114 / 150
第四章:転移先で
4-10:山道
しおりを挟む「ちょっと待とうかみんなぁーっ!!」
私は思わずそう叫んでしまった。
それもそのはず、険しい山とは聞いていたけど、なにこれ!?
「こらこら君、気を許すと足元踏み外すわよ?」
エルさんはそう言ってすたすたと前を進む。
「アルム様、お辛いようでしたら私がアルム様をおんぶしましょうか?」
「いや、おんぶってこの状況でどうしろと!?」
山道に入って数時間、だんだん険しくなってきて二足歩行が難しくなってきた頃、岩ばかりの断崖絶壁になってきた。
流石に他のルートでもあるだろうと思っていたら、先頭のエルさんはすたすたと先に進んで行く。
そして数分前から崖の壁に張り付くような場所を歩き始め、とうとう足場が幅十五センチくらいしかないような道を進み始めた。
問題は誰一人として気にせず進んでいることだ。
下を見れば数百メートルはあるだろう。
森の木々が小さく見える。
「これ本当に道合ってるの!?」
「エル殿にしては珍しく合ってます。先ほど地図を確認しましたが、このルートで間違いないようです」
後ろにいるマリーがそう答える。
壁際の岩をつかみ、足を踏み外さないように注意しながら歩くけど、前を行くエルさんはすたすたとどんどん前に行く。
「アルム~、遅いニャ。早く先に行くニャ」
「いや、これ無理ぃっ! なんでみんなは平然としてるんだよ!?」
私がそう叫ぶと、カルミナさんは不思議そうにする。
「このくらい普通にゃんだけどニャ?」
「それどこの普通ッ!?」
「ジマの国にいた時はよく鍛錬で崖から落とされたものです」
いや絶対に違うってぇッ!
そう私が思った瞬間だった。
ボコッ!
「あ”っ!?」
足元が崩れた?
私はそのままバランスを崩し、崖の下へ落ちる。
「う、うわぁあああああぁぁぁぁっ!!」
「アルム様っ!?」
「アルムニャッ!」
「我が主よ!!」
しまった、落ちる!
そう思った瞬間だった。
「危なっかしいわね、仕方ないからこのまま運んであげるわよ」
ふわっと体が浮いたかと思ったら、下から風が吹いてきて私は宙に浮いた状態になる。
そして声のした方を見ると、同じく空中にエルさんが浮いていた。
いや、同じく風に押されて宙にいたのだった。
「こ、これって?」
「風の精霊よ。まぁ全員はさすがに一度には運べないので君と私くらいなら大丈夫なんだけどね。ほかの人は問題ないみたいだから、あと数キロ先まで私がこの子を運ぶわ。みんなは問題ない?」
「ありがとうございます。こちらは問題ありません」
「あたしもニャ!」
「くーっくっくっくっくっ、我が主が無事でなにより。では貴女に我が主を運んでもらいましょうか」
どうやらほかのみんなは問題ないみたいだ。
なので私はエルさんに向かってお礼を言いながら運んでもらうこととする。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて運んでもらいます」
「うん、じゃぁとっとっと行こうか?」
そう言ってエルさんがふわっとなった瞬間私の体も引っ張られるかのようにいきなり高速で移動を始めた。
「うわっ、うわぁあああああぁぁぁぁぁっ!!」
ジェットコースター張りの移動に思わず叫んでしまうが、エルさんは気にもしないでそのまま一緒に移動を続ける。
視界の端ではマリーやアビス、カルミナさんが崖を走るかのよう追ってくる。
「みんな絶対に普通じゃなぁーいぃいいぃぃっ!!」
私だけそう叫ぶのだった。
* * *
「はぁはぁはぁ、死ぬかと思った……」
「何を弱気なこと言ってるのよ君は? この辺じゃこんなの普通よ?」
いや、これが普通じゃおかしいって。
突っ込み入れたいけど、まだ回復していないので心の中でだけ突っ込みを入れておく。
「ここから先は比較的歩きやすい場所よ?」
「はぁはぁはぁ、エ、エルさんってここ通ったことあるんですか?」
「う~ん、もう何十年も前だけどね。この辺もだいぶ変わったわ~」
まぁ、相手はハーフエルフだから見た目の年齢に対して実年齢は人族のそれに対してかなり違うだろう。
それなりに色々知っているみたいだから人族の世界も長いのかもしれない。
「そろそろ休憩ですね。この先はどうなっていますか?」
「うーん前は野盗とか出てたけど今はどうかしら?」
さらっと物騒なこと言うエルさん。
と言うか、こっちのルートってあまり人が通らないんじゃないの?
そんなところで野盗やってるって、実入りなんかあるのだろうか?
そう私が思っていると……
「ひゃっはぁーっ! こんなところに若いねーちゃんたちがいるぜ!」
「おいおい、別嬪さんぞろいじゃねーか? 後はガキとひょろいにーちゃんか? 女を置いてけば命だけは助けてやるぜ?」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ、俺はそのガキでもいいがなぁ♡」
はい、出ました野盗の皆さん!!
なんでこんなんところで出るのよ?
というか、最後の私の趣味じゃないからパス!
「へぇ~、まだこの辺って野盗が出るんだ。悪いやつはお仕置きしなきゃね!」
「へっ! お前ハーフエルフか!? 上玉だ、しっかりとしつけてから売り飛ばしてやるぜ!!」
岩山でも崖の部分は終わって、この辺は広場みたいになっていた。
なので野盗の皆さんが休んでいた私たちをすでに取り囲んでいる。
しっかし、こうもお約束通り出てくるとは!!
でも相手が悪い。
「操魔剣無手奥義、槌!!」
バンッ!
「ぐぼっ!?」
マリーが野盗の鎧の上から手をつくと、鎧に身を包んだはずの野党が血を吐いて倒れた。
「遅いニャ!」
バキッ!
あっちでは身体能力の差にモノを言わせたカルミナさんが野盗たちをぼこぼこに殴り飛ばしている。
「くーっくっくっくっくっ! 相手が悪かったようですね!」
バリバリバリバリ!!
「ぐわぁああああぁぁぁぁっっ!」
アビスはアビスで黒い雷を発生させて数人の野盗を一度に感電させる。
「な、何だこいつら? つえぇええぇ」
「ひ、ひるむな! 一度にかかれっ!」
「無駄なことを、大地の精霊よ、風の精霊よ!!」
ひるんだ野盗だけど、まとめてかかれば勝機があると踏んでかエルさんに数人がまとめてかかる。
しかし、地面が隆起してげんこつの形になって野盗を殴り飛ばし、風の刃が野盗たちを斬りつける。
「く、くそぉ! ひけっ、引くんだぁ!!」
「うわぁあああぁぁぁ」
「ひえええええぇぇっ!」
「ちくしょう―っ!」
完全に力の差を目の当たりにして、野盗のお頭みたいのが撤退の号令をかけた時だった。
「うわぁあああああぁぁぁぁっ!」
先に向こうに逃げた野盗が悲鳴を上げる。
いったい何があったのかそっちを見ると……
大きな黒い影が野盗を咥えていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる