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第十六章:破滅の妖精たち
16-17女神の村
しおりを挟む私はアリーリヤ事静香を転生させてくれると言うジルの村に行って見たいとお願いをする。
「リル、ルラ……今来るのはちょっと大変よ?」
それを聞いたシェルさんはしかめっ面をしながらそう言う。
そしてその隣にいたコクさんも難しい顔をしてうんうんと頷いている。
「なに、まだ母さんの事でもめているの? エルハイミ母さんも話を聞く限り今回はあきらめた方が良いんじゃないの?」
「な、何を言いますのセキ! ティアナがやっと覚醒したと言うのにまた浮気していましたのよ!? しかも子供までですわ!!」
あきれ顔のセキさんがエルハイミさんにそう言うとエルハイミさんは怒って反論する。
正直それは女神っぽさの欠片も無い。
同世代の女の子と変わらないその怒りっぷりは、傍から見ていても普通の少女が怒っているそれだった。
「シェルさん、今ジルの村ってそんなに荒れているんですか?」
「荒れていると言うか、エルハイミが二年以上も滞在してくれるからみんな気を使って気疲れして参っているのよ。いい加減今回の事はあきらめればいいのに……」
「シェルまでですわぁ! だってティアナがやっと覚醒したと言うのにですわぁっ! そりゃぁ子供できちゃったのは仕方ないですけど、でもでも、ティアナなのですわよ!? 私と一緒にいなければダメなのですわぁっ!!」
「はぁ~、言い出したら聞かないんだから…… ま、そんな感じで来てもあまり相手できないわよ? それでもいいかしら?」
私の質問にシェルさんはため息つきながらわめくエルハイミさんをなだめ、確認をしてくる。
まあ、そっちはそっちの問題で私として見れば静香が転生する場所が今度こそ幸せになれる場所かどうか知りたいのだ。
私はシェルさんに頷く。
「はい、それでも構いません。静香が今度こそ幸せになれるかどうか知りたいのです」
シェルさんはそれを聞いて頷く。
「分かったわ、エルハイミこの二人を連れて行きましょう。エルフとしてこれから先長い人生になるだろうからジルの村を見せておくのもいいかもしれないわ」
「うぅ~、分かりましたわ。ジルの村に連れて行くこと自体は問題ありませんわ。ではリル、この二つの魂は一旦私があずかりますわ。そしてあなたが納得いけば輪廻転生システムに干渉してこの二つの魂は今後ジルの村に転生できるようにしますわ」
「はい、分かりました」
エルハイミさんのその言葉に私は頷くのだった。
* * *
「んじゃ、みんな元気でね。たまには遊びに来てね」
赤竜のセキさんはそう言って手を振ってくれる。
なんでもこの神殿から彼女は離れられないらしいのだ。
異空間とこっちの世界との間に挟まって、そして今回のようにジュメルとかの奇襲に対してこの神殿を守る為にここにとどまっているらしい。
「それではジルの村に飛びますわ。セキ、元気にですわ」
「うん、お母さんにもよろしく伝えてやってね」
セキさんにそう言われエルハイミさんは頷いてから手を振り目の前に真っ暗なあの空間を作り出す。
私とルラがイージム大陸に飛ばされたあの異空間を。
「今度はしっかりと手を繋いでね。離れるとまたどこかに飛ばされちゃうからね」
「それはもうごめんです。イージム大陸に飛ばされた時は本気で死ぬかと思いましたよ」
シェルさんにそう文句を言いながらしっかりとシェルさんの手を握る。
そして反対の手にはルラの手を握る。
「ではついて来てくださいですわ」
エルハイミさんはそう言って私たちを引っ張って暗闇の中に入って行くのだった。
* * *
「はい、着きましたわ」
言われて目の前がいきなり明るくなる。
そこは噴水のある広場のような場所だった。
村にしてはしっかりと石畳で建物も石造りの様で二階建て、三階建ての建物が多い。
作りもかなり精巧で、古い感じだけど立派な建物が多い。
ただ、村の奥には断崖絶壁の崖がそびえ立っていて、反対側を見るとやはり断崖絶壁の崖ようだ。
感じとしては孤立した断崖絶壁の中腹に村があるように感じる。
いや、この広場を見る限りどこかの街にさえ見える。
ただ、ここに居る住人は人族以外も多い。
「女神様! いきなりお姿を消されるのでどうしたのかと心配しました!!」
「おお、女神様がまた来られた。シェル様やコク様も」
「お、おい誰かナディアに連絡を! 今一番大切な時期なんだろ、お腹のお赤ちゃん!!」
「女神様がまた来た~っ!」
広場の人々はエルハイミさんの姿を確認するとわっと集まって来る。
「ちょっと、ティア……ナディアがどうしたって?」
シェルさんのその質問に奥からだいぶ年を取ったご老人がやって来た。
そして頭を下げながら答える。
「シェル様、コク様、女神様、どうかお慈悲をですじゃ。ティアナ姫事ナディアは先ほどから産気がありまして、今一番大事な時期ですのじゃ。どうか今は女神様のご慈悲をいただき、子が生まれるまでは彼女をそっとしてやって欲しいのですじゃ」
「ティアナがお産ですの!? あわわわわわ、どうしましょうですわシェル!」
「だから落ちつけっての。今はジルの村の連中に任せてやんなさいって。エルハイミが今ナディアの所に行っちゃったら大騒ぎになって死産にでもなったら一生恨まれるわよ?」
「そ、それは嫌ですわっ! ううぅ、分かりましたわ、神殿に行って大人しくしてますわ」
どうやらティアナ姫の転生者、確かナディアさんだっけ。
もうすぐ赤ちゃんが生まれるらしい。
だからいくらエルハイミさんでも今は大人しくするしかないみたい。
アワアワとするエルハイミさんを他所に私は村を見渡す。
すると先程のお爺さんが私たちに気付く。
「はて、初めて見る顔じゃが、女神様と共に来られたと言う事は客人ですかな?」
「あ、初めまして。私はリルって言います。こっちの子は双子の妹ルラです」
そのご老人に向かって私は挨拶をする。
「ルラだよ!」
ルラもペコンとお辞儀してニカっと笑う。
「この村の村長をやっておりますラディンです。して客人たちはどう言ったご用件で?」
「ああ、この子たちはこの村を見に来ただけよ。しばらくここに居るから面倒見てやってもらえる? 私たちはエルハイミについていて暴走しない様に見張っているから」
ラディン村長と挨拶をしていたらシェルさんがそう言ってくる。
ラディン村長は私たちとシェルさんを見比べてから頷いて「分かりました」と言って私たちを引っ張って行く。
「では客人、リル様とルラ様は一旦私の家にお越しくだされ」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「はーい」
ラディン村長に連れられて私たちはこの場を離れるのだった。
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