有り触れた悲劇に終止符を 1

遠月 詩葉

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8.ろくな奴じゃない

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ーー場面は戻り現在。サキはトボトボと道端を歩いていた。

(最初に来た時は、あのボンボンはまだ王太子だったのに。)

巡礼の旅に出る直前、顔を合わせたことがある。その時からまぁ、失礼極まりない奴だった。

『本当にお前は女なのか?』
『これ!アレクトル!…失礼した。聖女殿、巡礼の方、よろしく頼んだぞ。』
『…失礼しました。この世界の女性は皆、小さく可憐な存在なので…。』
『ハハハ…。』

絶対失礼と思っていない発言。しかしツッコんでも仕方ないので、早々に視線をズラし、サキは当時の国王と約束を交わしていた。

『あの、国王陛下。一つお願いがあります。』
『なんだ?』
『私が使命を全うした暁には、当面の生活を保障してほしいのです。昨日も少し触れましたが、私の世界にはそう言った制度も組み込まれておりまして…。』
『ふむ…了解した。詳しい話は帰ってきてから詰めるとしよう。』

そう。サキはキッチリちゃっかりと、約束を取り付けておいたのだ。
後日、詳細を決めるとのことで懸念材料ではあったが、保障する事自体は公衆の面前で約束したのだから、最低限は守ってくれるものとタカをくくっていた。
その結果が、このザマである。

「よりによって、帰ってくるひと月前に世代交代していたなんて…。」

とうの元国王は、さっさと離宮に入り隠居生活を満喫しているらしい。サキのアレコレは丸投げして。

「…うん、クヨクヨし続けても始まらないよね。私は大丈夫、大丈夫…。」

父親から離れるために、自らの手で道を切り開いてきたのだ。今回だって、根性さえあれば何とかなるはず。そう言い聞かせる。
楽観的だろうが、無理にでも前向きに考えないと今にも潰れそうだった。

「…ロキート君は、もう復帰したのかな…。」

旅の供として突如指名された彼は、宮廷魔術師としての仕事は休みの扱いになっていた。代わりにサキの同行者として働いていたので、もちろん給料は支払われている。

「はぁ…知ってる顔が恋しいよ…。」

そうだ。王城から追い出されたのであれば、もう彼とも会う機会はない。その事に、遅れて気がついた。

(せめて最後に、お別れの挨拶くらいは言いたかったな…。)

巡礼にしても、この世界の常識にしても、彼には数え切れないほど助けられた。
最初のニコニコ笑顔はなりを潜め、代わりにぶっきらぼうな態度と口調が顕になっていたが。
本来なら、平民には姓がないこと。特に貴族においては、家族や婚約者以外の名前を呼ぶのはマナー違反であること。水は煮沸したり浄化の魔術をかけなければ危険なこと。
他にも、本当にたくさんのことを教えてもらった。ほとんどが、日本で生きてきたサキには思いもよらないものだ。

(一人で旅に出てたら、本気でヤバかった…。)

それだけは分かる。命がいくつあっても足りない。あまりにも迷惑をかけ続けてきたために、感謝の品を何か渡そうと思っていたのだ。
しかし、悲しきかな。潤沢な旅の資金は専らロキートが管理していたし、サキにお給金が入ることもなかった。だから先程、新王となったアレクトルに直談判しに行った…のに。

「本当に無一文で放り出すとはね…。」

サキの財産といえば、身につけている服くらいだ。それ以外は本当に何も持っていない。

「ええい、ままよ!こうなったら、何がなんでも生に食らいついてやるから!」

死んだら、その時はその時。ずっとそう思って生きてきたサキだが、こんな結末はあまりにも悔しすぎるので、執念深く生きてやる事を決意した。その炎が消えないうちに、冒険者ギルドを目指して一歩を踏み出すーー。
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