魔王様の小姓

さいとう みさき

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第二章:魔王様の気がかり

第八話:魔王様の晩酌

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 ユーリィは目の前にある食材と、仕込んだ材料を見比べていた。


「ローストビーフはあの人数だと確実に足りないから、ミニプレートの一つとするのは良いとして、他の物を考えなきゃだけど……」

 急遽追加された食材はセバスジャンが持って来た鶏、塩漬けの魚、後は家畜として働かせている人間たちが城内で作った野菜だった。
 それと、城内に自生していたハーブ類。

 それらをワンプレートにちまちまと乗せたプレートを作るつもりだった。


「セバスジャン、魔族ってお酒を飲むの?」

「そうですな、たしなみとして飲む事もありますが儀礼的なものが多いでしょうな」

「そうか? 酒は嫌いじゃないけどな」

 セバスジャン話では儀礼的なものが多いらしいが、ローゼフは普通に飲んでいる様だった。
 そう言えば、魔族もお酒だけは飲んでいる話は聞いた事がある。
 
「うちの村でも神様にお酒を捧げてたからなぁ、もしかして神聖な何かでも宿っているのかな?」

「確かに、酒にはわずかながら魔力が感じられますからな。信仰の源が酒のマナに影響をさせ魔力となるのやもしれませんな」

 ユーリィのその言葉にセバスジャンも顎に指をあて再考してみる。
 そしてその可能性にローゼフも同意する。

「確かにな。酒を飲んでいると腹にたまる感じがするからな。魔力が満ちる感じだな」

「ふーん、そう言うモノなんだ……」

 ユーリィはそれを聞いてふと思いつく。

「じゃあさ、お酒をメインの感じでつまみの様にすればいいのかも!」

 そう言ってユーリィは料理を始めるのだった。


 * * * * *


「お待たせしました。今宵はお酒もご用意しましたのでご一緒にどうぞ」


 セバスジャンはそう言って冷やしたワインの瓶を持ち上げ、魔王のグラスに注ぐ。


「酒か。たまにはいいな」

「今宵の料理は酒に合うモノだとユーリィが言っておりました」

「ほう? それは楽しみだな。さてお前たちも食ってみるがいい」

 魔王にそう言われ、グラスにワインを注がれた四天王はグラスをかかげ声を同じく言う。


「「「「魔王様に栄光あれ!」」」」


 そう言って一気にワインをあおる。
 魔王はそれを楽しそうに見ながら自分もワインをあおってから出されたプレートを見る。
 そして首をかしげる。


「なんかいつもより量が少ないのがちまちまとあるな?」

「仕方ないじゃんか、いきなり人数が増えるから仕込みの料理だけじゃ足らないもの」


 セバスジャンと一緒に料理を運んでいたユーリィは恨めしそうにそう言う。
 しかし魔王は気にした様子もなく、早速プレートの上の料理にフォークを突き刺す。

「どれ」


 ぷすっ  
 ぱくっ!

 もごもごも……


「うめぇっ!」


 魔王は最初にローストビーフを口に運びそう叫ぶ。
 それを見ていた四天王もまずは魔王と同じくローストビーフから口に運ぶ。

 そして口に運んだ瞬間驚きに目を見開く。


「な、なんだこれは! 牛の肉のはずがここまで風味豊かとは!?」

「この上にかかったソースのせいか?」

「いや、肉自体にも複雑な味がするではないか!」

「美味いな、これは……」


 数切れづつしかないローストビーフを口に運びながら注がれるワインも口に運ぶ。
 そしてすぐに魔王のローストビーフは無くなる。

「ユーリィ! これうまいぞ!! もっとないのかよ!?」

「だ~かぁ~らぁ~、これは仕込みに時間がかかるの! もっと食べたければ事前に言ってくれなきゃ作れないよ!」

 魔王はユーリィに向かって最高の笑顔でそう言うも、いやそうな顔をするユーリィ。
 自分の作った料理を美味しいと言って食べてくれることは嬉しいけど、仕込みで時間のかかるものは急には増やせない。
 出すなら手抜きはしたくないのが料理人としてのユーリィのスタンスだった。


「しかし、人間如きがこれほどのモノを作るとは……」

「以前戦場で人間の食い物を口にした事はあるが、これほど美味い物は初めてだな」

 魔のラニマニラも武のガゼルもローストビーフを見ながらそう言う。
 それ程までに今まで自分たちが味わった事の無いものだった。


「仕方ねぇな、んじゃこっちはっと」

 自分の分のローストビーフが無くなった魔王は、隣の揚げ物にフォークを突き刺す。
 一口大に揚げられたそれは白いタルタルソースがかかっている。
 それを口に運ぶと、魔王はまた嬉しそうな顔をして声を上げる。


「うめぇっ! なんだこれ!? 初めて出てきたやつだなっ!!」

「魚のフライにタルタルソースってのをつけたものだよ」


 ユーリィの説明に魔王は残り一個も口に運ぶ。
 そしてそれを流し込むかのようにまたワインを飲む。
 もっとも、このころにはしっかりと白ワインに変えているあたりは流石にユーリィだ。
 肉料理には赤、魚料理やさっぱりしたモノには白のワインが良く合う。


「これは! ほんとうに人間の食い物とは思えんほどではないか!?」

 義のエルバランが魚のフライタルタルソースがけに思わず声を上げてしまった。

「うむ、まさしくこれは錬金術が如し。魚と言う淡白な味わいに衣をつけ、サクサクとした食感にこの白いややも酸味のあるソースが非常に合う。そしていつの間にやら入れ替わったこの白い酒も非常に合うではないか! まるで全てのモノが口の中で魔法陣を作っているかのようだ!」

「難しい事は分からんが、肉も好いが魚も美味いではないか!!」

 魔のラニマニラは分析するかのように味わい、武のガゼルは魔王同様に豪快にそれを口に運んでは白ワインで流し込む。


「こっちのは?」

 魔王は白ワインを飲み干し、次のものを見ると爪楊枝でいくつかの食材が刺された物があった。
 ひょいっと指でそれを持ち上げ見ると、薄い肉にトマトの輪切り、白い塊が一緒についている。
 そのまま口に運び爪楊枝を引き抜くと、魔王は目を見開いた。


「何だこれ! さっぱりとしていてうめえぞっ!!」

「生ハムとトマトとチーズのオリーブオイルにワインビネガーとハーブを混ぜたドレッシングかけだよ。これは赤、白どちらでもお好みでワインを飲むといいよ」


 魔王はユーリィのそんな説明を聞いているのか聞いていないのか、白ワインを飲み、つまみを口に運び、そして赤ワインを飲む。

 四天王も各々にそれをつまみ上げ、口に運ぶもやはり驚きの表情になり各々の好きなワインを手に取る。

 こうして、ゆで上げたエビのマリネやこんがりと焼いた鴨と香草、塩漬け魚のグラタン等々、ワンプレートから徐々に作れる物を作って出し始めるユーリィ。
 気が付けば酒の瓶がゴロゴロと転がり、料理もすべて平らげ、魔王はもの凄く満足そうな顔をする。


「いやぁ、ちまちま食うのがめんどくせぇと思ったが、酒と一緒だとこれもアリだな! いや、美味かった!!」

「はいはい、ご満足いただき光栄ですよ、っと」

 言いながらユーリィはこれが最後とデザートを差し出す。
 が、魔王はそのユーリィの手を取り、引っ張る。


「余計に腹が減っちまったぜ」


「えっ?」

 テーブルに魔王の分のデザートを置いたユーリィは完全に無防備だったのでそのまま魔王の胸に引き寄せられてしまった。


「いただくぜ!」

「ちょ、みんなの前でっ、うむっっ!!」


 魔王はか細いユーリィを抱きしめながら、無理やりその唇を奪う。
 驚くユーリィだが、魔王に口づけされながらもがいた手足がだんだんと動かなくなる。
 そしてその頃には魔王の唾液を味わい、自分から口を開き魔王を待つ。

「ふふふ、だいぶ慣れてきたな」


 ぶちゅぅ♡


 それはとても濃厚なキス。
 舌を入れられ、上気してくるユーリィ。
 頬を赤らませ、少し涙目ながらもどんどんと魔王を求め始める。


「ほほほぅ、これはこれは」

「確かに、魔王様にあれだけ魂を吸い取られているというのに」

「ふむ、何とも無いな」

「これは興味深い……いったい彼のどこにこれだけの魔力が?」


 四天王は魔王とユーリィが口づけを交わす様子を見ているが、その様子に思わず見入ってしまった。
 それもそのはず、以前スィーズが言っていたように、ユーリィのかぐわしい魂の香りがここまで漂っているからだ。



「んはぁっんちゅばぁ♡」

 ユーリィはまるで我を忘れたかのように必要に魔王の唇を求める。
 魔王は目をうっすらと開き、その眼が笑っている。
 まるでユーリィが自分好みになっているのを確かめるように。


 ちゅばっ


「ぷはぁっ! うまかった。腹いっぱいだぜ!」

「んはぁ、はぁはぁはぁ、、もう、みんなのぉ前だってのに強引なだから///////」

 ユーリィから離れた魔王は手の甲で自分のよだれをぬぐう。
 いまだ魔王の胸の中ではぁはぁと赤い顔でじっとしているユーリィはまんざらではないような表情だった。




「これがこの少年の異様な所か……」


 智のスィーズは上気しているユーリィを見て、眼鏡のずれを中指で直しながら、自分の唇をぺろりと舐めるのだった。
 
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