反逆の銃口と、侵食の茨

遠月 詩葉

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潜入

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そんな、ちょっと特殊な経緯を持つアム。しかし彼は正直、晴れ晴れとした気分だった。
自覚こそしていなかったが、むしろ彼にとって、楽園そのものが強固な足枷だったからだ。
これでもう、自分の好きなものを好きなだけ生み出せる。そう思っていたのも束の間。

「お願いします…共に戦ってください!」

堕天させられた事に納得のいっていない者たち。力がないというだけで、荒廃した土地に放り出された人々。彼らは、どれだけかかっても神々に復讐を成し遂げると固い結束を見せていた。

(めんどくさ…。)

切り捨てるのは簡単。とはいえ、彼らは一致団結することで何とか生活を支えている。自分一人でこの先ずっと生きていけるのか。答えはノーである。
そんな利己的な考えから、協力することにした。

とはいえ、魔法を使えるアムにとって、髪色を錯覚させることくらい朝飯前だ。更に使い魔の黒猫と契約し、難なく楽園に潜入を果たす。
しかし、いくらアムでも、層を隔てる壁を騙すことは出来なかった。

(昇格する時に、同時に身体と魂も成長する。)

見た目だけ誤魔化したところで、壁に遮られるのでは意味が無い。数年かけて、やっと第三層に到達した。第四層は、ここから更に2年待たなければいけない。
その間、仲間に引き入れられそうな人材を同時に探す。そんな、いつ終わるかも知れない長期的な算段で、彼らは動いていた。

「今まで、まともな奴らなんていなかった。どれだけ有望株でも、黒色を目にするだけで血相を変える。そんなクズたちばかりだったじゃないか。」

尚も反対する黒ローブの男を、無感情に見つめる。

「そうだね。ひとまずタコを紛れ込ませて様子を見たりしてきたけど。皆揃って、すぐ殺そうとしてきた。」

なんなら、試験用に何度も連れ去られたりもしていた。しかしタコは使い魔。実体のある分身をつくったり、透明になって逃亡することも出来る。有能すぎる相棒だ。

「でもさ、信じられないもの見ちゃったんだよね。」
「…信じられないもの?」

タコには高い知能も、自我もある。ゆえに普段は自由にさせていた。たまに待ち合わせて、記憶や視覚を共有すれば、入手出来る情報も2倍である。
ーーあの日も、情報を得るためにタコに会いに行った。

「ビックリしたよ。あのタコが、嬉しそうにパンを食べてたんだ。」

本来使い魔は、食事の必要がない。ただ娯楽として食べるのは自由だ。
もちろん、毎日エサをやる余裕などない。にも関わらず、記憶を覗いて心底驚いた。あげた記憶のない、鮮烈なパンの味が脳内を駆け巡る。喜びに溢れたタコの感情とともに。

「それで興味が湧いて…様子を見てたんだ。」

見つからないように、透明化の魔法をかけて。
少女は気付くことなく、猫と戯れていた。愛しい存在を目に焼きつけるような、優しい穏やかな眼差し。ふわふわと、黒い毛並みを撫でる手。

『…なんで、お前はご飯がないんだい?』

気が付いた時には、彼女の前に姿を現していた。
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