魔王様の小姓

さいとう みさき

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第三章:魔王様の敵

第十五話:魔王様と勇者

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「僕の領地の北側、ウルグスアイ王国に勇者が現れた。こいつを何とかしない限り僕は安心してザルバードの提案には乗れないよ?」


 南の魔王アファネスはそう言って地図を指さす。

 南の国ウルグスアイ王国。
 人族の国としては最大であるも、南の魔王アファネスの領地と隣接している。

 アフィネスは、創世の女神に始祖の魔王レナ・ドが敗れてから南に逃れた魔族の勢力で、始祖の血を引いている彼が現在の南の魔王となっている。
 そして一万と二千年の間、人族との小競り合いを続け現在に至る。


「それについてだが、勇者はぜてぇ見逃せねぇ。アファネス知っている事を全部話せ」


 ザルバードは怒気を含んだ言葉でそう言う。
 それを聞いてアファネスはまたニマニマ顔になる。

「そう来なくっちゃ。勇者はついぞ先日ロラン王国から来たらしいよ」


「なに? ロラン王国だと??」


 ザルバードはアファネスのその言葉に反応する。
 それもそのはず、ロラン王国はザルバードの領域のすぐ西側だった。
 ついぞ先日その下のドリガー王国北側の村、サルバスの村を襲いユーリィを手に入れた。
 勇者がすぐ隣にいたのならサルバスの村など襲わず、そっちを襲っていたものをと、ザルバードは歯ぎしりをする。


「で、その勇者ってのは仲間を集めながらウルグスアイ王国来て、女神神殿で勇者の紋様を確認して勇者認定をされたそうだ。僕の配下に調べさせたけど、そいつらはどうやら東の魔王であるザルバードに目をつけているらしいよ?」

 この世界で勇者とは、魔王の勢力が著しく増えると、女神の祝福を受けた者の身体に勇者の紋様が浮かぶ。
 そして人知を超えた力を発揮し、魔族に対抗するのだ。

 アファネスはそうニヤニヤしながら言う。
 するとザルバードは立ち上がり大笑いをする。


「はーっはっはっはっはっはっはっ! そいつは願ったりだ!! 勇者はオヤジの仇。俺様に目をつけるとは好い度胸だ。返り討ちにしてくれる!!」


「そう言うと思ったよ。でだ、勇者一行は多分ウルグスアイ王国からドリガー王国を抜けてここへ来ると思うんだ。それでだ、僕とザルバードで協力して挟み討ってのはどうだい?」

 アファネスはニヤニヤ顔のままザルバードにそう提案する。
 ザルバードはアファネスを見ながらしばし考えるが、ふとアファネスに聞く。


「何が望みだ?」


「いや、僕としてはまずは安全の確保がしたい。魔王一人で勇者に当たるのは流石に危険だからね、確実に仕留めるには最低限でも二人以上の魔王が必要だ。勿論エレグルスやロベルバードが一緒に戦ってくれるならもっといいけどね」

 アファネスはそう言って北の魔王エレグルスや西の魔王ロベルバードを見るが二人は首を振る。

「勇者を確実に葬るなら、我はエアグル王国とロラン王国へ牽制をするとしよう」

「だったら私はメキカシ王国とエアグル王国へ牽制をしよう。そうすれば北側西側諸国は勇者に加担する暇は無くなる訳だしね」

 北と西の魔王がそう言うと、アファネスはニヤニヤ顔のままため息をついて言う。

「まあ、妥当かな? グランドクロスが全部そろえば勇者如き確実に倒せるだろうけど、魔王が二人いれば何とかなるかな? それじゃぁ二人には面倒な人族が勇者に加担できない様に牽制をお願いするよ。どう、これでいいかなザルバード?」

 南の魔王アファネスのその提案に東の魔王であるザルバードはしばし沈黙するも、ニカッと笑ってテーブルに手をつき言う。

「よし、それで行こうぜ! 勇者をぶちのめし俺たちに従う家畜を増やし、結界を張り、魔族安永圏をつくるぜ!!」


 ザルバードのその言葉にグランドクロス招集の会議は終わるのだった。


 * * *


「さて、実は今日はお前らにもう一つ面白いものを用意している。セバスジャン、準備をしろ!」


 会議が終わり、ザルバードはむしろこっちが本命と言わんばかりにセバスジャンに指示をする。
 セバスジャンは「かしこまりました」と言って、一礼をして下がる。


「面白い事って何なんだい?」

 西の魔王、ロベルバードはずいっと前のめりにザルバードに聞く。

「お前らに宴を準備した。まぁ、たまには人間の食い物も好いだろう?」

「ふん、非効率なものを。やはりあの小姓をかこってからお前はおかしくなったのではないか?」

「食い物って、人族のやつ?」

 ロベルバードに答えたザルバードに、北の魔王エレグルスは面白く無さそうに言う。
 そして確認するかのように南の魔王アファネスもザルバードに聞く。

「ああ、そうだ。たまにはいいだろう?」

「僕は美味しい物は好きだから嬉しいな。何を食べさせてくれるんだい?」
 
 美食家として有名なアファネスは、前回ここで出された食事を馬鹿にした過去がある。
 七十年前の事もあるだろうから、相当に頑張って来るのだろうと思いながら、下手なものを出したらもっとバカにしてやろうとアファネスのニヤニヤ顔は更にいやらしい笑みになる。



「お待たせいたしました。まずは前菜からです」


 しばらくすると、セバスジャンがそう言って台車に料理を載せて戻って来た。
 ローゼフとユーリィもここに現れ、最後の仕上げをする。
 そして給仕のイケメンの魔族たちが各魔王の前に皿を置く。


「まずは前菜です。本日は生ハムとトマトとチーズの香草ドレッシングになります」

 言いながら赤ワインも各魔王に注いで行く。
 それを見たアファネスは目を疑った。

 正直その前菜は彩色も形もとても美しかった。
 白い皿に生ハムとチーズ、そして真っ赤なトマトの輪切りのコントラストが素晴らしい。
 そしてその上にかかっている香草ドレッシングにも細かく刻まれた緑や赤い色が混じっていてキラキラして見える。


「ふむ、この酒もなかなかではないか……」

「だろう? しかもこの赤い酒には肉類がとても合う。さあ、食ってみろ」

 ワインに口をつけた北の魔王エレグルスは少し驚きながらワインの味を楽しむ。
 酒は神にも捧げるだけあって、魔力が他の食料より多く含まれている。
 しかも上等な酒になればなるほどそれを作る者たちの精力が注がれ、魔力量も増えている。
 なので魔族としても酒をたしなむ習慣はある。

 しかし、人族の食べ物なぞたいして魔力の補給にはならんだろうとエレグルスは思いながらその前菜を口にすると……


「んむっ!? な、なんだこれは!!」
    

「驚いた、下手な料理が出てきたらまたバカにしてやろうとしたんだけど、これじゃぁね」

「へぇ、人の食い物がこんなに美味しいだなんてね」

 各魔王は口にしたその前菜に驚いている。
 そしてそれを流し込むかのようにワインを口にすると、これがまたよく合う。



「続きましてはサラダになります。本日は温野菜にエビのマリネを仕込んだものをご用意させていただきました」


 各魔王が驚く中、皿の上のものが無くなるのを見計らってセバスジャンがそう言う。
 すぐにローゼフとユーリィが温野菜にエビのマリネを混ぜてソースをかけて盛り付ける。
 温野菜の場合、出来立てが一番うまいからだ。

 お皿に奇麗にエビのマリネと混ぜられた温野菜サラダが盛られて、各魔王の前に置かれる。
 そしてすかさずセバスジャンの指示で今度は白ワインが注がれる。


「温野菜にはこのスパークリングワインがよろしいかと」

 グラスに注がれるそれはシュワシュワと良く冷えていた。
 ザルバードはそれをかかげて言う。

「こいつもうまいぞ? さあ、喰え」

 三人の魔王はザルバードを見てからスパークリングワインを一口。
 冷たくシュワシュワする甘みの強いワインがのどを潤す。
 そして、口の中をリセットしたそこへ、まだ湯気が立つ温野菜を口に運ぶと、途端に程よい酸味と野菜の甘み、そしてエビのぷりぷり感が広がる。


「なんだよこれ! 美味しい!!」

「泡の出るワインで口の中がすっきりした所へこの優しい味わい。これが人間の食べ物だと言うのか!?」

「面白いよね、最初の料理もそうだけどいろいろな素材の味が絡んで、こんなの今まで食べた事無いよ」


 温野菜サラダを食べながらしかし、アファネスは気付く。

「さっぱりしたモノには違いないのに、なんでこんない濃厚な味わいがするんだい?」

 それを聞いたザルバードは会心の笑みを浮かべて言う。


「こいつにはアボガドと言う植物が入ってんだ。森のバターとも言われる植物油豊富なやつなんだぜ、どうだうめーだろ!!」


 それを聞いたユーリィは次の料理の準備をしながら苦笑を浮かべる。
 数日前に試しに出した温野菜サラダにザルバードが大いに驚き種明かしを聞いて来た。
 だからそれを教えたわけだが、誰かに言いたくて仕方ないようだったので、アファネスの質問はザルバードにとって待ってましたと言わんばかりのものだった。



「続きましてかぼちゃのスープにございます」

 各魔王が驚く中、セバスジャンは次のスープを準備させる。
 まっ黄色のスープに白いクリームが垂らされ、クルトンと乾燥パセリがちりばめられている。


「これがスープだと? 芸術品の間違いではないのか?」

「へぇ、カボチャって、あの道端とかにごろごろ転がっている緑のやつだよね?」

「と、とにかく食べてみよう」

 北の魔王エレグルスは目の前に出されたそれの美しさに、これが食べ物かと眉をひそめる。
 戦争で進行した時に道端で見たかぼちゃと全く違うものが出され、驚く西の魔王ロベルバード。
 そして既にニヤニヤ顔が無くなってしまっている南の魔王アファネスは既にスープにスプーンを挿し込んでいる。


 そしてそれを各々の魔王は口にして驚く。


 口の中に確かにかぼちゃの風味がするが、その中にまろやかな味わいと舌触り、程よい甘みの中にわずかに感じるしょっぱさが全体のバランスをとっている。
 何度か口にすると飽きが来るが、それを見越したかのようにクルトンのカリッとした食感がインパクトを与え、気が付けばかぼちゃのスープは皿の中から消えていた。


「ザルバード、これは本当に人族の食べ物なのか!?」

 人族に対して恨みに近い感情しか無かった北の魔王エレグルスは思わずザルバードに聞く。

「当然だ。俺様は毎日こう言った食事もしているんだぜ」

 エレグルスのその様子に、大層嬉しそうにザルバードは答える。 
 彼らの驚く様が楽しくて仕方ないようだ。

 そしてザルバードは立ち上がり言う。


「さあ、メインディッシュだ! お前らの為に特上の物を用意したぜ!!」




 魔王はそう言ってユーリィに目配せをするのだった。

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