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第十一章:南の大陸
11-29外の食べ物
しおりを挟むシャルさんとおしゃべりしながら私はポーチから引っ張り出した食材を台所に並べる。
「なにこれ? 凄いたくさんの材料じゃない!」
「ええ、ここに帰ってくるまでにいろいろな所でいろいろな食材が手に入りましたので。この魔法のポーチのお陰でいろいろなものが新鮮なまま持って帰れたのは助かりますよ~」
言いながら私は間違えてコカトリスの尻尾を引っ張ってしまった。
どんっ!
「なっ!? ちょっとリル、これってコカトリスなんじゃないの!?」
「あ、間違えました。これはしまってっと……」
あんな大きな鶏肉が有ったらお台所がいっぱいになっちゃうじゃないの。
私は慌ててそれをしまっていく。
しかしシャルさんは目を丸くして私に肩に手をかけて揺さぶる。
「ちょっと待ちなさいリル! あなたたちここへ帰ってくるまでに何やらかしたのよ!?」
「いや何って言われても……」
そしてここに戻ってくるまでの話が始まるのであった。
* * * * *
「はぁ~、確かにそれはファイナス長老じゃなくても気になるわね。と言うか既に姉さんのレベルよそれ」
「う”っ! わ、私はシェルさんじゃないですよ!」
「あ、でもお姉ちゃんよくシェルさんと間違われてたよねぇ~」
こらルラ!
それはあんたも一緒だ!!
なんで私が「女神の伴侶」と言われるシェルさんと一緒にされるの?
私はノーマルよ、ノーマル!
「とは言え、あのジュメルにまで目を付けられるとか、あんたたちも災難ねぇ~」
「そう言えばシェルさんってどうなったんですか? 途中でもう一人のエルハイミさんにも会いましたけどなんだかんだ言って転移してジルとかの村に行ちゃったままでしたし」
私がそれを聞くとシャルさんは眉間にしわを寄せて嫌そうに話始める。
「姉さんたちのお陰であの人もてんてこ舞いよ。まあお陰で愚痴じゃないけど姉さんの取り扱いについてあの人から私に連絡が良く来るよういなったのは良いのだけどね♪」
それでもアインさんとか言う彼氏さんと話が増えたのがうれしそうなシャルさん。
そんなに好きならコクさんと同じくジルの村とかに行けばいいのに。
「それでどうなったんですか?」
「うん、あなたたちが転生者って言うから言うけど、あのジルの村はエルハイミさんに関わる力の大きな人たちが転生する村なの。何度も転生している人は自然とその力が漏れ出して普通の暮らしでも影響が出てくるほどの人がいるわ。だからあ人がそう言った人たちを教育して温和な生活が出来るように仕向けているんだけどねぇ……」
シャルさんはそんな話を続ける。
私はシャルさんの話を聞きながらジャガイモや人参、玉ねぎなんかの皮をむいて切り刻んで行く。
「それでその転生者の中にエルハイミさんの愛して止まない『ティアナ姫』ってのがいるの。もう何度も転生していてその都度エルハイミさんと最後まで一緒にその人生を過ごしていたんだけどね……」
「ちょと待って下さい、いま『姫』って言いませんでしたか?」
シャルさんのその話の中で引っ掛かる部分が有るので思わず話を止めて聞いてしまった。
「『姫』? ああ、最初はガレント王国の姫様だったらしいわね。私の生まれる前の話だけど」
シャルさんが生まれる前の話って、それって千年以上前の話?
シェルさんを伴侶としているからエルハイミさんはそっちの気があるってのはうすうす気づいていたけど、やっぱりあの人苦手だなぁ……
お、女どうしで子作り出来るらしいし、女神様だし……
「それでその『ティアナ姫』が二年前に覚醒したんだけど、それを聞いてあの時エルハイミさんも姉さんもジルの村に向かったわけよ。で、その後が問題でそのティアナ姫の転生者が既にジルの村の誰かと恋仲に落ちていてエルハイミさんを受け入れられないと言う事でもめているのよ……」
「はぁ? まさかこの二年間ずっとですか!?」
いや、恋愛の問題は時間の問題だけじゃないのは理解できるけど、まさかあの後ずっとごたごたしているっていうの?
あれだけいろんな人巻き込んでまだ決着がついていないと言うの?
「あ、あの、もしかしてまだその問題って決着がついていないんですか?」
「そうなのよ、姉さんもたまに愚痴言ってくるし、最近は別のエルハイミさんも集まって来て、それに輪をかけて黒龍様まで来ちゃったって言ってたから多分今あの村は世界でもトップクラスのやばい場所になっているわね……」
私はそれを聞いて思い出す。
女神であるエルハイミさんは確か三人いて、それが全部村に来ている。
女神の伴侶と呼ばれるトラブルメーカーのシェルさんもいる。
そしてそこへ女神殺しの古の竜、コクさんとそれに従うドラゴンニュートのクロエさんとクロさんも一緒に行っている。
もうそれだけでとんでもない事は言うまでもない。
シャルさんの恋人が頭を抱えているのが目に映るようだ。
「恐ろしいですね、それって……」
「だよね、だからアインにもこっちに逃げてこないかって言ったのだけど、『女神様には世話になったから出来るだけの事は手伝いたい』とか言ってるのよ! もう、人の心配も知らないで!! あ、でもそう言った実直な所が良いのよね~。七百年間他の女の人とは一緒になっていないってのもちゃんと私に操を立てているって証拠だしね♪」
嬉しそうにそう言うシャルさん。
いや、だからそれだけ好きならシャルさんから会いに行けばいいと思うんだけど……
私は大きくため息をついてスパイス各種をルラに言ってすり鉢で細かくしてもらう。
フライパンにオリーブ油を軽く引いてからニンニクと生姜の切ったものを入れて香り付けして、お肉を入れる。
こんがりと表面が焼き上がったら一旦取り出して、切っておいた野菜を入れて軽く炒める。
「あら、何かとてもいい香りね?」
「はい、カレーライスを作ろうと思いまして」
「カレーライス??」
言いながら今度は鍋に炒めた野菜を移し、お肉も入れてお湯を入れてからゆっくりと煮込み始める。
煮え立ったら牛乳を少し入れて、また軽く沸騰するのを待つ。
沸騰して来たらルラに準備しておいてもらったスパイス各種をゆっくりと入れながら掻き回す。
本来は残った油でスパイスを炒めるともっと香りが出るのだけど、ルラが甘口が良いとか言うから優しい味になるように炒めるのはよして煮込み時間を長くする方法に変える。
「でも、二年も説得していて駄目ならやっぱりその気がないんじゃないんですか?」
「うーんでもそこが難しい所なのよね。覚醒したので以前の記憶も戻っているからティアナ姫自体もエルハイミさんが好きと。でも今の伴侶も好きで分かれる気はないと言うらしいの。だから余計にややこしくなっているらしいわ」
お鍋が焦げ付かない様に弱火でくつくつと煮込んでいく。
もう部屋にはカレーのいい香りが充満している。
水上都市スィーフで手に入れた白米もそろそろ炊き上がる頃だろう。
「お姉ちゃん、まだできないの?」
「もうちょっと~。ルラ、サラダ準備して。それと漬物もね!」
ルラにも手伝ってもらってサラダや漬物の準備もしておく。
ちなみに漬物は浅漬け。
大根とかキャベツとかを細かく切っておいて、それに鷹の爪、塩とワインビネガー、お砂糖を少々入れてから柑橘系の皮を少し細切りにして入れたもの。
本当はらっきょとか福神漬けが欲しいけどそこまでこったものは手に入らないし、作るのも大変すぎる。
「ずいぶんとスパイシーないい香りね?」
「もう少しで出来ますよ、シャルさん。あ、ルラ、お母さんとお父さんも呼んで来て!」
私がそう言うとルラはトタトタとお母さんとお父さんを呼びに行った。
ご飯も炊けたし、それをお皿に盛ってカレーをかけて行く。
人数分をテーブルに並べて出来上がり!
「さあ出来ました、ご家庭の定番の味、カレーライスです!!」
ちょうどルラがお母さんとお父さんも呼んで来てみんなで食卓に着くのだった。
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