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第十五章:動く世界
15-23リルの心の傷
しおりを挟むその声は正しく私の耳元にいきなり聞こえて来た。
「なっ!?」
「さあ、来なさいリル!」
がちゃん!
「くっ! アリーリヤ!!!!」
イリカに集中していたせいか、私はアリーリヤの存在に気付かなかった。
いや、「同調」している今なら分かる。
アリーリヤの身体の周りのマナはまるでその存在を隠すかのように揺らめいていた。
それが私の首に首輪をかける瞬間はっきりとアリーリヤの姿が見えた。
「こんなモノ! 首輪を『消しさぁ』……」
ばちっ!
ばちばちばちっ!!
「かはっ!」
スキルでこの首輪を消し去ろうとしたその瞬間首輪に電撃が流れた。
私は一瞬で意識を失うのだった。
* * * * *
「リル、リル起きて」
私はその声に気がつき目覚める。
えーとなんだったっけ?
いや、ここはエルフの村の私たちの部屋。
えっと、なんだったっけ?
「リル、トランが来てるわよ? せっかく彼が来てくれているのにまだ寝てるだなんて、何時まで経っても子供ね」
そう言って私を起こすのはエルフのレミン母さん。
ちょっと頭がぼうっとするけど、私は目を見開く。
すると私と全く同じ顔の双子の妹ルラがレミン母さんの後ろからひょいっと顔を出しニヤニヤする。
「えへへへっ~お姉ちゃんトランさん来てるよ? 今日はデートなんでしょ? それで、いつ結婚式上げるの??」
ルラを見るとシャルさんとなじくらいに大人になっている。
あれ?
なんでルラがあんなに大人の姿に?
それにトランさんがデートって……
起き上がって体の異変に気付く。
胸が重い?
いや、これは……
「あ、あれ?」
もにゅ
思わず自分で自分の胸を揉んで驚く。
だって、小さいけど確実に揺れるくらいの大きさはある。
生前の私より若干大きいか?
「朝から何やってるの? まさかもうトランとは///////」
レミン母さんがそんな私を見ながらニヤニヤして口元に手を当てる。
そして「孫の顔もすぐ見れそうね」とか言ってる。
私は慌てて起き上がりながらそんな事は無いとか慌てふためくが、レミン母さんとルラはニヤニヤしながらコソコソ話している。
「わ、私とトランさんはそんな淫らな関係じゃありません! プラトニックです!!」
「まあ、お父さんもお姉ちゃんとトランさんが結婚する事認めたし、シャルさんなんかすっごっくうらやましがってたよ~。あ~あ、お姉ちゃんをトランさんい取られちゃったけど、お姉ちゃんが幸せそうだからいいかぁ~」
そういってルラはくるりとこちらを向く。
私そっくりなルラは相変わらず髪の毛を一束の三つ編みにしている。
こうして髪型を変えないと他の人にはどっちがどっちだか分からないらしいけど、いたずらでトランさんに髪を降ろした私とルラで抱き着いたらちゃんとどっちが私か分かっていてくれた。
その時は本気で嬉しかったけど、考えてみればルラの方が胸が大きいから抱き着かれたら気付くかな?
「とにかく早く起きなさい。トランが待ってるわよ?」
「そ、そうだ! 急がなきゃ!!」
私は慌てて支度をして玄関で待っているトランさんのもとへ行くのだった。
* * *
「きょ、今日は少し遠くへ行きませんか?」
「ん? いいよ、何処へ行く?」
トランさんと並んで村を歩いている。
東の泉を抜けた所に森が小さく開けた場所がある。
そこには珍しい花なんかが咲いていて、結婚式なんかでその花で花嫁の花輪の冠を作ったりする。
私はもうじきトランさんと結婚するけど、自分がかぶる花輪の花を選びたかった。
「あと数ヶ月でリルと結婚かぁ。本当に僕のお嫁さんになってくれたんだね?」
「うふふふふ、千年も待たせちゃってごめんなさい。でもこれでやっとトランさんの奥さんに成れる。私、毎日トランさんの為に美味しいご飯作りますね!」
そんな話をしながら泉を過ぎ、もうじきお花が咲いている場所に着く。
「さてと、どの花が良いかなぁ~?」
言いながらそこを見ると、一匹のイノシシがお花を荒らしていた。
「あっ! お花が!!」
「イノシシが花を荒らしているね? どうしよう??」
「任せてください! あんなイノシシ私のスキルでさっさと退治しちゃいますよ! 足元の地面を『消し去る』!」
私がチートスキル「消し去る」をすると花畑を荒らしていたイノシシの足元の地面が無くなって深い落とし穴になる。
イノシシはその深い穴に落ちて這い上がれなくなる。
「殺しちゃ可哀そうだから後で捕まえて森に返してあげましょう」
「でもまたここへきて悪さするかもしれないよ? それに今倒しておけば村のみんなの食料にもなるよ?」
「うーん、でも……」
村で出回っている肉類は狩人のジッタさんが必要最低限取って来るからそれで十分だし、なんか穴の下でこちらを見ているイノシシをこのまま殺しちゃうのは可愛そうに感じる。
いや、なんかこのイノシシどこかで見た事あるような……
「でもリルは僕のお嫁さんになってくれるんだから僕のお願いを聞いてよ?」
「え? と、トランさん……」
トランさんはそう言って私をグイッと抱き寄せる。
思わずドキリとするけど、何だろうこの違和感。
いや、私たちはもう大人なんだし、もうすぐ結婚するのだから……
そんな気持ちが心の中でせめぎ合っているけど、何故か何かがもの凄く引っかかっている。
いや、本当にこんな幸せな状態があっていいのだろうか?
そう私が悩んでいるとトランさんは更にぐいっと私を引き寄せて顔を近づけて来る。
あ、キスされちゃう。
でもキスなら良いかな?
そう私が思った瞬間だった。
『お姉ちゃん!!』
どこからとなくルラの声が聞こえる。
それは不思議と頭の中に直接響く声。
「え? ル、ルラ??」
思わずトランさんから顔を離し周りを見る。
すると壊れた宿舎や逃げ惑う生徒が見える。
「お姉ちゃん!」
ルラのその声は今度はもっとはっきりと耳に聞き取れた。
驚きもう一度トランさんを見ると私を抱きかかえるアリーリヤがそこにいた。
「ちっ、気が付いたのね? あのまま私のモノになっていれば幸せな世界でずっと夢を見れていたものを……」
「アリーリヤ! よくもトランさんを使って、くはっ!!」
「しかしもう遅いわ。『従属の首輪』、これをはめられた者は主人の言う事には逆らえないわ! さあ、とっととそいつを消し去って始末しちゃいなさいよ!!」
アリーリヤはそう言って足元にいつの間にかできた穴を見る。
私もそれをちらりと見るとその底にヤリスが倒れてこちらを見上げていた。
「ヤリス!」
私の悲鳴が上がるのだった。
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