王国再興物語 〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

文字の大きさ
57 / 93

望まぬ故郷の姿

しおりを挟む
 数日後。
 俺達はアナテル国についた。
 しかし、その光景は前に見た光景とは全く違っていた。
 襲撃を受けてからまだほんの数日だというのに街は破壊され、みる影もなかった。
 遠くに見える城もボロボロである。
「レイン。大丈夫か?」
「ええ。」
 そうとはいったが、大丈夫ではないだろう。
「……敵は少数だ。民を全員殺すには、時間がいる。民を何ヵ所かに分けて拘束し、本国からの増援を待ってから処刑を始めるんだと予測している。」
 だが、勿論ただの予測で、そうではない可能性のほうが高い。
 だが、レインの気が少しでも落ち着けばそれで良い。
「ありがとう。でも、本当に大丈夫。私は冷静だから。」
 するとレインは振り返り、船員に号令を出す。
「総員上陸用意!本船は着岸するな!小舟で岸へと向かう!」
 沿岸を見ると船の残骸が見てとれる。
 アナテルは耐火性の優れた船で知られている。
 相手にはこの船を燃やす術があるというのなら、本船は遠くにおき、小舟で上陸した方が良い。

 俺達は難なく上陸することが出来た。
 妨害があるかもと構えてはいたが、まずは大丈夫なようである。
「アルフレッド様!あれを!」
 セラが指を指す方向を見ると人が磔にされていた。
 それも1人ではなく、何十人もである。
 全員が、串刺しにされたり、腹から下がなかったり等とても人がすることとは思えないものである。
「なんてことを……。」
 この様子にはゼイルも声を上げる。
 民の味方である冒険者としては苦しい状況だろう。
「……これは?」
 マインが磔の現場の地面に何かが書かれていることに気づいた。
 俺も近くへといき、文字を読む。
 地面には見覚えのある文章が書かれていた。
「民の模範たれ、か。」
 文字は比較的新しかった。
 罠の可能性もある。
 が、今は信じるしかないだろう。
「向かう先は決まったな。」
「まぁ、そういうことか。」
 ゼイルは腕を組み、納得したようだ。

「ここだ。」
 ゼイルに導かれた先は冒険者ギルド、アナテル支部であった。
 ゼイルは建物の中へと入っていく。
「っ!誰だ!」
 建物へ入るや否や、いきなり武器を突きつけられる。
「S級冒険者のゼイルだ。」
「双蛇の!?……と、いうことは味方か。」
 武器を突きつけた者達は見るからに冒険者と言った装いである。
 冒険者ギルドは世界各地に支部がある。
 こういった緊急時には、避難所にもなるのだ。
「状況を説明してくれ。」
「はい。わかりました。」
 現場のリーダーとおぼしき、若い男性が説明を始める。
 まず、襲撃を受けてから、付近の人たちの救助に当たったとのことだ。
 ここのギルドに所属していた者は一番上でB+級冒険者だった。
 その他の者も救助活動をしていたのだが、実力不足と人材不足で限界があり、付近の者しか助けられなかったとのことだ。
 確かにギルドの中には数名の一般人がいた。
 ギルドの冒険者も数名犠牲者が出たようで、救助が来るのを待っていたとのことだ。
「しかし、よく俺たちが来ることが分かったな、あの暗号は冒険者にしかわからん暗号だ。ということは俺が来ると知っていたんだろ?」
 民の模範たれとは冒険者のモットーであると同時に緊急時にはギルドへ集合という意味にもなるらしい。
「ええ。ある人の情報のお陰でね。」
 すると、リーダー格の男はレインの方を見た。
「……こちらへどうぞ。レイン様。アルフレッド様。」
 レインは案内されるがまま、ついていく。
 正直信用しきって良いのかわからないのだが、ついていくしかない。

「お父様!?」
「おお!レイン!会いたかったぞ!」
 案内された部屋にはベッドに横たわるレノン王の姿があった。
 が、その姿は最後に見た姿ではなく、右手と左目を失った状態だった。
「……一体、どうされたのですか?」
「おお、アルフレッド。いや、実はな少し本気を出して、バイゼルとあのリンとランとか言う双子と戦ったんだがな。」
 さらっとすごいことを言った。
 1対3しかも相手はセインを苦しめたほどの相手である。
「あの双子には重傷を負わせられたんだが、バイゼルは逃がしてしまってな。」
 ハハハと笑うレノン王。
 何より辛いのは自分だと言うのに。
「そのお体は?」
「あぁ。腕はランの大剣にやられた、目についてはリンの射撃をかわしたつもりが、丁度目の辺りをかすってな。それで見えなくなってしまったんだ。」
 しかし、よく生きていたものだ。
「とにかくご無事で何よりです。」
「ええ、本当に。」
 するとレインはレノン王に抱きつく。
「お、おい。」
「生きていてくれてありがとう……。」
 後ろ姿からも泣いているのが分かる。
 この場は親子二人だけにしておこうと思い、その場を後にした。
 
 俺は先程のギルドの人間のところへ戻った。
 話を聞くと、レノン王は一人であの3人相手に善戦し、戦闘の音を聞き、集まってきた敵の雑兵も倒しながら戦っていたとのことだ。
 そのお陰で敵は城へ退いたらしい。
 捕えていた民とともに。
「つまり、俺達の今後の行動は城へ向かうことだな。」
 今生き残った民は城にいると言うことだ。
「……1つ懸念点がある。」
 俺は声を上げた。
「話の中でジェラルドの名前が出てこなかった。その動向は掴めていないのか?」
 冒険者達は顔を見合わせる。
 しかし、首を縦にふる者はいなかった。
「すまんな。」
「いや、いいんだ。それならそれで対策のしようはある。」
 出来ればもう二度と戦いたくは無いのだが。
「敵は少ないが、全員が手練だ。ギルドは手を貸してくれるのか?」
 ゼイルは貸してくれるのだろうが、出来ればこの人達の力もほしい。
 今は一人でも多い方が良い。
「ここの守りもあるし、逃げた囚人の対処もしなくてはならない。すまないが、人手を貸すことは出来ない。」
「いや、いいんだ。」
 まぁ、元々俺達だけでやる予定だったんだ。
 なんの問題もない。
 さぁ、奴らに奴等に死よりも恐ろしい経験を与える作戦を考えなくてはな。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ
ファンタジー
 年収が低く、非正規として働いているため、決してモテない男。  それが、この物語の主人公である【東龍之介】だ。  そんな30歳の弱者男は、飲み会の帰りに偶然立ち寄った神社で、異世界へと移動することになってしまう。  異世界へ行った男が、まず出逢ったのは、美しい紫髪のエルフ少女だった。  彼女はエルフの中でも珍しい、2柱以上の精霊から加護を受けるハイエルフだ。  どうして、それほどの人物が単独で旅をしているのか。彼女の口から秘密が明かされることで、2人のワークライフがはじまろうとしている。 ※この物語で使用しているイラストは、AIイラストさんのものを使用しています。 ※なかには過激なシーンもありますので、外出先等でご覧になる場合は、くれぐれもご注意ください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...