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第十二章:留学

12-21魔術総合実演会

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 魔法学園ボヘーミャは何処の国にも属さない。
 それは各国の支援により成り立っているからだ。


 学び舎としての立ち位置は勿論の事、他では作れないマジックアイテムの生産などを手掛け、各国の魔道研究を請け負うなどその価値は計り知れない。
 さらにこの千年間、現在の学園長がずっと運営してきているので、その学園長の教え子として成長した各国の王は頭が上がらないと言う裏事情もある。

 そんな魔法学園ボヘーミャは城壁を中心にその周りに街が出来、その街の運営自体も学園長が仕切っていると言うのだから驚きだ。


「魔術総合実演会かぁ~。しまった、すっかり忘れてたわぁ~。まあ、研究発表は前に作ったこれでもしておけばいいかしら?」

 ソルミナ教授の研究室に行って魔術総合実演会、通称「魔演会」の事について話したら眉間にしわを寄せて額に手を当てていた。

「ソルミナ教授、忘れてたんですか?」

「いやぁ、リルとルラを使ってエルフの胸を大きくすることに没頭しすぎてすっかり忘れてたわぁ~」

 ヤリスに聞かれて、てへぺろつ☆するソルミナ教授。
 いや、いい年なんだからいくら外観が二十歳ちょっとでも無理がありますって……

「しかし、ソルミナ教授の研究については一次止まりますわね? 魔演会は全ての学生や教授、教員が参加しなければなりませんものね?」

 アニシス様もチラシを見ながらソルミナ教授に言う。
 するとソルミナ教授は難しい顔して腕を組んで話始める。

「う~ん、研究費の配分は以前作ったマジックアイテムの利権で潤沢に入るから問題無いとして、義務は果たさなきゃだから確かに一旦今の研究は止まりだわね」

「それは仕方ないとして、『大魔導士杯』に参加しなきゃならなくなりました」

 ソルミナ教授の研究は一旦停止するのは仕方ない。
 学園祭と言う催し物が学園の優先事項であれば。
 問題はここへ来てまだいろいろ分かっていない私たちがいきなりメインイベントとなる「大魔導士杯」なるモノに参加しても良いのだろうかと言う事。

 なんかヤリスの話だと参加する人たちは自国のプライドが何やらとか言ってたけど。


「『大魔導士杯』ねぇ、確かに毎年あれは面白いけど基本お祭りの催し物なんだからそんなに肩に力入れなくても良いんじゃないの?」

「そうはいきませんよ、ソルミナ教授! 参加することが分かれば絶対に姉さまたちの誰かが来ます、もし無様な姿でも見られようもなら……」

 ヤリスはそう言ってガクガクブルブルする。
 いや、そんなに姉たちが怖いのか、ヤリスは?

「そう言えばガレント王国のカルディナは元気でしょうか? 本来なら同じ年の彼女が学園に来ると聞いていたのですが、ヤリスに急遽変わったのでしたわね?」

「そ、それは私にこれが出ちゃったからなんですけど…… アニシス様に言ってませんでしたっけ?」

 そう言ってヤリスは瞳の色を金色に変え、全身を薄っすらと輝かせこめかみの上に三つずつトゲのような癖っ毛を生やす。


 にょきっ!


「あらっ! ヤリスってもしかして覚醒者ですの!? うらやましい、そうすると始祖母様のお力が少し使えると聞いていますわよ?」

 流石はエルハミさんの子孫。
 アニシス様はそれを見てすぐに理解する。
 しかしヤリスはため息をついて言う。

「覚醒したのはうれしいけど、これって大変なんですよ。力は何十倍にも跳ね上がるし、ちょっとジャンプしたってすぐに十メートルくらい飛び上がっちゃうし、魔力量も大量に増えてるから気を付けないと魔法も暴走するしでシェル様から押さえる方法を教えてもらうまで大変だったんですよ」

 そう言ってヤリスはまた元の姿に戻ってからもう一度溜息をつく。
 しかしそれを見たアニシス様はポンと手を叩き喜ぶ。

「いえいえ、これはものすごい有利な点になりますわ。体力的な競技では期待しますわよ、ヤリス」

「あのぉ~、それで『大魔導士杯』って一体何なんですか?」

 ニコニコ顔のアニシス様に私は手を挙げ聞く。
 するとアニシス様はこちらを見て首をかしげる。

「え~と、特に決まりが無いのですが毎年参加グループごとにトーナメント方式でお題が出されそれを勝ち抜いて行くと言うものですわ」

「勝ち抜き戦でしかもお題が決まっていない?」

 なんか聞いただけでもすごく面倒そうなものに感じる。
 するとヤリスはため息を吐いてから言う。

「去年は知識、体力、芸術、それと恒例の模擬戦だったわね?」

「一昨年は芸術の代わりにお料理なんてのもありましたわ」

 聞く限り色々すぎる内容のオンパレード。
 それを勝ち抜き戦でやると言うのか??

「まあ、魔術総合実演会の目玉だもんね。毎年裏ではどこが優勝するかの賭けもやってるし、上位に入れば確かに各国から来てる留学生の国は鼻が高くなるモノね。あなたたちも出るならケガしない様に注意しなしな」


「ケガするようなモノなんですか??」


 ソルミナ教授は奥から何やら魔道具を引っ張り出し、様子を見ながらそう言う。
 私は「ケガするな」と言うその言葉に思わず反応してしまう。

「ケガって言っても、模擬戦とかの時に注意しないといけないってことよ。この制服を着ている限りよほどの魔法でない限り怪我はしないからね」
 
 ヤリスはそう言って自分の制服をポンと叩く。
 確かにこの制服の対魔処理は凄い。
 通常当たったらただでは済まない【炎の矢】なんかが完全に無効化されるのだから、その能力はかなり高い。


「お姉ちゃん、なんか面白そうだよね、あたしワクワクして来たよ!」

「いや、私は憂鬱よ。一体何やらされる事やら……」


 大体の事は分かったけど、きっとドタバタするんだろうなぁ……
 私には面倒事が起こる未来しか見えなかったのだった。


 * * * * *


「ほう、『大魔導士杯』に参加しますか?」


 晩御飯時に「大魔導士杯」に参加する事を学園長とマーヤさんに話すと珍しく学園長が反応を示した。

「『大魔導士杯』に出るんだ。これは是非とも応援に行かなきゃね。あ、ユカは学園長の仕事があるからダメかぁ~。でも大丈夫、お母さんがちゃんと応援に行ってあげるからね!」

 マーヤさんはそう言ってお弁当も作ってあげなきゃとか嬉しそうにしている。

「そうですか、リルとルラも『大魔導士杯』に出ますか。これは面白い、我が家の娘二人が参加となると是非とも良い成績を残してもらわななければなりませんね。よろしい、明日から朝稽古は更に気合を入れてやりましょう!」

「はいっ!?」

 学園長のその言葉に私はつまみあげたがんもどきを思わず小鉢に落としてしまった。
 ただでさえ厳しい学園長の朝稽古が更に厳しくなる?

「い、いえ、学園長今回はヤリスとアニシス様の付き合いなんで私たちは……」

「何を言うのですか、我が家の娘が失態を繰り広げるようではいけません。良いですかリル、学園長と言う立場上表立って応援は出来ませんが不備の無いように鍛え上げる事は出来ます。しっかりと稽古に励むのですよ! マーヤ、お弁当にとんかつを入れるのを忘れないようにしてください!!」

 何故そこで学園長が盛り上がる?
 縁かつぎで「とんかつ」とか何ベタな事言ってるんですか!?


「わーい、とんかつ入りのお弁当だぁ~、ありがとうユカ父さん、大好きぃ~」

「ル、ルラ、ユカ母さんでも良いのですよ/////」

「あらあらあら~、ユカったらルラに好きって言われて顔がにやけてますよ? もう、本当に娘たちには甘いんだから」

「いやいや、朝稽古さらに厳しくなってるんですけど……」



 やる気のある人に何を言ってもだめだと言う事を私はもう一度まざまざと思い出すのだった。 
 
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