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第八章:ドドスでのエルフ料理?

8-19鉄板亭とのお別れ

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 「鉄板亭」が再開してからずっと忙しい日々が続いていた。


 出店時代のお客さんも通ってくれてきているし、口コミで女性客も増えている。
 おかげで男性客は夜の部の食事の時にこっそりとデザートと言いながらクレープとか食べているけどね。

 昼の部はスイーツ限定のお店となった「鉄板亭」、流石にお客さんの数も落ち着いて来た。


「初日から四日目かぁ、流石にお客さんも落ち着いてきましたね?」

「うん、でも以前に比べたら雲泥の差よ? 昼の部でお客さんが満席になるなんて今までの『鉄板亭』じゃ考えられなかったもの」

 厨房から品物を受け取ってテーブルに持って行きながらそんな話をする。
 ざっと見ても外に並んでいるお客さんもほどほどになっているので時間さえ経てばさばき切れるだろう。


 と、次のお客さんを店内に案内する。


「いらっしゃいまぁ…… えっ?」

「だいぶ繁盛しているみたいだな、教会でも有名だぞ?」

 それはバーグ神官だった。
 あの「雑用係」と自称している神官。

「いらっしゃいませ…… お客さんで良いんですよね?」

「ああ、甘いものは苦手だが一度は食っておこうと思ってな」

 そう言いながら店の中を見る。
 そして私に案内されてカウンターのテーブルに着く。


「あの、昼の部はスイーツのみなんですけど?」

「かまわんさ、そうだあの出店で出していたやつを頼む」

 そう言ってメニューも見ずにオーダーをしてくる。

「えっと、各種味とか有りますけど?」

「あまり甘くないやつで任せる。それとこれをあんたたちに」

 そう言って蝋で封をされた手紙を差し出して来る。


「なんですかこれ?」

「教会は協力を惜しまないと言ったろ? 船でサージムに渡る為の便宜だよ。それを港で船会社に見せれば船に乗せてもらえる。ただでな」


 そう言ってサービスの果汁が入った水を飲む。

「ふむ、こうして飲む水は美味いな…… 今度司祭様にも提言してみるか」

「便宜ですか…… 安心してください。来週にはここを出て行きますから」

「すまんな。そうしてもらえると助かる」

 私はその手紙を懐にしまいながら伝票を厨房に持ってゆく。

 まったく、わざわざ確認に来なくてもドドスの街を出て行くっての!
 ちょっと不機嫌になりながら厨房で他のお客さんの品物を受け取る。

 
「あれ? お姉ちゃん何か有ったの??」

「何でもないわよ。それよりこっちのオーダー大至急お願い。それとあのお客帰ったら塩まいといて!」

 そう言ってカウンターにいるバーグ神官をチラ見する。
 ルラは彼に気付いて頷く。

「分かった、すぐ作るね」

 そう言ってクレープを焼き始めるのだった。


 * * *


「意外と甘い物も悪くないと言う事に気付いたよ。また来る」

「その頃には私たちはいないですけどね!」


 帰り際皮肉を言ってやるとバーグ神官は疲れた表情のまま苦笑をする。

「なに、『鉄板亭』のこの食い物が気に入っただけだよ。それと後のことは任せておけ」

 そう言ってタバコを出して咥える。


「ここ昼の部は禁煙なんですけどね?」

「ああ、そうだったか。すまんな」


 そう言って代金をテーブルに置いて立ち上がり疲れた姿で片手だけ挙げて去って行ってしまった。
 私はその後姿を見ながらつぶやく。


「約束よ……」


 それだけ言ってからまた他のお客さんのオーダーを取りに行くのだった。

 
 ◇ ◇ ◇


「さてと、買い物もできたし忘れものも無いわね」

「お姉ちゃん、何このマント?」

「歩き旅には必須なんだって」


 部屋の中の物を片付けて鍵を持ってお世話になった部屋を後にする。
 ルラは着慣れないマントに戸惑っている様だけど、歩き旅には必須だってドワーフのウスターさんが教えてくれた。

 なんでも精霊魔法が使えるのなら暑いときは風の精霊でマントの中を涼しくできるし、小雨とかはマントについているフードをかぶればしのげる。
 道を歩いていてもいきなり襲われるにしてもマントがあると初動のダメージが軽減できるとか。

 まあ、私たちにはチートスキルがあるから大丈夫だけどね。


 階段を下りて下の階に行くとメリーサさんや亭主さん、おかみさんが待っていた。


「お世話になりました。はい、これ部屋の鍵です」

「毎度。またドドスに来たらうちを使ってくれ」


 亭主さんに鍵を返しながらお礼を言うとにっこりと笑ってそう言ってくれる。


「リルちゃん、ルラちゃん本当に行っちゃうんだ……」

「メリーサさん、やっと生パンケーキ焼けるようになったんだからもう大丈夫ですよね? 季節の果物の限定ジャムのアイデアも忘れないでね」

「メリーサさん、ばいばい」


 私とルラがそう言って扉に向かおうとしたらメリーサさんが抱き着いて来た。


「リルちゃん、今度会う時は私胸大きく成ってるよ! だからリルちゃんも諦めないでよ!」


 いきなりだったので驚いたけどやっぱちょっと寂しいな。


「そうですね、今度会う時はどっちが大きく成ってるか勝負ですね?」

「う、うん、だからまた来てね……」


 メリーサさんのその願いは私にチクリと痛みを与える。

 果たしてメリーサさんの生きている間にまたドドスに来られるだろうか?
 もし何かの拍子でまた外の世界に出られたとしても、何百年も後かもしれない。
 これがメリーサさんに会える最後かもしれない。


「メリーサさん…… そうですね、ここへ来たらまた絶対『鉄板亭』に来ます。そしたらパンケーキの腕前がどうか試させてもらいますよ?」

「うっ、最後の最後でそれ言うかな? でも分かった、きっと次に会う時はもっと美味しいパンケーキが焼けるようになっているね!」

 そう言ってもう一度抱きしめ合う。
 そこへルラも加わって三人でしばし抱き合う私たち。


 ドドスの街に来た時には私とルラだけでちょっと心細かったけど住めば都って言われる通りドドスも悪くはなかった。
 ちょっとごたごたもあったけど後はあのバーグって神官が「雑用」ついでにこの「鉄板亭」を見てくれるだろう。


 私とルラはそっとメリーサさんから離れて扉を出る。
 そしてメリーサさんの見送られながらドドスの街の城門へ向かう。



「途中岩山ではロックワームが出るから気をつける事だな。もっとも、あんたらなら問題無いだろうがな」

 門の近くで聞こえてきたその声に顔を向けるとバーグ神官が物陰から出てくるところだった。
 バーグ神官は吸っていたタバコを地面に落とし踏みつけて消す。


「どうも、お見送りまでしてもらえるなんて光栄ですね!」

「また気配が分からなかった……」


 バーグ神官にそう言って私はお辞儀してすぐに門へ向かう。


「水上都市スィーフに着いたら神殿に寄ってくれ、もてなす。それと情報もな」


 見送るバーグ神官は私たちにそう言う。
 彼なりに気を使ってくれているのは分かるけどやっぱりなんか気に入らない。





 私たちは振り返る事無くここドドスの街の門をくぐり岩肌の多い街道を歩き始めるのだった。

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