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従者と冒険者

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「いい加減どうにかしないと行けませんね。」
「ああ、そうだな。」
 我々は現在、帝都にて帝都守備隊と交戦を続けていた。
 今は敵が攻めてきていないので、休息中だがいつ攻めてきてもおかしくない状況で兵達は疲弊していた。
 更に、敵は少数なのかゲリラ戦を繰り広げてきており、苦戦を強いられていた。
 アルフレッド様達の捜索もあるので、こんなところで時間を食っている暇は無いのだが。
「ところで、ゼイル殿はお子がいらっしゃるとか?」
 前々から気になっていたのだ。
 噂では聞いたことがあるのだが、彼の家族については詳しくは聞いたことがなかった。
「ああ。血の繋がった息子と保護した転生者が養子になりたいと言ってきて断りきれずに3人の娘も出来てしまった。」
 どこか面倒臭そうに言うが、嬉しそうにも見える。
 彼は転生者を保護し、いずれはアルフレッド様の元で活躍できるように教育していたらしいのだが、愛着がわいたのだろう。
 そして、彼の性格もあってか好かれてもいるのだろう。
「今は何を?」
「3人の娘は俺に憧れたのか冒険者になって独自に教団を追っていて、息子は家を守っている。妻が早世したからか、あいつはしっかり者で本当に助かっているよ。」
 彼の娘は独自に教団を追っているということはいずれ会うことがあるかもしれない。
 一応覚えておくとしよう。
「で、これからどうするんだ?」
「ああ、そうでしたね。一応考えてはいたんです。ですが……。」
 正直名案とは思えない。
 危険過ぎるからだ。
「聞かせてくれ。」
「……わかりました。」
 否定される前提で言ってみるとしよう。
「我々だけで皇帝の首を取ります。」
「皇帝の首を!?」
 驚くのも無理は無い。
 正直、今急ぐ必要はないのだ。
 待っていればいずれ味方がくる。
 待てば確実に勝てるのだ。
「理由を聞いても?」
「はい。我々が動かずに味方の援軍を待ってもこの戦は勝てるでしょう。ですが、霧の牢獄に捕らわれている3人が無事という保証はありません。霧の牢獄を使ったと言うことはここで仕留めるつもりだということです。楽観視は出来ません。」
 だが、アルフレッド様1人のためにここにいる兵達を危険にさらすことにもなる。
 勿論否定されると思うが、私はアルフレッド様の従者として、アルフレッド達の身の安全を第一に考えるのだ。
「よし。分かった。だが、どうやって皇帝の首を取る?」
「……え?」
 思わず疑問を口にしてしまう。
 否定されるとばかり思っていたからだ。
「どうした?」
「い、いえ。良いのですか?こんな我が儘にも近いことを。」
 するとゼイルは笑って返す。
「はは、実は俺も同じことを考えていてな。まぁ、根本的な理由は違うんだが。俺は帝国が決戦に勝利している場合を想定したんだ。」
 確かにそこは盲点であった。
 勝てる確証はないのである。
 圧倒的に有利でも負ける要素も充分にある。
「そうなったら帝国軍が大量にここに押し寄せて来て俺たちは挟み撃ち。全滅だ。」
 それが最悪の結末だろう。
 それだけは避けなくてはならない。
「流石はS級冒険者。恐れ入ります。」
「いや、よしてくれ。これは冒険者だから、というか前職の方が大きいだろうしな。」
 恐らく従軍経験があるという所に引っ掛かってくるのだろう。
「で、作戦はどうする?」
「そうですね。まずは帝都守備隊を一ヶ所に釘付けにしておきたいです。その隙に精鋭部隊で帝城に侵入し、皇帝の首をとる。というような感じで考えています。」
 するとゼイルは笑い、肯定する。
「おお。俺も大体同じ感じで考えていた。だとすれば敵の襲撃を待つしかないな。」
「はい。今のうちに精鋭部隊の選別もしておきましょう。」
 その後、敵の襲撃を警戒しつつ作戦を立てた。
 銃を使える部隊は本来ならば精鋭部隊に組み込みたかったが、数が少ないのと敵に気取られないようにするために本隊に残すことにした。
 本隊の指揮はアナテル軍の者に任せて、ゼイル殿と自分、その他よりすぐり精鋭を選別した。
 数は100ほどの部隊を3つほど作り、複数箇所から城へ侵入。
 自分とゼイル殿は同じ部隊に配し、本命とし他は陽動とする。
 肝心の突入方法だが、事前に盗賊ギルドの者がこういうこともあろうかと調査してくれていたようで、地下水路を通じて侵入出来るらしいので、それを使うことにする。
 無論、城にも敵の守備隊がいるだろうが、それは陽動もあるが、自力で突破するしかない。
「まぁ、こんなところでしょうな。」
「はい。多少不安なところもありますが、これ以上精鋭部隊を増やせば気取られる可能性があります。これが限界でしょう。」
 するとゼイルは立ち上がった。
「よし!そうと決まれば早速準備だな!」
「はい。選定した者達に声をかけておきましょう。決行は次の襲撃の時にしましょう。」
 作戦は決定した。
 後は敵の襲撃を待つのみだ。
(若。もう少しだけお待ち下さい。皇帝の首さえ取ればこの戦は終わります。私がこの戦を終わらせてみせます。)
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