王を思わず見上げるのだった。   

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