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第三章決戦
第十七話:皇帝ロメル
しおりを挟む「炎が消えてしばらくしてからランベルが倒れたか。呪いの類であれば何らかの媒介か己の身体一部が入手されていなければ呪いがかけられないはず。これは毒か何かか?」
その声は勝鬨の中でも何故か鮮明にアザリスタの耳に届いた。
敗走するキアマート帝国の向こうから小柄な人物が自分の背丈より大きな大剣を背負い逃げ行く兵士たちの間から悠然と歩いてくる。
それは倒れたランベル将軍から少し距離を取り、背中の剣を手に取り一気に横に薙ぎ払う。
ぶんっ!
ごわっ!!
まるで突風が吹いたかのようにその場の空気が動いて、消えかかっていた周りの炎がまた盛んに燃え上がる。
その様子を見て彼はニヤリと笑う。
「やはり毒か何かの類か。この場の空気を動かせば炎がまた燃え盛るとは、一体どんな毒を使ったかは分からんが見事なものだ、貴様が魔女アザリスタか?」
そう言って彼、皇帝ロメルは城壁を見上げる。
『なんだありゃ? あんなガキが剣の一振りで二酸化炭素を薙ぎ払っただと?』
「あ、あれは……」
いち早く二酸化炭素がその場に充満しているのを見抜いた彼は常識では考えられない方法でそれを薙ぎ払い、その場を元の状態に戻してしまった。
先ほど城内で発生していた二酸化炭素もそろそろ化学反応を終え、その濃度も薄まって来たので追加ですぐすぐ二酸化炭素のガスを充満させることは出来ない。
雷天馬は現れたたった一人の少年に注視する。
いや、その注視は何やら必要以上に集中力が高まっていて、まるで双眼鏡でも使っているかのように彼の顔がクローズアップして見える。
天馬は不思議に思う。
彼はこちらの世界に魂だけやって来て、アザリスタと言う女性に取り込まれている。
アザリスタが見る物、触って感じるものは自分にも同じく見られるし感じられる。
だが自分からアザリスタの身体を動かしてどうこうは出来ない。
あくまで彼女の中にいる傍観者となっている。
だが今、アザリスタの視力はまるで鷹の目のように彼の顔に注視している。
そして……
「どストライクですわ!! なんて美少年! まさに私の好みですわぁっ!!!!」
『はぁっ?』
雷天馬は思わず間抜けな声をあげてしまった。
なんでこっちの世界のアザリスタが「どストライク」などと言う言葉を知っているとかも気にはなったが、それよりどう考えても尋常じゃないその少年に何言ってんだこの女とか思ってしまった。
『あの、アザリスタさん?』
「んもうぅ~っ! 誰ですのあの美少年は! ああぁ、理想の美少年ですわ! 年の頃十一、二歳くらいの筋肉も何も隆起する前の柔らかい線を残しながらも徐々に男らしくなり始めるその成り。声変わりする前の軽やかな小鳥のような声。まだまだ線の細いその顔つき。やや強気のそのまなざしもそそりますあわぁっ、はぁはぁ!」
アザリスタはそのちょっとイケナイ性癖をもろに出していた。
幸い周りには誰もいない。
はぁはぁ言いながら、よだれを垂らして上気して猛禽類のような目をした彼女を見たら多分ほとんどの者がドン引きするだろう。
なんか「ぐへへへへへぇ」とか笑っているその笑顔もいつもの凛々しさの欠片も無い。
「貴様、皇帝ロメル!!」
しかしアザリスタのそんな様子を無視して同じく城壁の上に立っていた魔法騎士団副団長ルルシアは声をあげる。
「ほう、あの時の魔法騎士か。貴様がこの中で一番強いのか?」
「皇帝ロメル! 今すぐそこへ行ってロゾット殿の無念晴らしてくれるわ!」
そう言いながらルルシアは城壁から飛び降り浮遊魔法でふわりと地面に降り立つ。
そして剣を引き抜き小柄な皇帝ロメルに対峙する。
「陛下っ!!」
しかしそんな皇帝ロメルの後ろから漆黒の髪の色をした体のラインがはっきりと出ている極上の美女が叫ぶ。
「ラメリヤか、邪魔をするではない」
「しかし陛下、そのような淫魔相手に陛下が! それに奴等の呪いはソームでも分からないモノ、御身に何か有れば!!」
びくびくとしながらも彼女はそう声を張り上げる。
これだけの大軍を退け、ランベル将軍でさえどう言った方法かは分からないが倒されてしまえば、誰だって恐怖におののく。
しかし皇帝ロメルの身を案じ最前線にまで出てきたその忠義は見上げたものだ。
「我の楽しみの邪魔をするではない。我がキアマート帝国を退けたのだ、これほど愉快な事は無い」
「い、淫魔だとぉっ!? 無礼な、私は栄えあるレベリオ王国が魔法騎士団、副団長のルルシアだっ!」
怒りに赤くなりそう声をあげるルルシアだったが、誰が見てもその姿は悩殺的なモノだった。
ぜい肉の全くない引き締まった健康的な身体に女性としての特徴もしっかりと出ているそれを布面積の少なめのビキニで包み込んでいる。
そして手足にだけはしっかりと甲冑の一部を取り付けているその様は正しく「くっころ」の女騎士そのもの。
アザリスタほどではないがその大きな胸も動けばしっかりと揺れているので男性諸君の希望が詰まっているとしか思えない。
「くははははははっ、淫魔か、確かにその姿では男を惑わすに十分だな。とすると、海の悪魔も貴様らがその正体か? やってくれる」
だが皇帝ロメルは今までの腑に落ちない問題が一気につながったかのように納得をして頷く。
「炎の岩も【隕石召喚】メテオストライクでは無かった。魔物どもを苦しめているアレも呪いではなく略奪した物に毒でも含ませたか? まったく、こざかしい事をしてくれる。だが結局は力よ、貴様らの首この我が直々に取ってくれるわ!!」
そう言った途端皇帝ロメルは一気にルルシアの前にまで飛び込んでいた。
それはほんの一瞬。
しかしルルシアも憤怒はしていながらもなんとかその一撃を受け止める。
ガキーンっ!
「ほう、この一撃を止めたか? 防御と同時に強化魔法も使っているのか? これは楽しめそうだ!!」
そう言って皇帝ロメルはその小柄な体の何処にそれ程の力があるのかと言う程の素早い動きでルルシアに剣を振る。
ルルシアも決して弱くはないが、そのあまりにも早い攻撃に防戦の一方となってしまう。
『お、おいあの姉ちゃんヤバいんじゃないか?』
それを城壁の上から見ていた雷天馬は思わずそう言ってしまう。
剣の素人の彼でさえその劣勢は見て取れる。
「もうたまりませんわ!」
アザリスタはそう言って自分も城壁から飛び降りる。
『おわぁっ! 御落ちる!!』
「【浮遊魔法】!」
しかしアザリスタは早口で呪文を唱え【浮遊魔法】でふわりと地面に降り立つ。
「あれが皇帝ロメル、あの少年を捕らえればあーんな事やこーんな事を情報徴収で出来ますわ! 勿論情報徴収はこの私がしますわぁっ!!
はぁはぁと発情でもしているかのようなアザリスタは劣勢になっているルルシアに魔法をかける。
それは流石に魔法学園を首席で卒業したほどだ。
途端にルルシアの防御力は上がり、攻撃力も上がる。
「強化魔法に更に身体能力向上魔法ですわ!」
「感謝します、アザリスタ様! はぁっ!」
がんっ!
ルルシアは打ち込まれたロメルの剣を強引にはじき返すと、体重の軽いロメルごと吹き飛ばす。
これには流石に皇帝ロメルも受け身を取りながら地面に着地する。
ずざざざざぁざぁぁぁぁ
「ほう、更に強化魔法か。面白い。この我を弾き飛ばした者は久しいぞ」
「陛下っ!! くうぅ、陛下に何と言う事を、この痴女どもめがっ!!」
皇帝ロメルが弾き飛ばされラメリヤはそう彼女らを罵倒する。
しかしそれを聞いたルルシアは顔を真っ赤にして言い返す。
「だ、誰が痴女だ! この恰好は神聖なる神の御加護を得る為のモノ、これにより海の悪魔でさえ我らに呪いをかける事すら出来ないのだぞ!!」
そう言ってルルシアは自分の胸の先端と股間に刺繍されれている正教会のエンブレムを指さす。
指さすそのエンブレムの場所をもう一度見てアメリヤは言う。
「どう考えてもただの痴女よ。正教会のエンブレム? それこそそんな卑猥な場所にエンブレム張り付ける方が罰当たりよ!!」
「なっ///////」
言われてルルシアは顔を真っ赤にする。
今更ながらだが、ビキニの胸の先端と股間の大事な場所にエンブレムが刺繍されている事を意識してしまい、ルルシアは思わず手でそれを隠しその場にしゃがみこんでしまった。
「甘いな、敵を前に羞恥心ですくむとは」
「えっ?」
しかしそんなルルシアにいつの間にか皇帝ロメルは目の前にまで来ていて大剣を大きく振りかぶっていた。
そしてその大剣が振り下ろされる瞬間、アザリスタが叫ぶ。
「【地槍】アーススパイクっ!!」
ずばっ!
がつっ!!
「くっ!」
間一髪振り下ろされる大剣とルルシアの間に地面が盛り上がり鋭いキリのようなトゲが伸びて皇帝ロメルを襲う。
しかし皇帝ロメルはそれを剣で防ぎながら大きく飛び退く。
「魔法がこうも強力とはな」
「おーっほっほっほっほっほっ、我がレベリオ王国は魔法を単なる補佐とは考えていませんわ。魔法は使い方によっては十分に武器になる。魔法研究はそん所そこらの国とは一味違うのですわ! それより皇帝ロメル、大人しく私に捕まってあーんな事やこーんな事をお姉さんとしましょうですわ、はぁはぁ!!」
そう言って赤い顔の興奮したアザリスタはよだれを拭き取る。
いや、魔法で皇帝ロメルの隙をついたとはいえ退けるのは凄いのだがそのすごさと態度が釣り合っていない。
「魔法が武器になるだと? 戦いは力こそが全てよ!」
そう皇帝ロメルが剣を振って言うとラメリヤも口を挟んでくる。
「へ、陛下になんて事を! この淫乱魔女が!! 陛下の操はこの私が守ります! 何と言う破廉恥、まだ生えてもいない陛下に何と言う暴言!!」
「本当に生えていないのですの!? 更にどストライーックっ!!!!」
『いや、あんた姫さんなんだからそう言うのは口に出しちゃだめだろうに……』
思わず雷天馬も口を挟んでしまう低落。
しかしこれに更に反応している人物がいた。
「ラ、ラメリヤ貴様何故我のその秘密を知っておる!? 何時覗き見たぁ!!」
「あ、これはその、陛下の沐浴の警護をするのも私の務め故に。何ならそのままベッドの上でもお守りいたしますが、ぽっ♡」
思わずもじもじとするラメリヤ。
なんかそこだけ空気がピンクっぽい。
「貴様等、我を何だと思っているのだ~」
わなわなとこぶしを握り締め頭におこマークを張り付ける皇帝ロメル。
しかしそんな仕草は彼の外見も相まって何となく可愛らしい。
と、怒りに皇帝ロメルはもう一度あの大剣を振り上げたその瞬間だった。
どがごぉおおおおおおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉんッっ!!!!
いきなりキアマート軍本陣がいた場所に大きな爆発が起こる。
それは地面をえぐり近くにいた兵士や魔物たちを宙に巻き上げる。
「何っ!?」
「おーっほっほっほっほっほっほっ! どうやらやっと重いその腰を上げてくれたようですわね?」
アザリスタは仁王立ちになり腰に手を当て大きなその胸を揺らしながら笑う。
そんな彼女が笑う中、もう一度それは起こる。
天空から真っ赤に燃えた岩が高速でキアマート帝国軍の方へ落ちて来る。
それは正しく本物の【隕石召喚】メテオストライクである。
その破壊力はすさまじく、一撃で城を破壊すると言われている。
そんな物が軍のど真ん中に落ちれば一気に数千の兵が吹き飛ばされる事になる。
下手をすれば被害はさらに拡大する。
「【隕石召喚】だと? それを使えるのは大賢者のみのはず。一体何をしたアザリスタ!?」
「おーっほっほっほっほっ、これは正真正銘大賢者ヲン様のメテオストライクですわ! やっと我が方の呼びかけに動いてくれましたわ!!」
それを聞いて皇帝ロメルはもう一度自軍の方を見る。
そこにはもうもうと煙と炎を上げた破壊しつくされたキアマート帝国の軍隊があった。
「おのれ、アザリスタ…… ラメリヤ引くぞ!!」
皇帝ロメルはそう言って踵を返す。
それに慌ててラメリヤもついて行き遠ざかって行く。
「貴様!」
「おやめなさい、ルルシアですわ」
遠のく皇帝ロメルを追おうとするルルシアをアザリスタは止める。
それに何かを言おうとしたルルシアは膝を地面について肩で息をする。
「いくら貴女でも二重にかけられた強化魔法で身体が悲鳴を上げていますわ。万全でない状態であの皇帝ロメルには勝てませんわ。今は私たちも引きましょうですわ」
そう言ってルルシアに手を差し伸べて立ち上がりカーム王国の西の町の城門へと戻っていくのだった。
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