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第四章:転移先で
4-12:ミハイン王国
しおりを挟む険しい山や盗賊の皆さん、そして魔物なんかも登場して記憶をなくした私の旅は続く。
「これで終わりですか?」
「そうね、まぁ殺しちゃうのはかわいそうだから身ぐるみはがして縄で縛ってここで放置ね」
エルさんはそう言って野盗の皆さんの衣服を引っぺがす。
「うわぁああぁあぁぁぁっ、やめろぉ!!」
「うるさい、今までさんざん他の人に同じようなことしてきたんだから、その苦痛をとくと味わうといいわ!」
なんかやっていることが野盗さんと同じような……
エルさんはこうして野盗さんの所持品とお金になりそうなものだけ取って、縛り上げてパンツ一丁の野盗さんたちをその場に放置する。
「こちらも終わりました。こいつらろくなもの持っていませんでしたね」
「食い物もろくなものないニャぁ~」
あっちではマリーとカルミナさんも同じように野盗の皆さんを身ぐるみはがし、金目の物を奪い取る。
本当にいいのかこれで?
「あの、これでいいんですか?」
「何言ってるのよ、悪党に人権はないって有名な名言知らないの?」
「まぁ、襲ってきたのはあちらですし」
「負けたら身ぐるみはがされるのは常識ニャ!」
私の質問にみんな平然とそう答える。
もしかして私が転生してきたこの世界ってものすごくバイオレンス?
「さて、とは言えこの峠を越えればもうじきミハイン王国よ。この辺の野盗も一掃したから当分このルートは安全になるわね」
「このルートって本当に人の往来あるんですか?」
途中に小さな村が一つあったが、それ以外は正直人の往来が盛んな場所とは思えない。
イージム大陸のように魔獣がたくさんいるわけではないけど、野盗はたまに出てくる。
こんな人通りの少ない場所なのに。
「そういえばミハイン王国ってどんなところなんでしたっけ?」
知識の中ではウェージム大陸の西にある小さな港町が中心となった小さな国と記憶している。
海産物が特産物くらいで、イージム大陸とウェージム大陸の間の大海と違い魔獣の生息が少ない。
「そうねぇ、特に特徴がないって感じかしら? 唯一違うのはうちのシーナ商会の本店があるってことかしらね?」
「エルさんってそのシーナ商会の人なんですか?」
「うーん、まぁそうとも言えるかな? ママがその商会の重役らしいからね。私は小さなころからそこで育ったから、家みたいなもんなんだけどね~」
そう言って上目づかいで思い出しながら言っている。
エルさんはハーフエルフだ。
エルフと人族は子供ができる。
なぜかほかの種族、ドワーフとか草原の民、リザードマンなんかとはできない。
ただ、ハーフエルフはエルフ族からも人族からもあまり歓迎されない。
ハーフと言われるように中途半端だからだ。
エルフという存在はこの世界では女神によって精霊と樹木から生み出されたと言われている。
美形で容姿端麗、笹のようなとがった耳を持ち、きゃしゃな体つきだが魔力総量は人のそれをはるかに超え、最大の特徴が寿命がほとんどないのではないかと言われるくらいに長寿であるところ。
中にはゆうに一万歳を超えると言う長老も存在するらしい。
そんな長寿とこの世界で一番多い人族間に生まれるハーフエルフの寿命はエルフの半分と言われている。
エルフにしては短命、人族にしては長寿すぎる存在。
だから双方の種族からはあまり歓迎はされていない。
ただ、ハーフエルフには有能は人材が多いともいわれている。
エルフと人族の特徴を受け継いでいるので、エルフよりは体が頑丈で人族よりは魔力が高い。
人族よりは長寿なので人の世界にいると知識をたくさん溜め込める為に博識な人が多いとか。
「シーナ商会の重役…… エル殿の母君はエルフの方ですか?」
「あら、知ってるの? そうよ、ママはエルフ。お母さんは人族だったのよね~」
「いや、母親が二人でってのがあれですが、お父さんは誰なんですか?」
「お父さん? いないわよ、いるのはママとお母さん♪」
マリーが何かに気づいてエルさんに質問するが、なんか話がかみ合わない。
まぁ、同性婚などと言うのは前世の世界でも議論されていたのだからこっちの世界でもあるのかもしれない。
しかし、エルさんの場合母親がエルフ族で父親が人族なのは確実なんだろうけど、母親の相方が女性となると訳ありの出生になるのかな??
「シーナ商会の重役でエルフ…… まさか……」
なんかマリーがぶつぶつ言っている?
「見えてきたわ! ミハイン王国よ! そしてあの海の近くにある町がベイベイの町よ!!」
考え事をしているマリーをよそに峠を越えたそこには海が見えた。
そしてその海に面したところに町がある。
「あれがミハイン王国なんだ……」
私たちはエルさんの故郷、ミハイン王国のベイベイの町に向かうのだった。
* * * * *
ミハイン王国ベイベイの町。
町に入って最初に気が付いたのは、小さな町なのにやたらと整然としていたことだった。
前世のヨーロッパのように町中はすべて道路が石畳で舗装され、建物もきれいに立ち並んでいる。
行きかう人々もなんというか余裕があるように見える人たちばかりで、結構裕福な感じがする。
「へぇ~、なんかきれいな町ですね?」
「でしょ! なにせこの町の治安はうちのシーナ商会が取り仕切っているからね、町の保全も何もうちのシーナ商会が協力しているからね!」
素直に感想を述べると、エルさんはまるで自分のことのようにその薄い胸を張って言う。
まぁ、確かに整然とした町並みにゴミ一つない町並みは清潔感を感じる。
しかしそのシーナ商会って……
「着いたわ! ここが私の家、シーナ商会本店よ!」
そう言ってエルさんが指さすのは大豪邸。
町のど真ん中に鉄の柵の壁で囲まれた大豪邸だった。
「やはり…… エル殿の母君はもしやあの『シェル』様なのでは?」
「あれ? 私のママ知ってるの?? そうよ、私のママはシェル、『女神の伴侶』と呼ばれたエルフのシェルよ!」
マリーのその言葉にエルさんは屋敷を背にそう言ってまたまた薄い胸を張って言うのだった。
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