予感めいた

竜泉寺成田

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並ばない

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列車を待っていた。
ふと周りを見渡すと、どういうわけか、私の周りにだけ人が並んでいない。
へんな偶然もあるものだなあ、とさほど気にも留めなかったが、時間が経つにつれて異常な事態が進行していることに気がついた。
時は夕方にして、丁度くたびれたサラリーマンたちの帰宅ラッシュにさしかかろうとしているが故、乗客らしき者たちは、少なくともこのホームには大勢いるというのに、私が作り上げた列(らしきもの)には誰1人として並んでいないのである。
徐々に不安が増していく。
最初は私が何か間違いを犯しているのではないかという不安から始まった。
例えば、場所に制限が設けられていて、わたしの立つこの場所は何かしらの通路になっているため並ぶことが禁止されている、だとか
ルールとしては存在せずとも、暗黙の了解で電車を降りる者たちへの通路を作らなければならない、だとか現実的な過ちを私が知らずのうちに犯しているのではないだろうか、という不安だった。
しかし、それにしては、周りの者が何も言わないことの説明がつかない。
そんなに私の風貌が恐ろしいのだろうか。
そんなに私の気質に怯えているのだろうか。
客観的に見ても、いたって一般人である私である。そんなことは考えにくい。
とすれば、いったい、なぜ、誰も私の後ろに並ばないのだろう。
途端ありもしない空想が私の頭をよぎった。
もしかすると、ここは不吉な場なのではないか。
誰も触れることのできない忌むべき場とでもいうのだろうか。
それならば、なぜ、なぜ、封鎖をしないのだろう。
お前らが総じて、口裏を合わせたかのように、怯え、必死に蓋をしようとするものを、なぜ、そのままに放置する。
たかが迷信に振り回されるわけにはいかない?ふざけるな、お前らが、総じて、示し合わせたかのように、無視を貫くならば、それは、今この場に限っては、事実として具現化してしまうのだ。
嗚呼、不吉な妄想は留まるところを知らなかった。徐々に、徐々に、私の精神は蝕まれていき、終いには、最初の妄想が現実であれば、などと考えるまでになってしまった。
後数分後には何が起こるのだろうか。
いったいどちらの妄想が正しいのだろうか。
もうよい。列車よ。早く来るがよい。早く来て、私の悪夢をどうか終わらせ給へ。

祈りが通じたのだろうか。
普段通りの希望の汽笛が鳴り響いた。
そうだ。何事も起こるはずないに決まっている。馬鹿馬鹿しい妄想をしたものだ。
また新たな話のタネができたなあ。
カンカンカンカン。
とうとう列車が視界に入った。
同時に私は自分の考えが間違っていなかったことを悟った。
嗚呼、こういう時に限って私の妄想は当たるらしい。
つまらぬ人生よ、サラバ。

------昨夜未明、身元不明の男性の遺体が線路沿いにて発見されました。男性は首を切断されており、警察は殺人事件として調査を進めるとのことです。続いては…………
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