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第四章:転移先で
4-11:魔物
しおりを挟む「うわぁあああああぁぁぁぁっ!」
先に向こうに逃げた野盗が悲鳴を上げる。
いったい何があったのかそっちを見ると……
大きな黒い影が野盗を咥えていたのだった。
「ロックバード!?」
エルさんはそれを見てそう叫ぶ。
その鳥はものすごく大きくて、野党の首根っこを咥えて宙ぶらりんにしている。
どうやら最近このルートに出現したという魔物はこいつらしい。
「厄介な相手ですね。飛び上がられたら対処ができません」
「まったくニャ。面倒な相手ニャ!!」
マリーとカルミナさんが手をパンパンとたたきほこりを払いながらこちらにやってくる。
その大きな鳥は野盗を咥えたままこちらをぎろりとこちらを見る。
それは咥えている獲物よりうまそうな獲物がいないかどうか確認するように。
ギロッ!
あっ。
目が合っちゃった。
それと同時に背筋にゾクッと悪寒が走る。
ロックバードは咥えていた野盗を放し、私の方を見て鳴き声をあげ飛び上がる。
『ぴぎゃぁあああああああぁぁぁぁっ!』
そして翼をはためかせて私にとびかかってくる。
「やっぱりぃッ!!」
そう思った瞬間だった。
バリバリバリっ!!
虚空を黒い稲妻が走ってロックバードを捕らえる。
『びぎゃぁああああぁぁぁぁ!?』
「くーっくっくっくっくっ、鳥風情が我が主に手を出そうなど万死に値します。おや?」
黒い稲妻はもちろんアビスだったが、ロックバードはしばらく体に雷をまとっていたがすぐにそれはかき消された。
「空を飛んでいる魔物には電撃はあまり効かないわ!! 風の精霊よ!!」
宙を舞う物体は雷が落ちてもほとんど影響がない。
それは電気が流れ出て行くところがないからだ。
一般的に電気に触れると感電死するというイメージはあるが、それは体の中を電気が通り抜ける時に起こる身体ダメージで、そのほとんどが電気ショックによる心臓停止が原因だ。
しかし空中では電気に触れても体内にその電気が停滞するだけで少しビリっとくるくらいだ。
地面に足をついていてその電気が体から抜け出る時に初めて電極による抵抗が発生して感電死が起こる。
なので宙を舞う鳥たちには落雷による被害はほとんどない。
エルさんが呼び出した風の精霊はすぐさまロックバードをその風の刃で切り刻もうとするも、大きく羽ばたきをされて風自体が乱されてその刃が届かない。
「くぅっ! ロックバードのくせに生意気!」
エルさんがそう叫ぶと、ロックバードは続けて羽をはばたかせ突風を発生させる。
ばさっ、ばさっ!
びゅうぅうううぅぅぅっ!!
「くっ!」
いくら足場があるここでも流石に台風並みの風に身動きが取れなくなる。
そしてその突風の中、気が付けばロックバードの爪が私のすぐ眼前まで迫っていた。
「アルム様ッ!!」
「うわぁッ!!!!」
突風の中マリーが叫ぶも、その爪は確実に私を捕らえた。
と思った瞬間、目の前に見えない壁が現れ火花を散らしてその爪を防ぐ!?
がぎぃいいぃん!
「よく持たせたわね! 大地の精霊よ、その槍で我が敵を射抜けッ!!」
エルさんの声が響き、地面すれすれのロックバードの下から岩のとげが無数に飛び出る。
それはロックバードに何本か突き刺さったものの、ロックバードはあわてて宙高く飛び上がる。
「アルム様、ご無事で!?」
「え、あ、ああぁ、なんか助かったみたい……」
「君、やっぱり無詠唱魔法使えるじゃん! 注意して、あいつまだあきらめてないみたいよ!!」
とっさに何が起こったかかわからないけど、エルさんの話だと私は魔法を使ったらしい。
前の時もそうだけど、自分ではそんなことをしたつもりはないんだけど……
ただ、危ない何とかしなきゃと思ったらそうなっただけで……
「来ます、アルム様は下がってください!」
「地面まで来たにゃらこっちのモノニャ!」
「くーっくっくっくっくっ、今度は逃がしませんん!」
しかし迫りくるロックバードにみんなは私をかばうように前に出る。
そして目前でいきなり宙で停滞してまた翼をはためかせる。
ばさっ、ばさっ!!
「同じ手が通用すると思うな! 操魔剣なぎなた奥義、裂空斬!!」
だがマリーはなぎなたの一番端を持ち大きく振りかぶると周りの空気を切り裂くように襲い来る風を切り裂く。
多分大きく振ることによりなぎなたの先端はマッハを超えたのだろう、すごい轟音と共に白く空気の壁が裂けてロックバードに迫る。
斬っ!!
『びぎゃぁアアアァァッ!』
その一撃はロックバードの片羽を捕らえ、見事に切断する。
「マリーよくやったニャ! このにゃろニャっ!!」
バランスを崩しロックバードが地面に激突する。
そこへカルミナさんが爪を伸ばしとびかかる。
「焼き鳥にしてやるニャ!」
「くーっくっくっくっく、まだ暴れますか? ならば!!」
とびかかるカルミナさんをのけ払おうと暴れるロックバード。
それを見たアビスは両手をロックバードに向けると、地面に魔法陣が浮かび上がりそこから悪魔が数体出てきた。
ヤギの頭や牛の頭、角の生えた馬の頭を持って上半身屈強な男性の裸で、下半身はみんな剛毛で牛だかヤギだかの足を持ち、みんな背中に蝙蝠の羽と悪魔のしっぽを持っている。
体長三メートル近くある巨体が一斉にロックバードに襲い掛かり取り押さえるように群がる。
「アルム様に手を上げたことを後悔するがいい!! 操魔剣なぎなた奥義、疾風!!」
どンッ!
どッゴーッん!!
カルミナさんの攻撃やアビスが呼び出した悪魔に取り押さえられたロックバードは、その首元にマリーの一撃を受けて動かなくなった。
「へぇ~、あんたたち結構強かったのね?」
倒したロックバードの様子を見ながらエルさんが私の隣まで来た。
そしてにっこりと笑って言う。
「君たちのおかげでこのルートの魔物は排除で来たわね。これでここを通る人たちも魔物に襲われなくて済みそうね」
「いや、魔物いなくなっても野盗とかいますし。と言うかそもそもこんな所を人が通るんですか?」
私がそう言ってエルさんは初めて気づいたように周りを見る。
「しまった! あいつら逃がしちゃった!!」
「あの程度の雑魚、放っておいても大丈夫でしょう」
エルさんが周りをきょろきょろと野盗を探しているのをマリーがそう言いながらやってくる。
そしてなぎなたを振って血のりを払う。
「アルム様、お怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫。でもみんなすごいね、やっぱり強いよ」
正直私の知っている常識と違いこの人たちは化け物じみた強さを誇っている。
はっきり言って異常だ。
でもそのおかげでこうして難なく魔物も倒せるのだから、結果としてはいいのだけど。
「くっそぉ~、正義の鉄拳をお見舞いする前に逃げられた!」
エルさんはまだそう言って地団太を踏んでいる。
私はそれを見ながら思う、こんな迷惑な正義の味方は嫌だなと。
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