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都会より田舎がいいな
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「ん、んんー…空気がうまい」
俺は深呼吸をし軽く背伸びをする。
田舎。
それは都会の対義語とも言えるだろう。
自然が多く、人工物が極端に少ない。
交通の便も悪く、生活用品の買出しも一苦労。
しかし都会に住んでいると、こういう田舎に憧れたりもする。実際俺はその一人だ。
そして俺達BEASTの皆と月子は今、そんなthe田舎な場所へと訪れている。
天月郡夜兎神村。
交通機関はバスのみ、そのクセして三時間に一本しかない。
何故俺がここまで詳しいのか、それはまたいずれ明らかになるだろう。
ところで━━
「兄さん?最近語り癖が酷くなってるよ?」
「き、聞こえてたのかっ!?」
声に出てしまっていたか…BEASTの連中にも寒い目を向けられていた。
「と、ところで冴華さん、今回の合宿って結局どんな所に泊まるんですか?」
俺はとっさに話題を変える。
「たしかに、当事者である私達に何も言ってないじゃないですか?」
やれやれといった感じで萌木先輩が言う。
よかった、話題が変わった…。
「あ、大丈夫です。後程たっぷり話題にしますので」
「心を読むなよう!!」
「まぁそれはいいとして、本当にどこなのですか?」
すると責任者(仮)である冴華さんが自慢げに胸を張った。
「うむ、実は知り合いが旅館を経営していてだな、遊びに来てと言われたのでどうせならお前らも、と誘ったのだ」
そう言い終えると冴華さんはとある冊子を鞄から引きずり出した。
「ほれ、これがパンフレットだ。中々良さげだろう?」
「あ、ホントですね」
冴華さんの隣に座っていた真白ちゃんが写真を見て感嘆の声を上げる。
それと共に皆もそれを見るためわらわらと集まる。
・・・って誰だ足蹴ったの。
ワイワイとしていても特別注目はされなかった。
何故なら誰も居ないからである。
偶然か?俺は少し思ったが、無駄だと思い思考を戻した。
「夜兎神村…か」
「懐かしいね、兄さん」
写真を見るための群がりから逃れた月子がそう俺に言葉を掛ける。
「と言っても、そんなに覚えてはないけど…」
少し悲しげな表情で月子が呟く。
「思い出なんて、これから作ってけばいいさ…そしたらその内、いつかひょっこりと現れるって。記憶ってもんはさ」
「何それ…でも、ありがと…」
「おう」
俺はそう言うと月子の頭に手を置いた。
「二人共ー置いて行きますよー」
歩き出してから俺達がいないことに気付いたのであろう萌木先輩が、遠くからそんな言葉を放つ。
「今行きまーすっ!!」
俺達は皆の元へと走って行った。
『おぉー』
旅館に到着した俺達は揃いも揃って目を丸くしていた。
「なんか写真で見たより豪華ですね…」
「正直ビックリしました…」
と、各々が感想を告げている。しかしそれは全員同じような内容だった。
すると中から女将さんらしき女性が出てきた。
「当旅館の女将です」
着物を綺麗に着こなしている女将さんは丁寧に一礼をした。
「今日からお世話になります、萌木嶺奈です」
それに対抗するかの如く萌木先輩も礼儀正しく接する。
「これは丁寧にどうも。久しぶりねさえちゃん、お父さんはお元気?」
「あ、はい。もうそれは元気も元気で…あ、こっちは繭沢雅ちゃん、んでこっちは更科真白、そしてこの二人が紗那月刄と月子ちゃん兄妹」
「紗那…?」
俺と月子の名字を聞いた女将さんは少しばかりこちらを見つめていた。
そういうことか…。
「初めまして女将さん、俺は定臣さんの甥です」
そう俺が口にすると女将さんの顔が明るくなった。
「まぁまぁやっぱりそうですかぁ…瀬那さんの親戚の方でしたかぁ、ゆっくりしていってくださいね」
『??』
俺と女将さんとのやり取りに月子を含めた皆が首を傾げていた。
「広い…」
雅がそんな言葉を口にした。
それもそのはず、俺達が泊まる部屋が物凄く広いのだ。
それはもうVIPルームなのではと思うほどに。
田舎な分土地が安いからね、等と女将さんは言っていた。
「しかし、このような所に私達が泊まってもよろしいのですか?」
「いいんですよ、中々お客さんは来ませんからねぇ…でもその分静かで落ち着けるとは思いますよ?」
『たしかに…』
皆が一斉に頷く。
そう、今は昼間だと言うのにすごく物静かなのだ。
名古屋では有り得ないことだ。
「んじゃ荷物を置いた後、しばらく自由行動という事で」
そう冴華さんが仕切った。
珍しくそれに反論する者はいなかった。
ミーンミンミンミン…
蝉時雨、そんな言葉を連想させるような蝉達の大合唱。しかし普段名古屋で聞く蝉の声より、何だか爽やかに感じられた。
それもまた田舎のいいところの一つなのだろう。
「兄さんどうしたの?そんな所で」
「ん、いや…戻って来たんだな、と思ってさ」
「そうだね…」
「し、しかしここの女将さんは、定臣さんの事知ってたんだな」
「う、うん、だね…」
途切れ途切れな会話。
別に気まずい訳では無いのだが、何故だか言葉が出てこない。おそらく月子もそんなとこだろう。
「今年は、楽しい夏にしような」
「うん…」
心なしか月子の表情が微笑みに変わった。
俺が見つけ拾った言葉、それはどうやら月子の胸にもちゃんと届いたようだ。
それが今の俺には、とても嬉しく思えた。
プルルル…
「ん?」
俺の携帯にメールが届いた。
届け主は冴華さんだ。
内容は、
「昼飯だ。即集合されたし。だと」
「フフッ…」
「さ、行くか」
「うん!」
月子に笑顔の花が咲いた。
しかしその度に俺は思い出してしまう。
あの夜の出来事を━━
俺は深呼吸をし軽く背伸びをする。
田舎。
それは都会の対義語とも言えるだろう。
自然が多く、人工物が極端に少ない。
交通の便も悪く、生活用品の買出しも一苦労。
しかし都会に住んでいると、こういう田舎に憧れたりもする。実際俺はその一人だ。
そして俺達BEASTの皆と月子は今、そんなthe田舎な場所へと訪れている。
天月郡夜兎神村。
交通機関はバスのみ、そのクセして三時間に一本しかない。
何故俺がここまで詳しいのか、それはまたいずれ明らかになるだろう。
ところで━━
「兄さん?最近語り癖が酷くなってるよ?」
「き、聞こえてたのかっ!?」
声に出てしまっていたか…BEASTの連中にも寒い目を向けられていた。
「と、ところで冴華さん、今回の合宿って結局どんな所に泊まるんですか?」
俺はとっさに話題を変える。
「たしかに、当事者である私達に何も言ってないじゃないですか?」
やれやれといった感じで萌木先輩が言う。
よかった、話題が変わった…。
「あ、大丈夫です。後程たっぷり話題にしますので」
「心を読むなよう!!」
「まぁそれはいいとして、本当にどこなのですか?」
すると責任者(仮)である冴華さんが自慢げに胸を張った。
「うむ、実は知り合いが旅館を経営していてだな、遊びに来てと言われたのでどうせならお前らも、と誘ったのだ」
そう言い終えると冴華さんはとある冊子を鞄から引きずり出した。
「ほれ、これがパンフレットだ。中々良さげだろう?」
「あ、ホントですね」
冴華さんの隣に座っていた真白ちゃんが写真を見て感嘆の声を上げる。
それと共に皆もそれを見るためわらわらと集まる。
・・・って誰だ足蹴ったの。
ワイワイとしていても特別注目はされなかった。
何故なら誰も居ないからである。
偶然か?俺は少し思ったが、無駄だと思い思考を戻した。
「夜兎神村…か」
「懐かしいね、兄さん」
写真を見るための群がりから逃れた月子がそう俺に言葉を掛ける。
「と言っても、そんなに覚えてはないけど…」
少し悲しげな表情で月子が呟く。
「思い出なんて、これから作ってけばいいさ…そしたらその内、いつかひょっこりと現れるって。記憶ってもんはさ」
「何それ…でも、ありがと…」
「おう」
俺はそう言うと月子の頭に手を置いた。
「二人共ー置いて行きますよー」
歩き出してから俺達がいないことに気付いたのであろう萌木先輩が、遠くからそんな言葉を放つ。
「今行きまーすっ!!」
俺達は皆の元へと走って行った。
『おぉー』
旅館に到着した俺達は揃いも揃って目を丸くしていた。
「なんか写真で見たより豪華ですね…」
「正直ビックリしました…」
と、各々が感想を告げている。しかしそれは全員同じような内容だった。
すると中から女将さんらしき女性が出てきた。
「当旅館の女将です」
着物を綺麗に着こなしている女将さんは丁寧に一礼をした。
「今日からお世話になります、萌木嶺奈です」
それに対抗するかの如く萌木先輩も礼儀正しく接する。
「これは丁寧にどうも。久しぶりねさえちゃん、お父さんはお元気?」
「あ、はい。もうそれは元気も元気で…あ、こっちは繭沢雅ちゃん、んでこっちは更科真白、そしてこの二人が紗那月刄と月子ちゃん兄妹」
「紗那…?」
俺と月子の名字を聞いた女将さんは少しばかりこちらを見つめていた。
そういうことか…。
「初めまして女将さん、俺は定臣さんの甥です」
そう俺が口にすると女将さんの顔が明るくなった。
「まぁまぁやっぱりそうですかぁ…瀬那さんの親戚の方でしたかぁ、ゆっくりしていってくださいね」
『??』
俺と女将さんとのやり取りに月子を含めた皆が首を傾げていた。
「広い…」
雅がそんな言葉を口にした。
それもそのはず、俺達が泊まる部屋が物凄く広いのだ。
それはもうVIPルームなのではと思うほどに。
田舎な分土地が安いからね、等と女将さんは言っていた。
「しかし、このような所に私達が泊まってもよろしいのですか?」
「いいんですよ、中々お客さんは来ませんからねぇ…でもその分静かで落ち着けるとは思いますよ?」
『たしかに…』
皆が一斉に頷く。
そう、今は昼間だと言うのにすごく物静かなのだ。
名古屋では有り得ないことだ。
「んじゃ荷物を置いた後、しばらく自由行動という事で」
そう冴華さんが仕切った。
珍しくそれに反論する者はいなかった。
ミーンミンミンミン…
蝉時雨、そんな言葉を連想させるような蝉達の大合唱。しかし普段名古屋で聞く蝉の声より、何だか爽やかに感じられた。
それもまた田舎のいいところの一つなのだろう。
「兄さんどうしたの?そんな所で」
「ん、いや…戻って来たんだな、と思ってさ」
「そうだね…」
「し、しかしここの女将さんは、定臣さんの事知ってたんだな」
「う、うん、だね…」
途切れ途切れな会話。
別に気まずい訳では無いのだが、何故だか言葉が出てこない。おそらく月子もそんなとこだろう。
「今年は、楽しい夏にしような」
「うん…」
心なしか月子の表情が微笑みに変わった。
俺が見つけ拾った言葉、それはどうやら月子の胸にもちゃんと届いたようだ。
それが今の俺には、とても嬉しく思えた。
プルルル…
「ん?」
俺の携帯にメールが届いた。
届け主は冴華さんだ。
内容は、
「昼飯だ。即集合されたし。だと」
「フフッ…」
「さ、行くか」
「うん!」
月子に笑顔の花が咲いた。
しかしその度に俺は思い出してしまう。
あの夜の出来事を━━
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