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第二章:魔王様の気がかり
第九話:魔王様の手下たち
しおりを挟むユーリィは厨房でぼうっと虚空を見ていた。
「なんだよ、ぼうっとして?」
ローゼフにそう言われ、ユーリィはハッとなる。
昨日の夜は四天王含め、飲み会と言っていいような食事だった。
そして最後にデザートを出した時にみんなの前で魔王に凌辱された。
なのに、それが気持ちよく感じてしまった自分にユーリィは当惑していた。
「うん、なんでもないよ…… って、何やってるのローゼフ?」
「ああ、人間の村から食材を回収してきた連中から荷物が届いたんでな、お前さんに聞いてどうするか決めようと思ってな」
そう言って後ろに積み上げられた荷物を親指をかざしてユーリィに見せる。
木箱が五個と、いくつかの袋が置いてある。
ユーリィは立ち上がり、そちらに向かい箱や袋の中を確かめ始める。
「これは助かるね、チーズや香辛料、それにトマトピューレとか保存食も入ってる。ここには無いものが沢山有るね!」
「ここじゃ作れないのかよ?」
「チーズとかは牛やヤギがいないとダメだし、発酵させるから時間がかかるもの。それにトマトとかは夏野菜だから今の次期にはできないもんね」
そう言いながらテーブルの上に一つづつ並べて行く。
と、瓶を落としそうにある。
「あっ!」
「おっと、気をつけな」
そう言って、ローゼフは人間では間に合わない落下をすんなりと受け止める。
やはりこの辺は魔族。
人族よりかなり身体能力は高い。
ユーリィはローゼフにその瓶を手渡されまじまじと見る。
「やっぱり、魔族ってすごいんだね……」
「はぁ? そりゃぁ、人族に比べりゃ力も魔力も数段上だからな。だが、俺も含めお前さんには驚いているよ。何より俺の領分である食事を作るのが上手い」
そう言い放つローゼフはニカっと笑う。
正直、魔族で無ければ頼りになる兄貴分と言ってもいい。
ユーリィは改めてローゼフを見る。
茶髪で、短く刈った髪型でその頭の横には立派な水牛のような角が生えている。
気さくな性格で、人間でいえば二十歳くらい。
美形とは言わないまでも、サッカー選手のようなさっぱりした感じがして好感が持てる。
「魔族って、今は人族の村とか町を襲わないんでしょ?」
「ん? まぁ、お前たち家畜が元気にしてくれて、魂が吸えれば無理して戦争する必要もないしな」
ユーリィと一緒になって机に上に品物を並べ始めたローゼフは何気なくそう言う。
それを聞いてユーリィは思わず聞いてしまう。
「魔王って、人族を滅ぼすつもりじゃなかったの?」
ユーリィにそう言われ、ローゼフはその手を止め彼をまじまじと見る。
そして苦笑しながら言う。
「滅ぼす訳ないだろ? そんなことしたら俺たちの食う魂が無くなっちまう。そもそも魔王様は俺たち魔族の為に戦争していたんだからな」
「え?」
「だから、魔王様は俺たちの為に戦争をしてたんだ。人族を襲い、捕らえそしてそいつらの魂を喰らう。そうしなければ俺たち魔族は死んでしまうからな。だが、今までは人族の魂を吸いつくしてしまえば人間たちは死んでしまう。特に魔王様は大喰らいだからな、一度に五、六人の魂は喰らいつくしていた。だからだんだんと俺たちの食料も無くなって行き、それを補うために戦争を始めたんだ。だが、お前さんと四天王の智のスィーズ様の提案なされた家畜計画で俺たち魔族の食料が安定してきた。だから今は戦争を無理にする必要が無くなって来たんだ」
ローゼフはそう言ってニカリと笑う。
「それに、俺はお前の事、結構気に入ってるんだぜ? なにせ、俺の知らなかった料理を色々知っているしな!」
「なんだよそれ~」
ユーリィも苦笑しながら品物をテーブルの上に乗せて行く。
しかし彼の表情は少し明るくなった。
「そっか、魔王は人族を滅ぼすつもりはないんだ……」
誰に聞かれる事無くユーリィはそう小声でつぶやくのだった。
* * * * *
「おや? ユーリィ君はいないのですか?」
「あれ? スィーズ様じゃないですか、どうしたんですか?」
「いや、ユーリィ君の作る料理があまりにも美味しかったのでね、四天王たちもまたご相伴にあずかりたいと言い出して相談に来たのだけれどね」
そう言ってスィーズは中指で丸い眼鏡のずれを、すちゃっと直す。
水色の長い髪がさらりと流れながら、もう一度厨房の奥を見る。
しかし、目的のユーリィの姿が見えない。
「ああ、ユーリィのやつならセバスジャンと一緒に畑を見に行ってますよ」
「畑ですか?」
「はい。ああ、そう言えばガゼル様も一緒だったかな?」
「ガゼルがですか…… 分かりました、ありがとう」
スィーズはそれだけ言うといそいそと厨房を後にした。
ローゼフは首を傾げその後姿を見送る。
「なんなんだろうね、今日は。エルバラン様やラニマニラ様もユーリィの奴に会いに来るなんて」
ローゼフはそんな事を言いながら仕込みを続けるのだった。
* * *
「だから、俺に任せておけばいいのだ!」
「いや、それでは理論的に上手く行かないはずだぞ?」
スィーズが城内の畑に来てみると、ガゼルとラニマニラが口論をしていた。
周りにはそれを取り囲むように家畜の人間たちが見ている。
少し向こうにはエルバランもじっとその様子を見ている。
「お二方も、ご協力いただくのはありがたいのですが、ここは家畜たちにやらせておくべきではないのですかな?」
セバスジャンは口論となっている四天王二人の間を取り持つようにそう言う。
しかし、二人は一歩も引かぬ様子で口論を続ける。
「何があったのですか?」
「おお、スィーズ様。いえ、ユーリィが畑で作物の収穫をするのをお二方が手伝うと言い出したのですがな、ご覧の通りでして」
そう言ってセバスジャンは後ろの畑をスィーズに見せる。
そこには荒廃した畑があった。
半分近くがえぐれたクレータになり、その隣には土人形にサツマイモやその葉っぱが混ざった者がゆらゆら立っている。
そんな畑の前でユーリィはわなわなと震えていた。
スィーズはユーリィの近くまで言って声をかける。
「ユーリィ君、これは一体どうしたんだい?」
そのスィーズの声に気が付いたユーリィはこちらに振り返り、ギラリとした眼差しで睨んできた。
「どうしたもこうしたもないよ! せっかく収穫に時期だったのにサツマイモ畑が台無しじゃないか!! これじゃぁ魔王に次の料理で使えなくなっちゃう! せっかくスイートポテトとか、大学芋とか、焼き芋とかやろうとしたのにっ!! 魔王が甘いものも食べてみたいって言ってたのにっ!!」
手に持つボロボロになったサツマイモをスィーズに見せながらユーリィはびしっと言う。
それを見たスィーズはガゼルとラニマニラに振り返り聞く。
「あなたたちは一体何をしたんですか?」
「何をと言っても、土の下にあるのだから爆裂拳で土ごと吹き飛ばせば簡単に収穫できるだろうと思ってな」
「いやいや、回収を目的とするならば土人形でその体に取り込み持ってこさせるのが最善である。爆裂拳では何処かへ飛ばされるだけだ」
「何を言う、貴様の土人形では取り込んだ芋が動くたびにボロボロに砕けるではないか!!」
二人のそれを聞いたスィーズは目まいがして来た。
四天王ともあろう者が、その力を、その魔術を芋如きの収穫に使うとは!
「あ、あなたたちは四天王としての」
呆れながらスィーズがそう言いかけたその時だった。
「もう、四天王の分は無いからね…… 魔王の分だけしか確保できなかったら四天王分のないよ。デザートなしだからね!」
「それは困る! 貴様のあの甘味は特に美味かったからな!!」
ユーリィがそう言い放つと、今まで静かに事の成り行きを見ていたエルバランもポニーテールを揺らしながら慌ててこちらに来た。
ユーリィはエルバランをジト目で見てサツマイモを見せる。
「でもこれじゃ全然足りない。人数分のサツマイモが取れなかったらスイーツ抜きね」
「なっ! き、貴様等、余計な事をせずに家畜たちに収穫をさせろ! 私の分のスイーツが無くなってしまうではないか!!」
エルバランはいつもは凛としたイケメンのはずが、事、甘味処に関してはそのイメージを崩すほど焦っていた。
せっかくの佐々木小次郎風のいでたちが完全に三枚目になりそうな程。
それを聞いてたガゼルもラニマニラもお互いに顔を見合わせる。
そして家畜の人間たちにサツマイモの回収と収穫を急がせる。
「しかし、砕けてしまった芋はどうしたものですかな?」
「城の外に増やした飼育所の牛や豚の餌にするしかないよ。特に豚はサツマイモとか好きだから、多少傷んでいても大丈夫だよ」
慌てふためく三人の四天王を他所にユーリィとセバスジャンはそんな事を話している。
それを横で聞いていたスィーズはユーリィを見ながら思うわず口にする。
「流石に魔王様の認めたものですね。魔王様の小姓となる訳だ…… これはもうじき戻って来るカイトが見たらどう思う事でしょうね?」
スィーズのその言葉はどうやらユーリィには届かなかったようだ。
ユーリィは収穫されるサツマイモの餞別を始めるのだった。
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