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第十二章:留学
12-5学園長の家
しおりを挟むそこは完全に和式の部屋だった。
「えーとお布団はそこの押し入れの中ね。ここへ来る前にしっかり干しておいたから気持ちいわよ~? それとタンスはそこにあるから使ってね~」
マーヤさんに言われて部屋の装備を説明してもらうけど、完全に和室なので問題無い。
「あ、それから机なんだけど、なんかユカの話だとそれで大丈夫だろうって言うけど良いの?」
そう言ってマーヤさんは壁に立てかけてある丸テーブルを指さす。
それは足を折りたためる昭和のテーブル。
もうね、昔テレビで見たコントに出てくるやつ。
「は、はい、大丈夫ですけど……」
「そう? 私なんかそれに座ってユカの書類の手伝いすると足痺れちゃうのよね~」
笑いながらそう言うマーヤさん。
まあ、長々とペタンコ座りしていたら確かに足痺れちゃうよね~。
いくら女の子座り出来るからって言ってもずっとあのままじゃ足痺れちゃうもんね?
「取りあえずは大丈夫だと思います」
「そう? それじゃ後はこれね。多分サイズは合うと思うけど」
そう言ってマーヤさんは風呂敷に包まれたものを手渡してきた。
「これは?」
「学園に通う為の服装よ。制服って言うのだけど、学園に通う者はみんな同じ制服を着る決まりなの」
私とルラは手渡された風呂敷を開けてみるとなんと、ブレザー系の制服が出て来た。
手に取っていると胸の所に大きめなリボンがあって、スカートはチェック柄の可愛いやつ。
「これ、あっちの世界の制服そっくり?」
「あ~ほんとだ、お姉ちゃんたちが来ているようなやつだ~」
手に取り広げてみると、ちょっと向こうの世界より派手だけど可愛らしい制服に襟や袖に金色の刺繡が施されている。
そして更に中から腕輪が出て来た。
「あれ? この腕輪は何ですか?」
「ああ、それはね、学生は必ずつけていなきゃダメな『戒めの腕輪』って言って、学園内では魔法が使えなくなるやつなのよ。じゃないと喧嘩とかで魔法使っちゃうと危ないじゃない?」
言われてその腕輪を開かれて私たちの左手にはめられる。
「よしっと、これで良いかな? これは決まった人じゃないと外せないからね。寝る時もお風呂の時もちゃんとはめておくように」
「えっ!? 外せないんですか?? じゃあ、学園にいる間はずっとつけてなきゃいけないんですか?」
「そうねぇ、学園の壁の内側には結界が張られていて魔術障害の効果がその腕輪にはあるからうまく呪文が唱えられない様になるの。勿論学園の外や場所によってはそれが解除されるところがあるけど、基本学園内は魔法は使えないわ」
マーヤさんにそう言われて私はその腕輪をしげしげ見る。
するとルラが試しに精霊魔法を使ってみようとする。
「光の精霊さん、出れきれぇ…… あ、あれ?」
「エルフ語も使えないのですか?」
するとマーヤさんは笑って言う。
「精霊魔法も精霊たちに呼びかける時に魔力を使いながら呼びかけるでしょ? だからちゃんと精霊たちに呼びかけられない様になるの。 試しに明りの魔法を唱えて見て」
言われて今度は私が明りの魔法を唱えようとすると、ルラと同じくコモン語が上手く発声できない。
何度か試してみても同じだった。
「じゃあ、今度は魔力を使わないでやってみて」
「は、はい。【明りよ灯れ】ライト!」
すると今度は呪文自体は唱えられたけど、魔法が発動しない。
当然と言えば当然だけど、魔力を載せて呪文を唱えていなければ発動しないってエルハイミさんには教わっていたし。
「呪文は唱えられても魔力を載せないと発動はしないの。これがこの学園で安全を守る手段なのよ。さて、それじゃ今度はその制服を着てみてね」
ルラも私も腕輪をしげしげと眺めていると今度は制服を着るように言われた。
マーヤさんの言う通りに制服を着てみる。
「こ、これは…… す、スカートの丈短くありませんか?」
「なんか『赤竜亭』のお仕事の服と同じだね~」
「あら? ちょうどいいとは思うんだけど、学園にいる子はみんなそんな感じよ?」
そうなのかい!?
いや、短い方が可愛いってのはあるけど気を付けないと中が見えちゃうじゃないの!?
誰だこの制服考案したのは?
「それでね、その制服は学園にいる間は必ず着る事。その制服には対魔処理がされていてある程度の魔法は無効化できるのよ」
「え? 魔法が効かなくなるんですか??」
初めて聞いた。
魔法が無力化される服なんて。
でもそれってすごい事じゃないの?
「へぇ~、じゃあこれ着てれば更に『最強』だね、お姉ちゃん!」
「でもこの腕輪してたらチートスキルも使えないんじゃないの? そうだ、ちょっと……」
私は障子の向こうの庭先を見る。
ここからでもししおどしが見えるので、そこに流れ込む水を消し去ってみる。
「ししおどしに流れる水を『消し去る』!」
集中して可否の確認が頭の中に現れ、「可」とするとししおどしの中に流れ込んでいてもうじき倒れそうになっていた竹筒が中途半端な高さで石に叩きつけられる。
かこん!
「あっ」
ルラがそれを見て小さく声をあげる。
それもそのはず、私のチートスキルはちゃんを発動をしたのだ。
「ま、マーヤさん。もしかしてスキルはこの腕輪していても発動するのですか?」
「あらあら~、どうやらそうみたいね。あなたたちのスキルについては聞いていたけど、やっぱりエルハイミさんと同じ力だと『戒めの腕輪』あたりじゃ全然ダメなのね~」
そう言ってしばし口元に指を当てて考えこんでから言う。
「この事は皆には内緒ね、ああ、ユカには言うけど他の人には内緒にしておきましょう」
「えーと、やっぱり秘密にしておいた方がいいんですね?」
「そうね、これは魔法とは違ったものだから取り扱いには要注意ね。もっとも当初の目的はこの力を制御するわけだから『戒めの腕輪』程度じゃ駄目っぽかったとは思っていたけどね~」
そう言ってマーヤさんはにこにこする。
そして立ち上がって言う。
「制服も似合っているし大丈夫みたいね。さて、じゃあユカお父さんに見せに行こうかしら?」
「マーヤさん、それまだ続けるんですか……」
「はーい、マーヤ母さん~」
ニコニコしているこの人を見ていると何を言っても無駄なのだろうなと今更に思う。
こうして私たちの学園生活の準備は進むのであった。
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